すると、スーッと冷たい空気が、どこからともなくサトルの足元をくすぐりました。同時に、勢いよくドアが開いたかと思うと、鬼のような顔をしたお母さんが、部屋の中に大股で踏みこんで来ました。
「こらっ、サトル! あんたいつまで起きてるつもりなの。またマンガなんか広げて。そんなもの明日にすればいいでしょ、明日にすれば。さっさとベッドに入りなさい。さぁ」
サトルは飛び起きると、蓋が開けっぱなしのランドセルに、片っぱしから勉強道具を放りこみました。
ぎゅうぎゅうになったランドセルから、勉強道具が溢れ出しそうなのにもかかわらず、
「お休みなさーい!」
と、サトルは逃げるようにベッドに潜りこみました。
「まったくしょうがないわね。明日遅刻したって、知らないからね。自分でちゃんと起きてきなさいよ。お母さんは起こしてなんかあげませんからね――」
サトルのお母さんはそう言うと、部屋の明かりを消して、廊下に出ました。
と、思い出したようにまたすぐ部屋に戻って来て、サトルがベッドに潜りこむ時に落としたマンガを拾うと、静かにドアを閉めて出て行きました。
頭の上まで布団を被っていたサトルは、すきまから外の様子をうかがっていましたが、お母さんが部屋を出て行くと、おそるおそる顔をのぞかせました。
(はぁ、びっくりした。いきなり入ってくるんだもんな……。それにしても、あと少しで読み終わったのに。一番面白いとこだったんだけどなぁ)
サトルは残念でしかたがありませんでしたが、これ以上夜ふかししても、朝ちゃんと起きられる自信はありませんでした。それにだいいち、読みかけのマンガを持って行かれたのでは、続きを読むこともできません。サトルは、早く朝にならないかな、と舌打ちをしながら、寝返りを打ちつつ、目を閉じました。
トットン、トトットン――と、サトルの元気な心臓が、次第に静かなリズムに落ち着いていきました。夜はだいぶんふけて、外の闇はいっそう暗さを増し、うそ寒い硬質な香りのする風が、休むことなく流れていきます。
心の色はいくつもの形になり、大きくなった形はくっつき合って、いつのまにやらひとつの絵に交わり、ゆるるりと動き出して、サトル自身も気がつかないうちに、深い時空の先にある異世界へと、旅立っていくのでした。そう、夢の世界へと―― 。
「こらっ、サトル! あんたいつまで起きてるつもりなの。またマンガなんか広げて。そんなもの明日にすればいいでしょ、明日にすれば。さっさとベッドに入りなさい。さぁ」
サトルは飛び起きると、蓋が開けっぱなしのランドセルに、片っぱしから勉強道具を放りこみました。
ぎゅうぎゅうになったランドセルから、勉強道具が溢れ出しそうなのにもかかわらず、
「お休みなさーい!」
と、サトルは逃げるようにベッドに潜りこみました。
「まったくしょうがないわね。明日遅刻したって、知らないからね。自分でちゃんと起きてきなさいよ。お母さんは起こしてなんかあげませんからね――」
サトルのお母さんはそう言うと、部屋の明かりを消して、廊下に出ました。
と、思い出したようにまたすぐ部屋に戻って来て、サトルがベッドに潜りこむ時に落としたマンガを拾うと、静かにドアを閉めて出て行きました。
頭の上まで布団を被っていたサトルは、すきまから外の様子をうかがっていましたが、お母さんが部屋を出て行くと、おそるおそる顔をのぞかせました。
(はぁ、びっくりした。いきなり入ってくるんだもんな……。それにしても、あと少しで読み終わったのに。一番面白いとこだったんだけどなぁ)
サトルは残念でしかたがありませんでしたが、これ以上夜ふかししても、朝ちゃんと起きられる自信はありませんでした。それにだいいち、読みかけのマンガを持って行かれたのでは、続きを読むこともできません。サトルは、早く朝にならないかな、と舌打ちをしながら、寝返りを打ちつつ、目を閉じました。
トットン、トトットン――と、サトルの元気な心臓が、次第に静かなリズムに落ち着いていきました。夜はだいぶんふけて、外の闇はいっそう暗さを増し、うそ寒い硬質な香りのする風が、休むことなく流れていきます。
心の色はいくつもの形になり、大きくなった形はくっつき合って、いつのまにやらひとつの絵に交わり、ゆるるりと動き出して、サトル自身も気がつかないうちに、深い時空の先にある異世界へと、旅立っていくのでした。そう、夢の世界へと―― 。