yuuの夢物語

夢の数々をここに語り綴りたい

小説 秋の路・・・1

2008-05-03 18:44:23 | 創作の小部屋
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この作品は省三33歳からの軌道です・・・。ご興味が御座いましたら華シリーズもお読み頂けましたらうれしゅう御座います・・・お幸せに・・・。

秋の路 (省三の青春譚)
秋の路 枯れ葉踏む道は 果てしなく遠くても・・・。


 秋の路

1

 省三は何度か芳子を送っていった。その都度肩を抱くだけだった。公演が終わったらどうなるのだろうと思った。
 芳子はそれ以上を望んだが、前には進まなかった。


        石井は思い余って飛び出してきて、二人の後ろ姿
        を見送る。
石井  花江ちゃん、雄三ちゃん・・・{小さく言った}
文造  見たか、子供達は心に大きな傷を持っていても、それを乗り越えようとしているではないか。
石井  {聞こえない振りをして、蒜山三座に視線を投げて}綺麗、若い木立ちが芽を吹いていて。
文造  懐かしいか。
石井  以前と少しも変わっていないわ。
文造  人間の心だけが変わったと思うか?
石井  それは・・・
文造  来て良かっただろう。家に閉じ篭もっていては身も心も滅いるだけだ。なにもかも忘れさせるためにここへ連れてきた。
石井  {教室の中を見渡している}・・・
文造  長太君の笑顔を思い出してみろ。
石井  お父さん、言わないで・・・
文造  おまえの心にそんなに深く重く・・・だから、ここで解決して欲しいのだ。出発した時の心で、場所で、あの頃のおまえに帰って欲しいのだ。
石井  ここには余りにも悲しいことが沢山有り過ぎます。
文造  分かっている。あの時は本当の事を言ってはいけない時代であった。{遠くを見つめて}私にだって、おまえと同じように深い悔恨はある。私が多くの傷兵になんの手当ても施す事無く見送ったことが、軍医として殺人者だと言うのなら、そう呼ばれても仕方がない。が、しかし、手当てをしようにも薬と言われるものはなにもなかった。アルコールが少々それに綿、それだけで一体なにが出来た。助かると分かっていてもなにもしてやれなかった。ただ、手を握ってやりお座なりの元気付の言葉を投げてやることが精一杯だった。その時ほど、医者として辛い事もなかった。悔しいこともなかった。
 だから、お前が一人の教え子を引き止めることが出来なくて、死なしてしまった思いからくる苦しみや辛さは痛いほど分かるのだ。お前の純粋な心にその悲しみはくさびとなって打ち込まれていることだろう。が・・・何時までもその事に心を痛めていて一体なにが生まれると言うのだ。長太君を行かせたくはなかった。が立場上行くなとは言えなかった、そのために・・・
石井  あの時、先生が行くなと言うのなら行かないとはっきり言ったのです。今でも、あの時の声がこの耳に残っているんです。瞼に思い詰めた悲しそうな顔が焼き点いているのです。
文造  例え、お前が引き止めたとしても、校長や村長んが手続きを済ませていたと言うではないか。お前が止めていたら、非国民として憲兵に引っ張られ、より長太君を苦しめることになっていたかも知れないのだぞ。
石井  私はその方が・・・あの時の顔、あの時の瞳・・・
文造  忘れろとは言っていない。何時もその心を大切にして生きて欲しいのだ。
 私も、多くの死んでいった傷兵の顔を心の中に刻み、これからの医療を考えてゆく積もりだ。
 お前は、教職に戻れ。そうして、二度と不幸で悲しい物語を創るな。それがせめてもの、これから生きる人間の、いや生き残った人間の勤めであると私は考えるのだが。
石井  ・・・出来ません、今の私には・・・
文造  お前は、今のままで良いと考えているのか、そんな人生しか歩めんのか。それがお前の本心としたら寂しすぎる。そんな自分自身のたのにだけ生きるような考えを教えた覚えはない。もう一度教育の現場に立って過ちを償え。長太君のためにも教壇に立て。過ちを二度と起こさないためにも・・・
石井  お父さん・・・
文造  今のようなお前を見るのは辛い・・・お前に教育者への未練が無いのなら早く嫁に行け。行ってもろくな嫁にはなれんだろうが。
 私は思う。時代の流れ中で人間がどのように生きるか、そして、どのように生きたかを次の世代へ向けて語る、それが真の教育だと考えるのだが。
石井  お父さんのように、私は強くもないし、勇気もありません
文造  柳井中尉はお前に何と言った。
石井  お父さん・・・
文造  お前に、良い先生になってくれと・・・
石井  そう、良い先生に・・・明文さんが・・・
文造  そして、九段には来ないでくださいと。
石井  そう、九段には来るなと・・・
文造  その言葉の意味が分からんか?私は二度と戦争と言う愚かなことを起こすな。そして、教え子を二度と戦場に送るなと言う思いが込められていると読んだのだが。
石井  二度と戦争と言う愚かな事を起こすな。・・・教え子を二度と戦場に送るな・・・
文造  そうだ。お前は愛した人の志を受け継ぐ義務がある。そして、長太君を二人と出してはならんと言うことだ。
石井  長太君を二人・・・
文造  そのためにも教職へ戻れ。
        「さあ、昼飯にしょう。入った、入った」
        校長の声がして、校長、花江、健次、雄三、お雪
        、春子、杏子、その外子供達が入ってくる。
        石井、文造の背に隠れようとする。
校長  石井先生!
石井  {顔を横に向けて}お久しぶりでございます。その節はご迷惑をお掛けいたしました。
校長  いや、いや、なんの。あの時は身も心もぼろぼろにならん方がどうかしていたんです。{文造に}この度はすいませんでした。{頭を下げた}
文造  いや、こちらこそ。
        「先生」「石井先生」「せんせえ」と子供達はま
        ぶれついていく。
        石井、みんなを抱えるようにして。
石井  みんな、元気そうね。
花江  先生、学校に帰ってきて。
健次  そうじゃ。帰ってきてくれ、みんなと遊ぼう。
花江  遊ぶんじゃのぅて勉強するんじゃが。
雄三  そうだよ。
健次  なにを!
校長  こら、止めんか。そんなことを言うて喧嘩をしていたら、石井先生は戻って来てくださらんぞ。
春子  おとなしくして良い子になりますから、帰ってきてください。
健次  おらも、もうわるさはせんから・・
花江  そうじゃ、ええ子にならんといけん、悪さをしたらおえん
健次  チェ!なんじゃ、お花だけがええ子になってからに。
お雪  先生、帰ってきて。
石井  お雪ちゃん。
お雪  先生、うち、もう泣き虫お雪じゃねえけえ。
石井  お雪ちゃん{と言って抱く}
健次  おらも、もう、くよくよしとらんけえ。
石井  健次君、そうね、そうよね。
杏子  せんせい、かえってきて。
石井  あなたは?
花江  長太ちゃんの妹の杏子ちゃんじゃ。
石井  あなたが長太君の・・・
杏子  うん。
校長  今日、石井先生が来られると言うことでしたから・・・長太君のお母さんにも。もう、おつつけ来られるじゃろう。
石井  私は{逃げ腰になる}
文造  逃げるか、逃げて一生暮らすか。
        「先生」「せんせい」「せんせえ」と子供達が叫
        ぶ。
石井  {頷きながら}私を、私をそんなに、こんな私に・・・
        おせつ、登場する。
おせつ  先生様。
石井  お母さん。
おせつ  あん時は真にすいませなんだ。何にも知らんで・・・
石井  いいえ、あの時のお母さんのお気持ち・・・
おせつ  あん時、うちはどうにかしとったんですらぁ。先生様は、うちとの約束を守ろうとしてくださいましたこと、後で聞きましたで、何度、先生様のお宅へ足を向けたか知れませんのんですんじゃ。が、どうしても行けませなんだんですんじゃ。
石井  おかあさん!
花江  うち、あん時、先生から言われて、長太ちゃんを追い駆け、よう考えるよう先生が言われとると言うたもん。先生が目に涙を一杯に浮かべて言われとった顔を、うちは覚えとるもん。それを長太ちゃんに言うたもん。
石井  花江ちゃん。
花江  でも、そいでも、長太ちゃんはもう決めたと言うて走ったもん。
石井  花江ちゃん、もういいのょ、いいの・・・
花江  毎日毎日、冬になると履きもんをストーブで暖めてくれた、先生の心の暖かさは忘れんと言うて走ったもん。勉強の出来んわしをおそうまで教えてくれたことを忘れりゃあせんと言うて泣いて走ったもん。
石井  {花江の頭を抱いて}いいの、もういいの。有難う、有難う。
おせつ  先生様、勝手なお願いじゃが、杏子を長太と思うて教えてやってつかぁさい。{頭を深々と下げて}この通りじゃ、うちがわるうございやした。どうか、この子らのために帰って来てくだせえ。
        おせつ座り込んで何度も何度も言う。
        「帰って来て」「先生「せんせいかえってきて」
        子供達の声が飛びかう。
石井  おかあさん・・・許してくださるのですか・・・
おせつ  先生様、許すもゆるさんも・・・
        石井、おせつの手を握りしめた。
石井  皆さん、有難う。私はもう逃げません。どんなことがあろうと、私は子供達のために頑張ります。この子供達を辛い思いや、悲しい思いや、ひもじい思いをさせません。私はそのために闘います。その事がこれからの私の人生であるからです。私は教育者として、人間の道を教え、真実の言葉の意味、そして、真理を教えます。
  そのためにも、私はもう一度教壇に立ちます。
  もう、逃げるのはいやです。
                           暗転



(この小説は「十七歳の海の華」の続編である。彷徨する省三の青春譚である。
ここに草稿として書き上げます。書き直し推敲は脱稿の後しばらく置いて行いますことをここに書き記します)
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皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・。

恵 香乙著 「奏でる時に」
あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。

山口小夜著 「ワンダフル ワールド」文庫本化決定します・・・。
1982年、まだ美しかった横浜―風変わりなおんぼろ塾で、あたしたちは出会った。ロケット花火で不良どもに戦いを挑み、路地裏を全力疾走で駆け抜ける!それぞれが悩みや秘密を抱えながらも、あの頃、世界は輝いていた。大人へと押しあげられてしまったすべての人へ捧げる、あなたも知っている“あの頃”の物語。

山口小夜著「青木学院物語」「ワンダフル ワールド」の文庫本・・・。

作者のブログです・・・出版したあとも精力的に書き進めています・・・一度覗いてみてはと・・・。
恵 香乙さん

山口小夜子さん

環境問題・環境保護を考えよう~このサイトについて~
別の角度から環境問題を・・・。
らくちんランプ
K.t1579の雑記帳さん
ちぎれ雲さん



今日は晴天・・・。

2008-05-03 06:05:00 | Yuuの日記
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おはようございます・・・。
今日は晴天・・・朝日が昇りました・・・。25度の予想か・・・だがそれより高くなりそうであるが・・・。
ゴールデンウイークは
お休みをいただくかもしれません・・・。
今日が皆様にとっていい一日になりますように・・・。