実際に懲戒解雇 に相当する事由が存在し,裁判で立証できれば退職の意思表示は有効で問題はないのですが,そうでない場合には,当該退職の意思表示は錯誤無効になるという問題があります。
また,無効と判断された場合,労働者の地位確認とともに賃金請求も請求されていた場合には,その間の賃金も支払わなければならなくなる可能性があるのでより注意が必要です。
裁判例は,(懲戒)解雇 の告知(その可能性)を伴う場合には,当該解雇が有効にできるかを検討し,これが否定される場合には退職の意思表示に瑕疵(取消または無効)を認める傾向にあります。
つまり,解雇が有効かどうかは退職勧奨 等から判決までのプロセスを経て初めて確定するものである以上,解雇をちらつかせた退職処理はリスクがあるということです。
そこで,退職の意思表示が無効になるリスクを回避するためには,労働者に解雇が確実なものではないことを十分に理解してもらったうえで,真摯な退職意思の表明であることを書面などで確認しておく位の周到さが必要と言われています。
なお,錯誤以外にも,詐欺,強迫,心裡留保(本当は退職するつもりもないのに退職すると言い,その真意につき使用者も知っていた場合)に基づいて労働者が退職の意思表示をした場合にも取消事由または無効事由となりますので注意が必要です。
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