「いくぞーっ」
サトルは近所の公園で、教室の友達とサッカーボールを追い回していました。ただもうがむしゃらになってボールを追いかけ、思いきり相手のゴールに蹴飛ばすのでした。
公園には、サトル達のほかにも、鉄棒をしている女子や、ブランコに乗っている男子。すべり台のそばには、赤ちゃんを連れた女の人が、陽気な赤ちゃんのご機嫌をとりながら、すべり台で遊ばせていました。
「えーい!」
サトルは自分にボールが返ってくると、仲間のミツルがゴールの前に走っていくのをちらりと確認して、チャンスとばかり、力いっぱいボールを蹴飛ばしました。
(入れ!)
しかしボールは、キーパーのタクに見事にとられ、あっというまに敵の攻撃になってしまいました。ミツルが、「おれにパスすればよかったのに……」と、サトルの方を向いて、怒るように言いました。
(ちぇっ――)と、ミツルの言葉に急にサッカーがつまらなくなったサトルは、みんながボールを追いかけていくにもかかわらず、立ち止まって、(ぼくがシュートしたっていいじゃないか。なにが悪いんだ)と、みんなが夢中になっているのを、つまらなさそうに見ていました。
けれど、みんなが面白そうにしているのを見ているうち、サトルも黙っていられず、ボールの行方を全速力で追いかけていきました。
――どうしたのか、いくら走っても、みんなに追いつくことができません。あわてたサトルは、もっと速く走ろうとするのですが、両腕が重くなって、まるで早く走れませんでした。そうこうしている間にも、みんなはまたボールを追いかけて、どんどん遠くへ走り去って行ってしまいました。
「待ってー、待ってよーッ!」
サトルは叫びました。けれど、誰一人として、振り返ってくれる友達はいませんでした。走ろうとして、もがけばもがくほど、みんなとの距離は、みるみる広がっていくような気がしました。
必死でみんなを追いかけているサトルは、ふと、自分の横を向きました。
と、そこには、大人びたひげを生やした子供が、サトルの顔をのぞきこむようにしながら、ずっと一緒に、並んで走っているのでした。不思議なその子供は、キラキラする王冠のようなものを頭に乗せ、金色のボタンをつけた青色の服を着、足には白いタイツをはいて、背にはヒラヒラと風になびく、これもまた金糸をあしらった青いマントを身につけていました。サトルの腰ほどまでしかない背丈は、年下の小学生のようでしたが、その顔には、サトルのお父さんよりも立派な、濃い口ひげが生えているのでした。
サトルはかまわず、みんなを追いかけ続けました。腕がどうしても重いので、両腕をだらり、とぶら下げるようにすると、なんだか体が軽くなるような感じになりました。
サッカーボールを追いかけていったみんなは、なぜかゴールの前に来ても止まらず、公園の外に飛び出して行きました。公園から外に出てしまうと、サトルの走っている場所からは、もう誰も見えなくなってしまいました。