yuuの夢物語

夢の数々をここに語り綴りたい

ごぜさの子守歌・・・完

2007-12-04 13:33:56 | 創作の小部屋
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ごぜさの子守歌

16
 少年の入れられている納屋に一匹の狼が近づいていました。少年は縄を歯で咬み切ろうとしていました。その時、少年の耳に三味の音が聞こえてきたのでした。少年は縄を咬み切るのを止めて、耳を傾けました。その音はいっかどこかで聞いたことがあると思ったのでした。その音は、外の狼が戸に身体をぶつける音で聞こえなくなりました。少年は縄を咬み切って戸の外へ出ました。長太も三味の音を聞いて外へ出てきたところでした。少年は山の方へ逃げようとしました。

「逃げたらいかん、逃げるな」

 その声に名主も村人とも出てきました。

  少年と狼が逃げようとする前に、お菊が立ちふさがりました。少年はお菊に飛びかかりました。お菊は手に持っていた撥を横に振りました。少年は胸を切られてその場にうずくまりました。

「お菊さん!」

 名主は思わず大きな声で叫びました。

 お菊には何が起こったか分かりませんでした。見守るために自然に手が動き、何かを切った手ごたえはありました。少し離れたところで、苦しそうなうめき声がきこえて来ました。村人が近寄って来ました。狼は逃げよぅてもせず、少年の胸から流れる血を舐めて止めようとしていました。名主と長太、村人は狼の姿を呆然と見つめているだけでした。

 名主はお菊に何にも言えませんでした。

 狼は少年を助けながら、少年も狼の背にもたれかかるようして、山の中へと消えていきました。

「大はどこです。未だ山ですか、助けてくれたのではないのですか」

 お菊はうわずった高い声で尋ねました。

 名主も長太も答える言葉がありませんでした。お菊はこの場の雰囲気に気づき、

「それでは、今、私にぶっかって来た・・・。そうなんですね、大だったんですね。私の子の大であったのですね」

 お菊は必死に問いました。

「そうじゃ、ぶかって行ったんがお菊さんの子じゃ。胸に赤い痣があったからな」

「それではどこえ、今どこえ」

「傷口を狼が舐めて、血を止めて、山に連れて帰った」

「それでは、この私が、私の子を、大をこの撥で傷つけたのですか、この撥で・・・。私はどうすれば・・・」

 お菊はその場にどっと泣き崩れました。

「お菊さん、子を想う母の心はようにわかるが、少年の傷口を懸命に舐めとる狼の姿が、私等を無力にしたんじゃ。その姿はまるで親と子のよぅに見えた。愛の姿に見えた」

「それでは、私はどうなるんです。ようやく逢えようところだったのに」

「お菊さん」

 名主は小さい言葉を落としますた。

「大!だい!」と、叫びながら走りだしました。

「お菊さん、少年は山での生活の方が幸せじゃ。どこかで生きとる、そう思うて、あんたも強く生きてくれ。もう私等にはなにも出来ん」

 名主はお菊の後を追ながら言いました。

 お菊は山の中には入り、

「大!だい!かあさんはこの私よ。狼の中での生活のほうが本当に幸せなの・・・」 

「お菊さん、あんたの心は痛いほどわかる。子供を抱き締めたい親心もようにわかるが・・・。もう後には戻らん。これからは強く生きてくれ」

 お菊は、大がいるであろう山の辺りを見えない目できっと見つめ、背筋をしゃんと伸ばして、三味を弾き始めました。両眼から涙がほとばしっていました。

「大よ、幸せになれ。大よ、元気に生きろ。この三味の音が聞こえたら、この音を覚えていたら、どうか答えて」

お菊はあらん限りの力を振り絞り、想いを音に込めて、大に届けと弾きました。

「激しく弾かれる三味の音は、自然が人間に対して挑戦してくる厳しさと、それに耐える心を教えなくてはならん。干き返す波のよぅな音、人間の弱さ、哀しさを感じ取らせなくてはいかん。そして、その音を弾く者は、どんなに辛ろうても哀しゅうても、それを乗り切らんといかん。負けたらいかん」

 親方の声が三味の音に重なり、お菊の耳に届きました。

「大よ、幸せに生きてね。私はどこにいても大のかあさんよ。狼の中の方が幸せならばそれでもいい。どうか、この、私の三味の音に答えて・・・」

 青く透きとうるような夜空には月が煌煌と輝き、山に光を降りそそいでいました。

 お菊の弾く三味の音が奥深い山の中に吸い込まれていきました。

 その時、狼達の遠吠えが三味の音に答えるように、聞こえて来ました。

 お菊の耳には「お母さん」と、聞こえていました。

                     おわり


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皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・

恵 香乙著 「奏でる時に」
あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。

山口小夜著 「ワンダフル ワールド」文庫本化決定します・・・。
1982年、まだ美しかった横浜―風変わりなおんぼろ塾で、あたしたちは出会った。ロケット花火で不良どもに戦いを挑み、路地裏を全力疾走で駆け抜ける!それぞれが悩みや秘密を抱えながらも、あの頃、世界は輝いていた。大人へと押しあげられてしまったすべての人へ捧げる、あなたも知っている“あの頃”の物語。

山口小夜著「青木学院物語」「ワンダフル ワールド」の文庫本・・・。

作者のブログです・・・出版したあとも精力的に書き進めています・・・一度覗いてみてはと・・・。
恵 香乙さん

山口小夜子さん

環境問題・環境保護を考えよう~このサイトについて~
別の角度から環境問題を・・・。
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ちぎれ雲さん


ごぜさの子守歌・・・15

2007-12-04 01:14:51 | 創作の小部屋
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ごぜさの子守歌

15
 それから四年の歳月が流れました。

 長太の村の秋祭りもすんで、もうすぐ雪の季節になろうとしている夜のことでした。長太は隣村まで用事で出掛け、遅くなり帰りを急いでいました。

 その時、遠くで狼達の吠えるのが聞こえてきました。長太は怖くなり足を早めました。西空には二十日月が山山を照らしていました。長太は、狼が岩の上に群れをなして、月に向かって吠えているのを見たのでした。その中に少年がいたのでした。月の光は、はっきりと少年を映しだしていました。 長太は家に帰り父に言いました。

「狼の群れの中に少年がいた」

「そんな馬鹿なことがあるか」

 名主は最初は取り合いませんでした。

「あの少年は、ごぜさの子では」

「あの、お菊さんの子だと言うのか」

「そう思うた」

「そう言うこともあるな。よし、無駄でもいい村の者を集めて、その子を助け出そう」

 と、名主は言いました。

 次の日、使いの者を隣村へと走らせました。どこの村でも、お菊の子供のことは知っていましたから、村から村へと伝わり、どこにお菊がいても耳に届くと名主は考えたのでした。

 山は燃えるような紅葉でした。風は山肌を駆け上がり、木立ちを鳴らせていました。紅葉が風に舞って落ちている姿は、まるで赤い雪が降っているようでした。

 村人は二人、三人と組になって山に入って捜しましたが、なかなか見付け出すことは出来ませんでした。

「あんたの子供さんらしい少年が、狼の群れ中にいたと、山もんが伝えてきた」

 と、お菊が海辺の村に立ち寄った時に聞かされました。お菊は夢ではなかろうかと思いました。

「生きていてくれた、生きて元気に・・・」

 お菊は目に涙を一杯に浮かべて、山への道を急ぎました。大の姿が見たい、いや、抱き締めて大きくなった身体を確かめたいと思いました。

 その頃、村人は落とし穴を掘り、その上に餌を置いて罠をしかけていました。少年は餌を取ろうとして穴に落ちて捕まりました。

「名主様、納屋に入れて置いて大丈夫で」

「とは言っても頭の髪は肩まで垂れて、身体には毛が一杯におおい、わし等を見る目は鋭く光って、身ぶるいがでるほど怖いぞ」

「でも、あの少年をお菊さんはどうするんじゃろう。六年も、狼の中で生きとったんじゃから、人間じゃと言うても獣と同じじゃ。人間の生活に戻すには、お菊さんの手には負えんのじゃなかろうかのう」

「じょが、母と子じゃ。血がつながっとんじゃからどうにかなるじゃろうわい」

 と、名主は言いましたが、その顔は心配そうでした。



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