【例題】自動車部品製造業を営むX社は、自動車メーカーであるY社に、部品αを納めている。
[納品]
・企業間取引では「目的物の納品場所=買主工場渡し」とする例が多い。これ以外にも、取引基本契約や個別契約において、買主指定場所据付け渡し、売主工場渡し、発駅貨車積渡し、着駅オンレール渡し等の具体的な納品方法を約定することになる。当事者の意思表示によって定まらない場合は「行為の性質」によって定められ、それでも決まらなければ「特定物は物の存在場所」「それ以外の物は買主の営業所」となる(商法516条)。□阿部井窪片山39、江頭21
・売主側として、買主の受領拒絶時の特約を設定することも考えられよう。約定がない場合は、民法の受領遅滞責任(413条、413条の2)によって処理される(商法524条の供託権も適用されるが、使いにくい)。□阿部井窪片山40-2、江頭27-8
・目的物の所有権移転時期と危険移転時期については、納品時or検収時(or代金完済時)のいずれかを約定する例が多いか。□阿部井窪片山57-60、江頭21-3
[検査・検収(1):買主による納品時検査]
・買主は通常、納品を受けた目的物が契約に適合しているかを検査し、検査に合格したものを受け入れる。検査を経て受け入れる行為を「検収」と呼称する。□阿部井窪片山42
・任意規定である商法526条1項によれば、買主の検査時期は「納品後遅滞なく」となる。商法526条1項を排除している契約書であっても、「遅滞なく」との文言を維持しているものは多いか(たぶん)。遅滞の有無は目的物の種類、数量、引渡場所などから判断されるものの、疑義を避けるために「納品後●●日以内」と約定する例もあろう。□阿部井窪片山47、江頭31
・買主が第三者に目的物を転売することを予定し、第三者の下で初めて検査可能となることを売主も了解している場合は、「目的物が第三者に到達した時」が検査義務の発生時期になる。□阿部井窪片山47、江頭30
・検査方法や検査基準が具体的に約定される例もある。商法526条2項の文言を借りれば「目的物の種類、品質、数量」が検査される。買主と売主のいずれの立場であっても、求められる品質を明記しておくのが望ましい。□阿部井窪片山47-8,60-1、江頭31-3
・買主が親事業者、売主が下請事業者に該当する場合、検査の有無は下請代金の法定支払期限(納品から60日以内)に影響しない(下請代金支払遅延等防止法2条の2第1項)。□江頭37
・約定で排除しない限り、商人間(製作物供給契約を含む)の売買には、商法526条が適用される(債権法改正前後で規律内容のベースは維持されている)。526条は買主に厳しく、同条が要求する通知を怠れば一切の救済が封じられる。□江頭29-30,33-4
[検査・検収(2):買主による不合格通知と権利行使]
・買主が目的物の契約不適合を発見した場合、売主に適切な善後策を講じる機会を与えるべく、商法526条2項にならって「売主へ通知する」と約定するのが通例であろう。商法526条2項の通知の内容としては、不適合の種類と大体の範囲を明らかにすれば足りると解されている。□阿部井窪片山49
・通知の期限を限定するために「発見した時から●日(営業日)以内」「納品した時から●日以内」と約定することが考えられる。明記がない場合の通知期限は「直ちに」とされる(商法526条2項)。□阿部井窪片山49
・約定(or法定)の不合格通知を行った買主が採りうる手段としては、任意規定として、①(売主の選択権付き)追完請求(民法562条1項)、②代金減額請求(民法563条)、③損害賠償請求(民法564条、415条)、④解除(民法564条、541~542条)がある。実際の約定では、これら任意規定の存在を意識しつつ、具体的な請求内容を明記すべきである(売主の追完方法選択を封じる、売主に買戻義務を課すなど)。□阿部井窪片山50、江頭34-5
・法文上、通知による権利保存期限(=不適合の発見時から「直ちに」:商法526条2項)と、権利行使の消滅時効期間(=不適合の認識時から「5年」:民法166条1項)は区別される。約定の作成時には、両者のいずれについて述べるのかを意識することが重要である(※)。□阿部井窪片山50-3、江頭35
※鹿野菜穂子「時効と合意」金山直樹編『消滅時効法の現状と改正提言』[2008]p53「・・・学説も、時効利益の事前放棄を否定する民法146条と同様の趣旨から、時効期間の延長や中断事由の排斥など、時効の完成を困難にする特約は一般に無効であるが、逆に時効期間を短縮するなど、時効の完成を容易にする特約は、妨げないとしてきた。」
[検査・検収(3):事後的な不適合の発見]
・任意規定である商法526条2項後段によれば、納品時(納品直後)の検査をパスした場合、納品から6か月を経過して不適合を発見したとしても、もはや売主への権利行使ができなくなる。□江頭33
・この事態を避けたい買主側としては「6か月」という期間を延長する約定を望むだろうし(例えば「1年」に伸ばす例が多い)、反対に売主は「6か月」をさらに短縮する・売主の責めによる場合に限定する約定を望むだろう。□阿部井窪片山67-9、江頭33-4
・実務上、「品質や性能の保証期間」を約定する例があるが、これが不合格通知期間を延長する趣旨と解されるかはケースバイケースか。□江頭34
江頭憲治郎『商取引法〔第8版〕』[2018]
阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式〔第2版〕』[2019]