リチャードは、立てかけてあった鳶口を手に取ると、鋭くとがったくちばしを、ひとつひとつ布で抜いていった。
「それじゃこの五丁だけ、もらって帰るよ。できあがってるうちに持って行かなきゃ、今度いつできあがるのかわかりゃしないからね」
へへ、と苦笑いしながら、リチャードは床に四丁の鳶口、そして仕上がったばかりのもう一丁を並べて置いた。
「バード、悪いけど、束ねておくれでないかい」と、オモラは前掛けをはずしかけていたバードに言った。
「はい、おかみさん」と、言いながら、バードはちらっと親方のリチャードをうかがった。どこかしら、不自然な優しさが感じられた。こういう時の親方は、注意しなくちゃな、とバードは胸の中でつぶやいた。
「おかみさん、五丁も大丈夫ですか?」
「ああ、平気さ。これでも山で働いているんだもの、このくらい持てなきゃ、明日から物乞いだよ」
「ぼくが持って行きましょうか」と、バードは言いかけたが、親方の姿が頭によぎり、「ぼく――」と言ったきり、すぐに口をつぐんでしまった。
「さあ、ちょっと手を貸しておくれ」
そうオモラに言われ、バードは束ねた鳶口を抱えると、オモラが背中に担ぐのを手伝った。
「じゃあ、親方、あたしはこれで帰るよ。また明日来るけど、しっかり頼んだよ」
「ああ、明日な」と、リチャードは無愛想に答えた。
前屈みになりながら歩く後ろ姿を見送りながら、リチャードが憎らしげに言った。
「くそっ。安く炭を分けてもらってるから仕方なく仕事をしてやってるが、あんな狼男の片割れ、大きな顔して店に出入りされたんじゃ、あらぬ噂の種だ」
まったく、と言ったリチャードは、首にかけていた手ぬぐいを放り投げた。
オモラは、強がってはみたものの、肩に食いこむ重さに耐えかねていた。ようやく馬車屋までたどり着いたときには、ほっと気が緩んだのか、思わず荷物を落としてしまった。
せっかく束ねてもらったロープも緩み、鳶口もバラバラになってしまった。なんとか縛り直そうと試みたが、ほどけたロープは鳶口をさらに散らばらせ、重心が偏っている柄は、なかなか思うように重なってくれなかった。店で待機している御者は見て見ぬふりで、手を貸そうとする者は一人もいなかった。
そこへ、見知らぬ少年がさっと手を差し出した。
薄汚い帽子を被り、来ている粗い麻のジャケットは、もとの布地の色がわからないくらい、いろいろなシミや汚れで染まっていた。ひと目で物乞いとわかる容姿だったが、オモラは、少年の頭から漂う汗臭い臭気に顔をそむけながらも、じっとその姿に見入っていた。もどかしいほど不器用で、簡単なはずの結び方を何度も失敗していたが、不思議とお節介だとは思わなかった。
「それじゃこの五丁だけ、もらって帰るよ。できあがってるうちに持って行かなきゃ、今度いつできあがるのかわかりゃしないからね」
へへ、と苦笑いしながら、リチャードは床に四丁の鳶口、そして仕上がったばかりのもう一丁を並べて置いた。
「バード、悪いけど、束ねておくれでないかい」と、オモラは前掛けをはずしかけていたバードに言った。
「はい、おかみさん」と、言いながら、バードはちらっと親方のリチャードをうかがった。どこかしら、不自然な優しさが感じられた。こういう時の親方は、注意しなくちゃな、とバードは胸の中でつぶやいた。
「おかみさん、五丁も大丈夫ですか?」
「ああ、平気さ。これでも山で働いているんだもの、このくらい持てなきゃ、明日から物乞いだよ」
「ぼくが持って行きましょうか」と、バードは言いかけたが、親方の姿が頭によぎり、「ぼく――」と言ったきり、すぐに口をつぐんでしまった。
「さあ、ちょっと手を貸しておくれ」
そうオモラに言われ、バードは束ねた鳶口を抱えると、オモラが背中に担ぐのを手伝った。
「じゃあ、親方、あたしはこれで帰るよ。また明日来るけど、しっかり頼んだよ」
「ああ、明日な」と、リチャードは無愛想に答えた。
前屈みになりながら歩く後ろ姿を見送りながら、リチャードが憎らしげに言った。
「くそっ。安く炭を分けてもらってるから仕方なく仕事をしてやってるが、あんな狼男の片割れ、大きな顔して店に出入りされたんじゃ、あらぬ噂の種だ」
まったく、と言ったリチャードは、首にかけていた手ぬぐいを放り投げた。
オモラは、強がってはみたものの、肩に食いこむ重さに耐えかねていた。ようやく馬車屋までたどり着いたときには、ほっと気が緩んだのか、思わず荷物を落としてしまった。
せっかく束ねてもらったロープも緩み、鳶口もバラバラになってしまった。なんとか縛り直そうと試みたが、ほどけたロープは鳶口をさらに散らばらせ、重心が偏っている柄は、なかなか思うように重なってくれなかった。店で待機している御者は見て見ぬふりで、手を貸そうとする者は一人もいなかった。
そこへ、見知らぬ少年がさっと手を差し出した。
薄汚い帽子を被り、来ている粗い麻のジャケットは、もとの布地の色がわからないくらい、いろいろなシミや汚れで染まっていた。ひと目で物乞いとわかる容姿だったが、オモラは、少年の頭から漂う汗臭い臭気に顔をそむけながらも、じっとその姿に見入っていた。もどかしいほど不器用で、簡単なはずの結び方を何度も失敗していたが、不思議とお節介だとは思わなかった。