映画で楽しむ世界史

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史上初のSF映画「メトロポリス」

2011-03-12 18:21:32 | 舞台はドイツ・オーストリア
「THE COMPLETE METROPOLIS!」というDVD

SF映画の幕を開いたといわれる1926年のドイツ映画の「完全復元版」。

この映画、当初のオリジナル作品は3時間を超える超大作、アメリカの「イントレランス」ともいうべき貴重なものなのだが、完成の時期があまりにもまずい。

第一次大戦後のドイツには社会主義・共産主義の嵐が吹き荒れ、1919年かろうじて社会民主党主導の「ワイーマール共和国体制」が発足する。
しかしワイマール憲法はあまりにも学者的で「絵に描いた餅」的要素が強く、頻発する政治テロや一揆には抗すべくもない。(1923年ヒトラーの「ミュンヘン一揆」)
結局ワイマール体制は、1925年初代大統領エーベルトの死、1929年の世界大恐慌などに押しつぶされ、ヒトラー独裁体制に移ってゆく。(1933年ヒトラー首相就任)


その意味でこの映画は、短いワイマール憲法下の文化遺産ともいうべきもの。若造のヒトラーがこの映画をどう見たのか分からないが、彼の実権下ではずたずたに改作させられたであろう。

いや、この映画はヒトラー以前にアメリカの会社に買取られ、真相はよく分からないが「共産主義的な傾向を持つ」との理由で、徹底的にカットされコンパクトな「アメリカ改訂版」になってしまったという。

ところが、これまた何故だか分からないが、2008年アルゼンチンで当初作品と思しきものが見つかり、これを機会に現存する最長版とのうたい文句で「完全復元版DVD」が刊行された次第。

確かにこの映画は「未来都市メトロポリス」における、資本家階級と地下に住む労働者階級の階級闘争という問題を直球的に投げつける。
そして「脳と手の媒介者は、心でなくてはならない」というスローガンを繰り返す。
「脳」(知識指導者階級・機械文明)と「手」(労働者階級・搾取労働)の調停者として「心」(人間の良心・神の導き)というわけである。

ともあれ、現代からみればやや書生っぽいと思われるかもしれないが、必見映画であることには変わりはない。

但し、日本人として不愉快、不満な点あり。
メトロポリスの労働者たちが、工場労働を終えて、帰りに寄る歓楽街の名前を「吉原」としていること。脚本および監督のフリッツ・ラングはどうして「吉原」を使ったのか分からないが、何とも違和感。

(了)

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