シニア花井の韓国余話

韓国交流50年の会社経営を引退しソウル定住の日本人が写真とともに韓国の案内をします。

危険な世の中を生き抜くには【記者手帳】 

2015年07月29日 20時05分34秒 | Weblog
 韓国社会を大きく揺るがせた中東呼吸器症候群(MERS)が徐々に終息へと向かっている。ただその感染拡大のペースが非常に早かっただけに、これが忘却されるスピードも早い。そのためまだ国から終息宣言が出ていないにもかかわらず、国民の間ではMERSはすでに忘れ去られたような雰囲気だ。韓国国民はわずか1年前に旅客船「セウォル号」沈没、20年前には三豊デパート崩壊という悲惨な事故を幾つも経験したが、いずれも今回のMERSと同じく忘れられるスピードは非常に早かった。大きな悲しみや損失を経験したはずなのに、次の惨事が発生する頃になるといつもその記憶はなくなっていたのだ。
 事故の発生にはさまざまな原因が考えられる。コントロールタワーとマニュアルの不在、現場の状況に詳しい専門家の不足、ほとんど意味のない訓練、腐敗とずさんな管理で生み出された手抜きのハードウエアなどがそうだろう。事故が発生した直後、われわれはいつも何も知らない白紙の状態からこれら全てを一気に解決しようと考えてきた。直ちに手を加えるべきところと、長い時間をかけて改善すべき点を分けて考えることができなかった。そのため分けて考えればすぐにでも解決できるはずの問題が、常に到底解決不可能な問題へと大きくなっていた。提示される解決策はどれも確かに理想的だが、何か地に足が付いていないためか、本来なら全員の責任であるはずの事故でさえも、後に誰の責任でもなくなった。その間に多くの悲しみや後悔、罪の意識、怒りなどを誰もが味わったはずなのに、これらの感情も変化と改革のパワーとして生かす前に、いつしか忘れ去られてしまっていた。
災害は常にわれわれのすぐ近くにあるが、その後の対策はいつもはるか遠くのものだった。セウォル号が沈没した直後、官フィア(官僚とマフィアを合わせた造語)の影響力をそぐという理由で官僚の退職から再就職までの期間を長くし、次に海洋警察を解体し、国民安全処(庁に相当)という新たな政府部署が立ち上げられた。ところがこれらは全て中東呼吸器症候群(MERS)の感染拡大という新たな災害の前ではほとんど何の効果もなかった。保健福祉部(省に相当)を解体し、病室を全て1人部屋にするなどの「MERS対策」は、長期的には必要なものだろうが、明日発生するかもしれない新たな感染症からわれわれを守ってくれるかどうかは疑問だ。今回のMERS問題でかったように、豊富な経験とプロ意識を持った専門家が現場でリーダーシップを発揮できなければ、たとえ組織を解体し何かを新しく作り直したとしても、あるいは名称を変えても何の意味もない。
 身の回りの災害に備えるには、考えられる対策の中で今できるものから力を集中しなければならない。今あらためて考えると、すぐにできる対策は主に制度の運用の仕方や慣習など、主に韓国社会のソフト面に関係するものが多いようだ。例えばMERSの感染拡大を引き起こした大きな原因として、病院における大部屋の入院室が何かと問題になっている。これについては直ちに全ての病室を個室に変えることはできないが、患者のすぐ横で家族が食事し、睡眠を取るいわゆる「看病文化」を見直せば、病院の汚染や感染リスクはかなり減らすことができるはずだ。また救急病棟では家族や知り合いなどの訪問を制限し、呼吸器関連の患者が担ぎ込まれた場合は最初から問答無用で隔離し治療するといった対策も考えられるだろう。これらの対策を直ちに実行に移せば、救急病棟が感染症拡大の温床になることもないはずだ。さらに万一感染症が発生した場合、関係する情報を全ての医療機関が直ちに共有できるようにすることも、制度化が必要な対策の一つだろう。
感染症以外の災害も同じだ。これまで大規模火災が発生したケースを考えると、消防車の到着にはいつも多くの時間がかかり、その間に火の手が非常に大きくなって被害が拡大するケースをわれわれは何度も目の当たりにした。そのため火災の拡大を防ぐには、何よりも消防車の通行に大きな障害となる無責任な違法駐車の習慣にメスを入れなければならない。消火活動に必要な道路をふさぐ違法駐車に対しては、米国のように容赦なく巨額の罰金をドライバーに支払わせれば、すぐにでもこのあしき習慣は改善されるだろう。道路が狭いとか、あるいは駐車スペースが足りないといったハード面ばかり問題にしていては、もしかすると明日、あるいは1カ月後に発生するかもしれない大規模火災に対して今と同じく全くの無防備状態が続くだろう。今後新しい住宅を建設する際には、火災予防のためにスプリンクラーの設置を義務づけるべきだ。ただし今住んでいる家にそのような設備がなければ、消火器を常に手の届く所に置いておき、いつでも使えるように訓練をしておかねばならない。政府は安全対策のためにこれらを法制化し、必要な費用を支出して国民に訓練をさせなければならない。
 「先進市民社会を建設しよう」といった言葉だけのスローガンを口にするのもやめよう。むしろ「われわれは危険な世の中に住んでいる」という現実を受け入れ、それに必要な対策を考えるべきだ。これこそMERSを含む数々の災害を繰り返し経験したわれわれに必要な教訓ではないだろうか。
社会政策部=朴宗世(パク・チョンセ)部長
韓国大手新聞 朝鮮日報15年7月26日記事抜粋



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