買ってきたレモンを見ていたら、
「智恵子抄」の「レモン哀歌」という詩を思い出した。
レモン哀歌
高村光太郎
そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
かなしく白いあかるい死の床で
私の手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
―後略―
「智恵子抄」より
思春期の頃、「智恵子抄」を読んで、光太郎の智恵子への愛情に心打たれた。
けれども、大人に近づいて、智恵子の本当の思いは彼女自身が語らなかったから、誰にも分からなかったのではないだろうか、と思ったりもした。
「智恵子抄」に描かれている智恵子は、光太郎から見た智恵子。
描かれている二人の愛は、光太郎から見た、“二人の愛”だったのではないかと。
心を病むほどにさまざまなストレスを抱えながらも、黙って光太郎を支えた智恵子。
病んだ後の切り紙を見る時、すぐれたその才能を絵筆を持って、表現してもらいたかったと思った。
今は、「智恵子抄」って読まれているのかな?
高村光太郎・智恵子といっても、知らない人が多いかもしれない。
あ、私とて、同時代人ではありません、念のため・・