契約不適合責任の実務

2024-05-01 13:30:31 | 契約法・税法

【例題】Xは事業縮小に伴い、Yに、所有する中古工作機械を500万円で売却し、これを引き渡した。この中古工作機械は年代物であり、しばしば動作に難が見られる。

《商事売買の納品・検査・検収》

 

[売主の債務不履行責任の規律]

・売買契約が締結されると、売主は、買主に対して次の義務を負う:□中田299-300

[1]契約の内容に適合した権利を移転する義務(民法565条参照)。

[2]種類・品質・数量に関して契約の内容に適合した目的物を引き渡す義務(民法562条1項参照)。

[3]他人の権利を売買の目的としたときはその権利を取得して移転する義務(民法561条参照、565条参照)。

・売主が「契約で定められた物の引渡し・権利の移転」を全く行わない場合は、売主は債務不履行責任一般を負う。□中田293,301-2,313

・売主が引き渡した物や移転させた権利が契約の内容に適合しない場合も、売主は債務不履行責任を負う(契約責任説)。民法の見出しでは特に「担保責任」と呼称され、講学上は「契約不適合責任」と呼ぶ。□中田293,300

 

[引き渡した物の契約不適合責任]

・目的物:契約不適合責任が対象とする「目的物」は有体物(民法85条)であれば足り、特に限定はない(例えば、特定物か不特定物かの区別は不要)。□中田301-2

・種類や品質に関する不適合(※):論理的には、まず「種類」が限定され、ある種類の中で「品質」の良否が問題となる(もっとも、法的効果の関係では種類と品質を厳密に分ける実益はない)。品質の不適合とは、当該契約において当事者が予定していた備えるべき品質や性能を欠くことを意味し、契約解釈の問題に帰着する。□中田302-3

※現行民法においては、不適合が「隠れた」ものか否かという点は要件とされていない。□中田302

・追完請求権:種類や品質に不適合があった場合、買主は、「目的物の修補」「代替物の引渡し」を請求できる(民法562条1項本文)。この追完請求を受けた売主は、「買主に不相当な負担を課するものでないとき」に限り、買主主張とは異なる方法による履行の追完が許容される(民法562条1項ただし書)。□中田309

・代金減額請求権:売主が相当期間内に履行追完をしない場合、買主は、不適合の程度に応じた代金減額を請求できる(民法563条1項)。代金減額請求は、契約の一部解除の性格を持つ。□中田310

・損害賠償請求権:契約不適合によって買主が損害を被った場合、買主は、債務不履行による損害賠償を請求できる(民法564条、415条)。□中田310

・解除:契約不適合により法定解除(民法541条の催告解除、542条の無催告解除)の要件が満たされる場合、買主は当該契約を解除できる(民法564条)。□中田312

・責任追及の期間制限:買主が売主の契約不適合責任を追及するためには、「買主がその不適合を知った時から1年以内」に売主にその旨を通知する必要がある(民法566条本文)。この「知った時から1年以内の通知」をすればひとまず救済方法(追完請求など)は保存されるものの、さらに消滅時効の規律が及ぶ。□中田316-9

 

[契約不適合責任免除特約の設定]

・契約不適合責任(担保責任)に関する民法の規律は任意規定に過ぎないので、後述の制約を受けない限り、特約で排除することは可能である(民法572条参照)。

・[特約の例]:救済方法の保全期間(1年)を短縮する。反対に伸長する。

・[特約の例]:救済方法の具体例を限定する。

・[特約の例]:損害賠償の上限を設定する。

 

[免責特約の制限(1):故意不告知売主の責任]

・「売主が知りながら告げなかった事実」については、免責は認められない(民法572条)。□中田322

 

[免責特約の制限(2):消費者契約における事業者の責任]

・消費者契約法は、事業者の債務不履行責任(→契約不適合責任)や不法行為責任の減免を制約している。□中田323

・[例1(×)]「事業者が債務不履行をし、これによって消費者に損害が生じても、事業者は賠償責任を一切負わない」→無効(消費者契約法8条1項1号)。全部免除に変えて、軽過失の場合の一部免除(賠償額の上限設定)であれば有効であるが、責任限定の程度が酷ければ消費者契約法10条違反となろう。

・[例2(×)]「事業者の故意or重過失による債務不履行をし、これによって消費者に損害が生じても、事業者は賠償責任の一部を免除される」→無効(消費者契約法8条1項2号)。したがって、事業者は、自身の故意重過失の場合に全額賠償を免れない。

・[例3(⚪︎)]「事業者は契約不適合責任による損害賠償責任を減免される一方で、事業者の追完責任or代金減額責任を設定する」→有効(消費者契約法8条2項1号)。例えば、「契約に適合した代替物を提供するが、代金減額には応じない」との約定は有効である。

・[例4(×)]「事業者の債務不履行があっても、消費者は契約を解除できない」→無効(消費者契約法8条の2)。

 

[免責特約の制限(3-1):不動産売買における売主=宅建業者の責任]

・宅地建物取引業者が自ら売主となって不動産を売却する場合、原則として、「民法の規律する契約不適合責任より買主に不利となる特約」は無効となる(宅地建物取引業法40条1項2項)。宅建業者が負う「8種規制」一つである。□中田323

・もっとも、唯一の例外として、救済方法保全の起算点を、「法定:買主が不適合を知った時から1年」から「特約:目的物の引渡日から2年以上」へと変更することは許されている(宅地建物取引業法40条1項)。

 

[免責特約の制限(3-2):新築住宅におけるハウスメーカーの責任]

・「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)は、「瑕疵担保責任」と題する章(第7章)を設けて、新築住宅の売主(+住宅新築請負契約の請負人)の責任を加重している。これによれば、新築住宅の売主は、「買主への引渡し時から10年間」の間、「住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵(※)」について、債務不履行による損害賠償(民法415条)、法定解除(民法541条、542条)、追完請求権(民法562条)、代金減額請求権(民法563条)を免れない(住宅の品質確保の促進等に関する法律95条1項)。

※債権法改正を経ても、同法の「瑕疵」という用語は維持された。□潮見(1)173

・上記の責任は売主にとって片面的強行法規となる(住宅の品質確保の促進等に関する法律95条2項)。したがって、「10年の責任期間を短縮する約定」「責任期間の起算点を買主不利にする約定」「瑕疵の内容を狭くする約定」は無効となる。□潮見(1)173-5

 

潮見佳男『新契約各論1』[2021]

中田裕康『契約法〔新版〕』[2021]

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