くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

狼おとこ(5)

2022-02-13 20:13:37 | 「狼おとこ」
「そう。それはね、狼男なの」
 アリエナはあきれ顔でダイアナの顔を見た。そして、さっと窓から離れると、作りかけのパッチワークのあるベッドへ飛び移った。
「もういいわ」
「どうしてよ」と、ダイアナはじれたように言った。「これから面白くなるのよ。ね、お願い。最後まで聞いて。ね」
 アリエナはむっつりと横を向いていたが、いいわ、とすまし顔で言うと、にっこりと微笑みながらダイアナに向き直った。
「その狼男はね、オモラさんの恋人だったらしいの。どこから来たのか知らないけど、たぶん吟遊詩人みたいな、国中を旅して歩く人だったらしいわ。
 普段はもちろん人の姿をしていて、周りにいた人もぜんぜん気づかなかったの。それがね、教会で、神父様のお説教を聞いている時、急に様子が変になったかと思うと、恐ろしい狼男の正体を現したんですって」
「ほんとに……」
「信じられないでしょうけど、これはホントウにあったことなのよ――。
 でね、居合わせた審問官達に取り押さえられそうになったんだけど、オモラさんが必死で守ろうとしたんですって。もちろん、凶暴な狼男が自分を守ろうとしてるなんて、わかりっこないわ。それで、かばおうとしたオモラさんが、逆に狼男に腕を食いちぎられたんですって」
 ダイアナは話し終えると、薄気味の悪い声で笑った。アリエナは思わず唾を飲みこみ、その音はダイアナの耳にまで届いた。面白がったダイアナは、今度は両手を高く上げて大きく開き、爪をカッと立ててアリエナに襲いかかった。
 飛びかかられたアリエナも、お返しとばかりに歯をむき出し、うなり声を上げてダイアナに噛みついた。
 子犬のようにじゃれ合う二人は、狭い部屋の中を騒がしく転げ回った。


「あらあら、元気のいいこと――」と、オモラはあきれ顔で言った。
 天井を見上げているその顔を、やはり苦々しく見上げて、
「うちの娘は、元気だけが取り柄でしてね」
 と、鍛冶屋のリチャードが言った。
「あら、わたしが怒らせるようなこと言ったかしら」
 リチャードはさっと目をそらすと、
「そんなことはありませんや、おかみさん」
 そう言うと、見習いのバードに向かって、仕上がり具合を聞いた。
 真っ赤に熱せられた鉄に向かい、顔を汗でぐっしょりにした見習いのバードは、
「はい、親方。もうすぐです」
 小気味よく打たれていた槌の音が、気持ちだけ早くなった。
「とりあえず、鳶口はあいつが仕立ててるやつを入れて五丁だ。まさかりはまだ何本か研ぎ終わってねぇ。早くても明日の午後だ。鋸はもうちょいとばかりかかるな。あれじゃ、作り直したほうが早いかもしれねぇよ」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする