〈多数当事者〉使用者責任の内部関係

2017-08-22 23:44:58 | 不法行為法

【例題】P社に勤務するAは、業務として営業車を運転中、相手方Bとの間で追突事故を起こした。この事故によってBは物的損害100万円を負った。※マイカー通勤事例の参考記事

(1)使用者Pが、民法715条責任として被害者Bに100万円を賠償した場合。

(2)被用者Aが、民法709条責任として被害者Bに100万円を賠償した場合。

 

[使用者から被用者への求償権とその制限]

○代位構成

・我妻説や加藤一郎説に代表される通説は、使用者責任を代位責任と捉える。判例も(明言しないものの)通説と同じ理解だと説かれる。■潮見2pp9-10

・この理解からは、代位責任として損害賠償を履行した使用者Pは、本来的な義務者である被用者Aに対して、当然に賠償額全額を求償できる、となるはずである(民法715条3項)。■潮見2p48

○判例による求償制限

・もっとも、最一判昭和51・7・8民集30巻7号689頁は「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである」と述べ、求償権に制限を設けている。

・同事案では、次の諸事情が列挙されて、使用者が「直接被つた損害」及び「被害者に対する損害賠償義務の履行により被つた損害」のうち、被用者に対して賠償(民法709条)及び求償(民法715条3項)を請求しうる範囲は、信義則上右損害額の4分の1を限度ととされた。

(一)使用者は、[1]石炭、石油、プロパンガス等の輸送及び販売を業とする資本金800万円の株式会社である。[2]従業員約50名を擁する。[3]タンクローリー、小型貨物自動車等の業務用車両を20台近く保有していた。[4]経費節減のため、当該車両につき対人賠償責任保険にのみ加人し、対物賠償責任保険及び車両保険には加入していなかつた。

(二)被用者は、[5]主として小型貨物自動車の運転業務に従事し、タンクローリーには特命により臨時的に乗務するにすぎなかった。[6]本件事故当時、被用者は、重油をほぼ満載したタンクローリーを運転して交通の渋滞しはじめた国道上を進行中、車間距離不保持及び前方注視不十分等の過失により、急停車した先行車に追突した。

(三)本件事故当時、[7]被用者は月額約4万5000円の給与を支給され、[8]その勤務成績は普通以上であつた。

 

[被用者から使用者への逆求償の可否]

・以上とは反対に、被用者が被害者に賠償した上で、使用者にその求償を求めることは可能か(いわゆる逆求償)。この問題につき「判例の立場は、まだ明らかになっていない」「判例上これを認めた事例は見当たらない」。■窪田p201、吉村p206

・素朴に代位構成を貫けば、被用者が最終的な負担者となるのは当然であるから、逆求償は否定されることになろう。

・もっとも、使用者による求償権が制限されることと平仄を合わせるならば、その限りで逆求償を認めるべきになろう。例えば、求償権が上限4分の1とされるということは、内部的負担割合が「使用者:被用者=3:1」というである。この事案で被用者が先行して被害者に全額を賠償した場合も、結論が同じとなるように4分の3の限度で逆求償が認められるべきであろう(私見)。■潮見pp53-4は肯定的、窪田pp201-2は慎重な態度

 

吉村良一『不法行為法〔第3版〕』[2005]

窪田充見『不法行為法』[2007]

潮見佳男『不法行為法2〔第2版〕』[2011]

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