2022-06-03:自動車税の処理について追記。ただし、他の文献も見たい。
【例題】Sにつき平成28年10月15日に破産手続が開始した。Sは従前から不動産甲を所有する(賦課期日につき地方税法359条)。Sの住むM市の条例では4月、7月、12月、2月の各末日が固定資産税の具体的納期限とされている(地方税法362条1項本文)。現時点で、次の固定資産税が納付されていない。
(1)平成27年1月1日を賦課期日とする平成27年度固定資産税。
(2)平成28年1月1日を賦課期日とする平成28年度固定資産税。
(3)平成29年1月1日を賦課期日とする平成29年度固定資産税。
[「破産手続開始日」と「納税義務の成立日」の先後で区別する]
・租税債権は、破産手続開始前の原因に基づくか否か(=開始前に納税義務が成立しているか)で区別される(破産法2条5号、148条1項3号)。□概説93、岡ほか149-51
・【例題】では、平成27年度分と平成28年度分が破産手続開始前の原因によるが、開始後に賦課期日を迎えた平成29年分は破産手続開始後の原因となる。
→主な国税と地方税の納税義務の成立時期について、関連記事《課税手続と徴収手続》
[破産手続開始前原因の租税(1):その具体的納期限が破産手続開始より1年以上前のもの=(優先的)破産債権]
・破産手続開始前原因のものは、さらに、その納期限の古さ(=開始決定から1年前基準)で区別される(破産法148条1項3号)。□概説93、実践289
・【例題】では「平成28年10月15日開始の1年前=平成27年10月15日」となるので、同日より前に具体的納期限が到来している「平成27年分第1期(平成27年4月30日)」と「平成27年分第2期(平成27年7月31日)」は、(もはや財団債権とはなれずに)破産債権にとどまる(破産法148条1項3号の反対解釈、2条5項)。以上の処理は、公租公課庁が自力執行権を行使できる機会が十分にあったにも関わずそれを怠ったので、他の債権者との衡平から、本来的に財団債権であるものを破産債権に引き下げるもの。□岡ほか156
・もっとも、地方税である固定資産税の徴収には公課その他の債権への優先権が認められているので(地方税法14条;国税徴収法8条も同様)、破産手続においては優先的破産債権となる(破産法98条1項)。□手引き7
・具体的納期限内に固定資産税を納付しない場合、納期限の翌日から納付日まで延滞税が発生する(地方税法369条1項)。破産債権となる本税(=つまり1年以上古いもの)に係る延滞税は、破産手続開始までに発生していたものは、納期限にかかわらわず(本税と同様に)優先的破産債権となる(この結論は、延滞税と本税とを別に扱う規定がない、ということか)。他方、延滞税のうち、開始後に発生したものは劣後的破産債権となる(破産法97条3号、99条1項1号)。□手引き189、岡ほか156-7
[破産手続開始前原因の租税(2):その納期限が破産手続開始より1年未満=財団債権]
・これに対し、破産手続開始時点でいまだ具体的納期限から1年が経過していないものor未到来のもの(=納期限が平成27年10月15日以降)は、財団債権となる(破産法148条1項3号)。
・【例題】では「平成27年分第3期(平成27年12月31日)」「平成27年分第4期(平成28年2月29日)」「平成28年分第1期(平成28年4月30日)」「平成28年分第2期(平成28年7月31日)」「平成28年分第3期(平成28年12月31日※未到来)」「平成28年分第4期(平成29年2月28日※未到来)」が、これに該当する。
・本税が財団債権となる場合、その延滞税は発生時期にかかわらず財団債権となる(やはり、根拠は破産法148条1項3号)。□手引き6、岡ほか387-8
・破産管財人は国税徴収法における執行機関の一つとされる(国税徴収法2条13号)。破産管財人が交付要求を受けた国税の全額を納付した場合、「破産管財人が破産財団を形成~その翌日から実際に納付した日」までの延滞税については免除を受けることができる(国税通則法63条6項4号、国税通則法施行令26条の2)。地方税も同様(地方税法20条の9の5第2項3号、地方税法施行令6条の20の3)。□岡ほか159
・これに対し、破産管財人が国税の全額を支払うことができない場合、延滞税の減免を許容する規定はない。地方税は?
[破産手続開始後原因のもの:破産財団の管理等費用=財団債権/それ以外=劣後的破産債権]
・以上に対し、破産手続開始後原因のものは、「破産財団の管理等に関する費用」に該当するか否かで区別される(破産法148条1項2号)。破産財団に属する不動産に係る固定資産税はこの「費用」に該当するため、【例題】において、破産手続開始(平成28年10月15日)後も不動産が破産財団にとどまり、平成29年1月1日を迎えた場合は、同日に賦課される平成29年分固定資産税は同条を根拠に財団債権となる。「破産管財人は年末までに不動産を処理せよ=ムダな財団債権を発生させるな」と説かれる所以である。なお、不動産を売却した場合の消費税も、同様に財団債権となる。
・財団債権となるもの以外は、劣後的破産債権となる(破産法99条1項1号→97条4号)。
[破産手続とは無関係のもの]※理論的根拠は??
・不動産の放棄:【例題】において、平成28年12月31日までに甲が破産財団から放棄された場合、もはや甲は破産財団ではないので、平成29年分固定資産税は、財団債権でもないし破産債権でもない。□実践296
・自動車の放棄:不動産と同様に、3月31日までに当該自動車が破産財団から放棄されれば、翌4月1日を基準に賦課される自動車税は破産手続と無関係になる。
・自動車の使用継続:個人破産において自動車が自由財産となる場合は、仮に4月1日を賦課期日とする自動車税の交付要求があったとしても、破産者本人に納付させるべきであろう。実務的には、破産者から納付の誓約と引換えに使用承諾をすべきか(たぶん)。□実践304
・市県民税:個人破産において、破産手続開始決定の翌年度以降の県民税や市民税(賦課期日:1月1日)は、財団債権にも破産債権にも該当しない。□実践296
・国民健康保険料:一般に、開始当時に具体的期限が未到来のものについては、破産者本人の負担とされる。□実践296,305
山本和彦ほか『倒産法概説』[2006]pp93-5
野村剛司・石川貴康・新宅正人『破産管財実践マニュアル』[2009]pp289-98
名古屋地方裁判所民事第2部「破産管財人の税務の手引き〔改訂版〕」[2012]pp1-15,27
岡伸浩ほか編著『破産管財人の債権調査・配当』[2017]