【例題】P社は、債務超過に陥り、弁護士Bに自己破産申立てを依頼した。Bは裁判所にSの自己破産を申し立てた。裁判所はこの申立てを認め、破産手続を開始するとともにその破産管財人にKを選任した。P社はDから倉庫を借り受けていたが、倉庫内にはP社が持ち込んだ資材や備品が置かれたままになっている。
[事業用賃借物件の権利義務関係(1):開始前に賃貸借契約が終了している場合]
・開始前の賃料or賃料相当損害金=破産債権:開始決定時に未払となっている賃料や賃料相当損害金は、破産債権にすぎない。敷金や差し入れられている場合、賃貸人からの相殺を受けるか、明渡し時に当然充当される。□実践マ185、管財手引203-4
・管財人の明渡義務:賃貸借契約の終了によって賃借人は賃借物件を明け渡す義務を負い、明渡未了の場合は管財人が明渡作業を行う。一般的には「明渡し=動産類の撤去、原状回復=造作類の撤去」となろうか。□実践マ186
・開始前の原状回復費用=破産債権:破産開始前に賃貸借契約が終了していたものの、開始時点で原状回復が未了の場合、当該原状回復義務は開始前原因によるので、破産債権にすぎない(破産法2条5項)。□実践マ186、220問147
・開始後の賃料相当損害金=財団債権:開始決定時に破産財団に属する動産類が賃借物件に残置されている等の事情を根拠に管財人の占有が肯定される場合は、開始後の賃料相当損害金は、「破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権」or「破産財団に関し破産管財人がした行為によって生じた請求権」として財団債権となる(破産法148条1項2号、4号)。□実践マ203
[事業用賃借物件の権利義務関係(2):開始時に賃貸借契約が継続している場合]
・賃貸借契約の帰趨:賃料債務が遅滞になっていれば、賃貸人から債務不履行解除がされることが考えられる。また、破産管財人から破産法53条1項による契約解除をすることも考えられるが(管財人からの解除は、即時に解除の効力を有する)、賃貸人との円滑な解決を視野に入れていきなりの解除権行使を避けて協議を行うのが通常である、との指摘もある。□実践マ183、管財実務239
・開始前の賃料=破産債権:(上述と同じ)。
・開始後の賃料=財団債権:開始決定から契約終了までに生じた賃料は、一般の財団債権の一つである「破産手続の開始によって双務契約の解約の申入れ・・・があった場合において破産手続開始後その契約の終了に至るまでの間に生じた請求権」に該当すると解されている(破産法148条1項8号)(※)。□実践マ183、220問145、愛弁講義74
※これを「破産財団に関し破産管財人がした行為によって生じた請求権」(破産法148条1項4号)と説明する見解もある。□愛弁講義72
・管財人からの解除による損害=破産債権:管財人が解除権を行使したことによって賃貸人に損害が生じた場合、当顔損害賠償請求権は破産債権にすぎない。□実践マ183
・開始後の賃料相当損害金=財団債権:開始決定から明渡しまでに生じた損害金は、一般の財団債権の一つである「破産財団に関し破産管財人がした行為によって生じた請求権」に該当すると解される(破産法148条1項4号)。ここでの「管財人の行為=不法占有」である。□実践マ183、220問145、愛弁講義73
・開始後の原状回復費用=財団債権:破産開始後に賃貸借契約が終了した場合(※)、破産財団は賃貸人に対する原状回復義務を負う。当該義務も一般の財団債権となる(合意解除の場合は148条1項4号、53条解除の場合は148条1項8号)。□220問147
[管財人による処理方針]
・基本的スタンス:事業を継続しない限り、「早期に契約解除して物件を開け渡す」「敷金等を回収する」「財団債権の拡大を回避する」が基本となろう。□実践マ180
・破産者の残置物の処理:管財業務を遂行する費用対効果を勘案して、必要な物品を管財人が確保することになろう。賃貸人との関係では、「残置物の所有権を放棄して現状有姿により明渡完了とする」を目指した折衝も考えられる(ただし、個人情報の廃棄には注意)。□実践マ186、220問145、管財手引201
・リース物件の返還:
・原状回復工事の実施:業者を依頼する場合は、相見積もりの取得も検討しよう。□220問145
・原状回復なき明渡しの余地:なお、破産管財人はいつかは「明渡し=賃借物件の占有移転」を完了させなければならないが、必ずしも「原状回復=造作類の撤去等」は必須でない。例えば、原状回復工事の内容について、賃貸人と賃借人との間で見解に大きな開きがある状況下で、賃借人から賃貸人にカギが返還されて物件の占有が移転すれば、その後は、「賃貸人による原状回復工事の実施、賃借人への費用請求」へとステージが移ったとも考えられる。この理解に立てば、「賃借人から賃貸人への占有移転→賃貸人において原状回復工事を実施するだけの必要期間の経過」があれば、以後、賃借人は賃料相当損害金の支払義務を負わない。以上を肯定した裁判例として、東京高判平成12年12月27日判タ1095号176頁。□220問148
[明渡しをめぐる賃貸人と管財人の攻防]
・究極的には民事訴訟での決着:財団債権は債権調査の対象ではない。したがって、財団債権となりうる原状回復債務等の存否や額に争いがある場合、賃貸人は破産財団を相手方として通常訴訟を提起することになる。もっとも、賃貸人が債務名義を取得しても破産財団への強制執行はできないので、給付判決の確定後に、管財人へ随時弁済(破産法2条7項)or按分弁済(破産法152条1項本文)を求めることになる(※)。□実践マ331
※財団債権の弁済は本来は承認許可事由だが(破産法78条2項13号)、規則により100万円以下の行為(ここでは現実の弁済額ではなく、財団債権の券面額が基準となる)は承認不要とされている(破産法78条3項1号、破産規則25条)。□管財手引254-5
・賃貸人としては、民事判決まで獲得したとしても全額が回収できるわけでもない(財団不足であれば回収できない)。このことを念頭に置きながら、管財人と現実的な和解を模索するのが穏当であろう。
野村剛司・石川貴康・新宅正人『破産管財実践マニュアル』[2009]★
愛知県弁護士会倒産実務委員会編『破産管財人のための破産法講義』[2012]
木内道祥監修・全国倒産処理弁護士ネットワーク編『破産実務Q&A220問』[2019]★
第一東京弁護士会総合法律研究所倒産法研究部会編『破産管財の実務〔第3版〕』[2019]
中森亘・野村剛司監修『破産管財PRACTICE』[2023]※具体例が参考になる。
中吉徹郎・岩崎(※)慎『破産管財の手引〔第3版〕』[2024]★※大に代わり立

