【債権法改正】不法行為による損害賠償債務を相殺できるか

2017-10-20 10:12:49 | 不法行為法

【例題】Xの運転する自動車とYの運転する自動車が信号機のない交差点で出会い頭に衝突した。この事故によってXが所有する自動車は大破し、Yが所有する自動車は軽微に損壊した。またXは6か月の治療を要する傷害を負い、Yは1か月の治療を要する傷害を負った。この度、XはYに対する損害賠償請求(物損・人損)をおこなった。Yもこれを機に自己の損害をXから回収したいと考えている。

 

[物損の損害賠償請求への対抗;悪意でない限り自己の債権をもって相殺可能]

・旧法は、不法行為による損害賠償請求権一般を受働債権とする相殺を禁止している(旧法509条;比較法でも禁止の範囲が広いと評される)。そして一部学説の批判にもかかわらず、この理は、双方的不法行為事案でも完徹されていた(物損損害賠償請求権につき、最二判昭和54・9・7集民127号415頁(交通民集12巻5号1173頁))。そのため、実務的には双方の合意による相殺払いが多用されてきた。

・これに対して新法は、相殺禁止の趣旨に立ち返り、相殺禁止の対象となる受働債権を、(1)悪意による不法行為に基づく損害賠償債務(←不法行為の誘発禁止)、(2)人的損害による損害賠償債務(←現実の給付を受けさせる必要)、に限定した(新法509条1号2号)。したがって、以後、新法施行後に生じた交通事故においては(新法附則26条2項)、X請求のうち物的損害に限り、Yは自己の債権をもって相殺することができる。


[人損の損害賠償請求への対抗;従前どおり相殺不可]

・他方、上記のとおり、人的損害について相殺禁止の取扱いは変わらないので、X請求のうち人的損害については、Yは自己の債権をもって相殺することができない(依然として相殺合意をするしかない)。

・もっとも、この例外として、当該人損損害賠償請求権が譲渡された場合は、相殺が許容される(新法509条ただし書)。


松尾弘「物損による損害賠償請求権相互間における相殺禁止(判批)」交通事故判例百選〔第5版〕[2017]pp178-9

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