恋塚 横笛
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春霞が天野の里に満ち溢れております。この世の全てのものを包み込んでいるようでございます。胸に沁みこんで来る白い空気を一杯に吸い込みました。
この霞はあの時頼様の高野へも繋がっている。そう思うとなぜか心が安らぐので御座います。
「横笛」と言って霞の中にぼんやりと一人の僧が現われじっと私を見つめていてくださるのです。
「時頼様」小さく声を落とします。
この心の張り裂けんばかりの高鳴りは・・・。
このときに女であることを感じるので御座います。墨衣を全て取り除いて飛び込んで行きたい、そんな衝動に駆られるのでございます。膝座間付き両の手を胸の前に合わせるので御座います。
朝の霞の中でのこのひと時がこの天野の里へ来て持つことの出来た幸せなので御座います。
妄想・・・。いいえ現実なのです。
今ではしっかりと時頼様のお顔を覚えておりますもの。お声も・・・。凛々しいお姿も・・・。
私の中ではっきりと捉えることが出来るのでございます。
空の色が変わっていくと霞は潮が引くように消えていきました。
一人庭に伏す私の姿が、まるで露が明かりに奪われるように、思いも消えてなくなってしまうので御座います。
深い緑の空がだんだんと薄い緑に変わり黄色に移り青に目覚める、そんな自然の生業を恨めしく眺めながら、簡単な仏壇に向かって朝のお勤めをいたすので御座います。
時頼様の恙無きご無事をただ祈るので御座います。
それが終わりますと、朝餉の用意をいたし、漬物と粥を戴くのでございます。
皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・
恵 香乙著 「奏でる時に」
あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。
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1982年、まだ美しかった横浜―風変わりなおんぼろ塾で、あたしたちは出会った。ロケット花火で不良どもに戦いを挑み、路地裏を全力疾走で駆け抜ける!それぞれが悩みや秘密を抱えながらも、あの頃、世界は輝いていた。大人へと押しあげられてしまったすべての人へ捧げる、あなたも知っている“あの頃”の物語。
山口小夜著「青木学院物語」「ワンダフル ワールド」の文庫本・・・。
作者のブログです・・・出版したあとも精力的に書き進めています・・・一度覗いてみてはと・・・。
恵 香乙さん
山口小夜子さん
環境問題・環境保護を考えよう~このサイトについて~
別の角度から環境問題を・・・。
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