どのような場合に,労働者による年休の時季指定に対して,時季変更権を行使して,その日に働いてもらうことができるのでしょうか?
まず注意すべきことは,年休は労働者が時季指定をすることで発生するものですから,使用者が時季変更権を行使できるのは,「事業の正常な運営を妨げる」という例外的な場合に限られるということです。使用者には労働者が時季指定をした日に有給休暇を取得できるよう配慮することが求められています。
なお,時季変更権を行使する際には,代替日を指定する必要はありません。
では,どのような場合に「事業の正常な運営を妨げる」場合に該当するかですが,具体的には,その労働者の従事する業務組織の運営上,その労働者が年休日に不可欠な要員であり,他に代替要員の手配が容易にできない場合を言います。
もっとも,この要件にあたるかどうかは,結局は,諸般の事情を総合考慮して個別的に行うとしか言えないのですが,一般的な考慮要素としては以下のものが挙げられます。
・会社の事業規模,業務内容
・その労働者の担当業務の内容,性質
・業務の繁閑
・代替要員確保の難易
・他の労働者との調整の有無
・指定された有給休暇の日数
・休暇取得に関するこれまでの慣例など
判例には,労働者による24日間連続での時季指定に対して,その内の12日間の時季変更権を認めた事案があります。ただし,この事案は,労働者が事前の調整もなく時季指定をしてきたこと,労働者の担当業務は専門的知識が必要なもので代替要員の確保が難しかったという事情などを総合考慮した上で,時季変更権を認めたものでした。
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