今年の出来事で一番大きなことといったら間違いなく『小学生名人戦県大会優勝』である。これがその後の健太の将棋への思いも、私たち家族の生活サイクルをも大きく変えてしまった。
2月の初旬に開催された『小学生名人戦県大会』は、健太も含め教室から7人が参加し計14人で優勝と名人の称号を争うこととなった。(同時開催の小学生大会は40人以上の参加) 当時健太は教室で6級であったが、教室から名人戦に参加したのは、4級が3人、5級が2人、6級が健太の他に1人だった。健太は来年以降のために、2勝を目標として参加した。
大会はスイス式の5対局であった。初戦は他の地域の5年生の体の大きな子だった。
話は昨年の12月に遡るのだが、月初に東京で行われた「小学館」で準優勝して息子の将棋に自信を持って帰ってきたのだが、次の週に行われた教室のメインイベント「金華山大会」に初出場し、そこでは1勝もできずに終わってしまった。負けても悔しそうな素振りのない息子に私は、「悔しくないのか?」と少し強い口調で聞いた。健太は「悔しくない!」とハッキリと言った。
後から「悔しくない!」の意味を考えてみた。普段、教室で負けている中学生や上級位の子たちに、大会だから「勝て!」とか負けたら「悔しがれ!」などというのは私の都合のいい考えであり、無理なことに気が付いた。ただ、それではいけないと思い、すかさず次の週から他のこども教室や支部会に、力試しと度胸試しのつもりで飛び入り参加していった。
最初に行ったのが、自宅から車で2時間程のこども教室だった。そこは10人強の参加者であったが、一番強い子と指してもらい勝利を収めた。
名人戦、初戦の5年生の子は、何とその時の子だったのだ。誰でも緊張する初戦に1回でも指したことがあるかないかは大きな違いがあり、ましてや勝っているというのは精神的に大きなアドバンテージがあった。当然のように余裕のあった健太の勝ちであった。2局目は、同じ教室の4級の子であったが、4級の子の中では健太が一番分がいい子だった。気楽に指せた分、健太が勝つことができた。3局目は健太が苦手としていた5級の4年生の子だった。何と王手放置で勝ってしまった。(王手飛車) その4年生の子は、いつもはそんなミスをするような子ではない。1年生と大事なところで指さなければならないという、緊張と気負いすぎからかもしれない。彼の王手放置を見たのは、後にも先にもこの時だけである。
4局目は教室の4年生で4級の子だった。私は大会前から優勝候補に見ていた子だ。大会までの2~3ヶ月の勢いが他の子とは比較にならないぐらいに違った。どんな上級者にも勝ってしまうぐらいの成長振りだった。しかし、係りの大人から「次は健太クンとやって」と言われた彼は大きな声で「え~」と言った。健太の方は苦手意識はなかったのだが、相手の子は健太にやりにくさを感じていたらしい。結果は健太の勝ちだった。実力も大事だが、気持ちの部分が非常に大事なのだと感じた出来事だった。
4連勝は健太だけになったので、健太の優勝にしたらという声もあったようだが、3勝1敗で逆転の目がある子と対局することとなった。気が付くと会場がざわめき始めていた。1年生の名人が誕生するかもしれない。教室のご父兄の方々がいろいろな情報を教えてくださったり、激励してくださったりと。
なんと5局目、負けてしまった。4勝1敗同士の得点勝負になった。同点なら直接対決で負けている健太の負けである。それでも何とか1点差で優勝することができた。最後に負けているので、若干後味が悪いのだが・・・。1点差は優勝候補と私が見ていた子が5局目に負けたからである。負けるはずのない相手に負けたのは、健太に負けたショックからかもしれない。
こどもの大会で優勝できるのは、ダントツで強い子か、その日一番運のある子なんだと思った。初戦の相手に恵まれたことや、教室で苦手としていた子たちと対戦しなくても良かったこと、最後負けたにもかかわらず、得点差で勝てたこと。
運が良かったのは、健太が他の子より少し努力していたからかもしれない。