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くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

地図にない場所(23)

2020-04-26 20:18:19 | 「地図にない場所」
「――ねぇ、どうしたの。ちっともわかんないよ」と、サトルはガッチを変に思って、怒ったように言いました。「さぁ、早く行こうよ。朝になるまでにここを抜け出さないと、日干しになっちゃうよ」
 サトルは、立ち上がって歩き出そうとしました。と、ガルルルル――……。といううなり声が、すぐ後ろで聞こえました。サトルはその声を聞きつけると、ぴたりと動くのを止め、息を殺しながら、肩越しにそっと後ろを振り返りました。
 振り返ると、そこにはサトルの背の三倍はありそうな恐竜が、山のように牙を生やした口を大きく開き、ドロドロと生臭いよだれを垂らして立っていました。

「今だー!!」

 声に反応したサトルは、素早くガッチを肩に乗せると、まっしぐらに走り出しました。
 ――――……
「――ガッチ、まだ追いかけて来る?」と、サトルが息を切らせながら言いました。
「ああ。残念だが、すんげぇ勢いで走って来るぞ。このままじゃ、二人とも食われちまうかもな。なんとか振り切れ――」
「なんとかしろって、なんだよ!」と、サトルは言いました。「ガッチの方が、ぼくより強いんじゃなかったの。なんとかしてもらいたいのは、こっちの方だよ――」
 サトルは、とにかく死に物狂いで走りました。しかし、腹を空かせた恐竜は、歯をガチガチ言わせながら、すぐ間近に迫ってきていました。
「――サトル、あそこだ」と、ガッチが肩から身を乗り出して言いました。「あの岩山の隙間に入りこめ」
 サトルは、ガッチに言われるまま、岩山の下にぽっかりと開いた小さな隙間にすべりこみました。そこはなにか、地震で崩れたときにできたものなのか、岩山が上下にずれて裂けたようになっていました。入り口の幅はサトルの肩幅くらいしかなく、奥へ行くほど狭くなっていました。ですから、恐竜に追われて逃げこんだサトルは、入口から少し入っただけで、もうそれ以上は、奥に進むことができませんでした。
 恐竜は、サトルが逃げた隙間に自分も入ろうとしましたが、体が大き過ぎるため、突き出した口の半分がやっと入るだけでした。サトルとガッチは、恐竜があきらめてくれるだろうと思いましたが、入口のすぐ近くで動かない二人に気がつくと、どうしてもあきらめきれないのか、大きな口を何度も突き入れて、歯をガチガチ言わせました。
 思ったよりも恐竜の口が奥まで届くので、二人は冷や汗でびしょびしょになっていました。もしかすると、あの巨大な口がここまで届いて、骨ごとバリバリ音を立てて食べられるのかと思うと、たまらなく恐かったのでした。
「サトル。おれ、もうちょっと奥まで逃げていいか?」と、ガッチが声を震わせて言いました。
「――やだよ、一人にしないでよ」と、サトルがガッチに言いました。けれどガッチは、聞く間もなく肩から降りて、一人だけ狭い隙間の奥に逃げて行ってしまいました。
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