【例題】Xは、Y社製の複合機の導入を検討している。できるだけ初期投資を抑えたいし、税務面でも有利な方法を選択したい。
[ファイナンス・リースの形式と実質]
・リース取引の当事者は、ユーザー(レッシー)、リース業者(レッサー)、販売業者(サプライヤー)の3名となる。すなわち、ユーザーと販売業者との間で「リース物件の選定、搬入、保守契約の締結」、ユーザーとリース業者との間で「リース契約の締結、物件借受証の発行、リース料の支払」、リース業者と販売業者との間で「物件の売買契約の締結、売買代金の支払」が行われる。□リース事業協会「リース契約の特徴」、江頭213
・上記のとおり、リース取引の法形式は、対象物件についての「販売業者→〔売買〕→リース業者→〔賃貸借〕→ユーザー」となる。もっとも、その実質は「リース業者によるユーザーに対する設備投資金融」である。□江頭213
・リース取引のうち、特に、[1]リース期間内の中途解約が禁止され、[2]リース物件から生じる経済的利益と使用コストが実質的にユーザーに帰属する(=リース業者が売買代金等の全額を回収する;フルペイアウト)ものを「ファイナンス・リース」と呼ぶ(リース取引に関する会計基準5項)。□江頭214、桜井193
・ユーザーが物件調達にあたってファイナンス・リースを選択するもっぱらの理由は、税法上のメリット(=法定耐用年数よりリース期間を短く設定することで、物件の早期陳腐化による経済的償却不足を回避する)にある。□江頭215
[ファイナンス・リースの会計税務上の処理]
・会計では、法形式よりも経済的実質を重視する。ファイナンス・リースは、さらに、譲渡条件付きか否か等を基準として、「所有権移転ファイナンス・リース/所有権移転外ファイナンス・リース」に区分される。税務上は後者に分類されることにメリットがあり、そのためには(会計基準とは別に)リース期間を法定耐用年数の70%以上にとどめる必要がある。□リース事業協会「リース会計基準の概要」、同「リース税制の概要」
・いずれであっても、会計上、ファイナンス・リースは(賃貸借取引ではなく)売買取引として処理され、借方に「資産(有形固定資産);リース資産」、貸方に「負債;リース債務」が計上される。その評価額は、[a]所有権移転ファイナンス・リース取引;リース業者の購入価額が明らかなときは当該価額、明らかでないときはmin(リース料総額の現在価値、見積現金購入価額)、[b]所有権移転外ファイナンス・リース取引;min(リース料総額の現在価値、リース業者の購入価額(不明ならば見積現金購入価額)。□リース事業協会「リース会計基準の概要」、桜井194-7
・計上されたリース資産には、減価償却が行われる。[a]所有権移転ファイナンス・リース取引;自己所有の固定資産に適用する減価償却方法と同一の方法により、経済的使用可能予測期間を耐用年数として減価償却を行う。[b]所有権移転外ファイナンス・リース取引;リース期間を耐用年数とし、残存価額を0円とする。法人税法上は「リース期間定額法」のみが認められているため、実務上は「リース期間定額法」を採用することになる。□リース事業協会「リース会計基準の概要」、桜井197-8、江頭216-8
・支払リース料は、「利息相当額部分=支払利息(営業外費用)/元本返済額部分=リース債務の返済」として処理する。□リース事業協会「リース会計基準の概要」、桜井197-8
[ユーザーの契約違反等時の処理:解除と引揚げ]
・ユーザーによる契約違反(典型がリース料の支払懈怠)に対する約定としては、「期限の利益喪失型(+物件の引き揚げ)/契約解除型/折衷型(=期限の利益喪失→契約解除)」の3方式がある。□リース事業協会「リース契約書の主な条項」、江頭225
・標準契約書では、リース業者が物件を引き揚げた後の処理として、「物件の処分価値」と「満了時の見積残存価値」との差額の清算が約定される。仮にこのような約定がない場合でも、公平の原則により、リース業者は差額の清算義務を負う(最三判昭和57・10・19民集36巻10号2130頁)。□リース事業協会「リース契約書の主な条項」、江頭225-6
・ユーザーが破産した場合、一般の賃貸借契約であれば双方未履行契約となるものの、ファイナンス・リース契約はその実質を重視して「金融+担保」と扱われる(会社更生の事案につき、最二判平成7・4・14民集49巻4号1063頁)。そのため、リース業者は、別除権(所有権)に基づいて物件を引き揚げた上、物件評価額と残リース料の差額を破産債権として届け出ることになろう。□江頭227-8
・ここでいう「担保」の具体的中身についても定説をみない。[a]近時の裁判例(東京高判平成19・3・14判タ1246号337頁)は、「ユーザーが保持しているのは利用権(≠物件そのもの)であり、ユーザーは、リース業者のために、利用権上に担保権(権利質権)を設定している」と解する立場が有力となっている。この権利質権構成を貫徹すれば、リース業者は、破産開始決定時点で「確定日付のある証書をもって、ユーザー(利用権債権者)からリース業者(利用権債務者)への通知 or リース業者(利用権債務者)自身の承諾」を具備しなければならない、と結論されるはずである(民法364条、457条)。もっとも、破産実務では、(なぜか)対抗要件を不問にしたまま、リース業者による担保権の実行(=利用権の消滅+完全な所有権に基づく物件引揚げ)を肯定している。[b]「ファイナンス・リースにおける担保=リース業者による所有権留保」と構成する見解もある(理論的には批判も強い)。この所有権留保構成を採れば、そもそも担保権の設定行為が存在しないため、対抗要件は当然に不要となる(ただし、「販売業者→リース業者」間の所有権移転については対抗要件を要しよう(たぶん))。□調査配当169、江頭228、堀田116
・標準契約書では倒産解除特約が設けられている。民事再生事案ではファイナンス・リース契約の倒産解除特約を無効と結論した最三判平成20・12・16民集62巻10号2561頁が存在するものの、破産事案ではこの点を判断した最高裁判例が存在しない。文献の記載も別れており、全国倒産処理弁護士ネットワーク編(木内道祥監修)『破産実務Q&A220問』[2019]p298〔蓑毛良和〕は特約無効説が多数とし、愛知県弁護会倒産実務委員会編『破産管財人のための破産法講義』[2012]p95は有効だとする。もっとも、有効性が明示的に争点となる事案は少ないか(たぶん)。□リース事業協会「リース契約書の主な条項」
岡伸浩ほか編著『破産管財人の債権調査・配当』[2017]
江頭憲治郎『商行為法〔第8版〕』[2018]
堀田次郎「レンタル契約とリース契約」内田貴・門口正人編集代表『講座 現代の契約法 各論1』[2019]
桜井久勝『財務会計講義〔第21版〕』[2020]
※入手が容易な近時の民商法の体系書のうちで、「ファイナンス・リース」のまとまった記述があるのが江頭のみ(たぶん)。債権法改正での明文化が見送られたとはいえ、担保物権法・契約法・商取引法の体系書では相当の分量を割いて記述してほしい(ほんとお願いします・・・)。多くの学習者は、破産法の教科書で実体を学んでいるのが現状だろう(たぶん)。