弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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勝手に残業して,遊んだりしていたとしても,労働者の請求どおり残業代を支払わなければなりませんか?

2016-02-09 | 日記

残業代支払請求をしてきました。タイムカードの打刻時間に基づいて午前9時から午後8時まで働いていると主張しています。しかし,当社の①始業時刻は9時30分ですし,また,②残業するよう命じていたわけでもありません。③実際には午後8時までは働いておらず社内に残ってインターネットなどをして遊んでいたはずです。このような場合でも,労働者の請求通り支払わなければなりませんか?


 貴社がどのような資料(証拠)を有しているかにもよりますが,労働者の請求通り支払わなければならない可能性があります。

 多くの裁判例は,タイムカード等の客観的な記録に基づいて時間管理がされている場合には,特段の事情のない限り,その打刻時間等をもって実労働時間と事実上推定しています。

 そのため,使用者としては,タイムカード通りには仕事をしていないという特段の事情を立証できるかがポイントになります。

① 始業時刻前の出社(早出出勤)について

 実労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,その判断は客観的に定まります。

 この点については,義務づけ(強制)の程度,業務性の有無,時間的場所的拘束性の有無などを考慮して検討することになります。

 例えば,業務命令として始業時刻前に朝礼や交代引継をしていたのであれば労働時間と認定されることとなります。これに対して,電車の遅延等で遅刻しないために毎朝余裕をもって出社していたにすぎないような場合には,使用者の指揮命令下に置かれているとはいえないので,労働時間と認定されないこととなるでしょう。

 以上より,検討の際には,なぜ当該労働者が始業時刻前に出社していたのかを見極める必要があります。

② 残業の命令をしていない(勝手に残業していた)との主張について

 単に,残業を命じていなかっただけでは,黙示の残業命令があったと認定されてしまう可能性が高いです。

 裁判所は,黙示の残業命令の有無について,所定労働時間内に終了できる業務量だったか,残業が恒常的なものとなっていたか,使用者が残業の中止を命じていたかなどの要素から判断しています。

 このことからすると,もし形式上は残業を禁止していたとしても,実情として残業が恒常的であり,上司がこれを認識ながら黙認していた場合には,労働時間として認められる可能性が高いと言えるでしょう。

③ 遊んでいたとの主張について

 単に,遊んでいたはずだと抽象的に主張するだけでは裁判所がこの主張を採用する可能性は低く,個別具体的に特定した主張をする必要があります。

 裁判所がこのような傾向をとるのは,使用者には労働時間管理義務があること,タイムカードの打刻時間の範囲内は仕事をしていたものと事実上推定されることにあるためのようです。

 したがって,仮に遊んでいたのであれば,毎日の残業状況をチェックし,記録化等をし,個別具体的な主張ができるようにしておく必要があります(もっとも,このような状況を見つけた場合には,まずは注意等し,改善するよう促すことが筋だとは思います。)。


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「課長」職の残業代について

2016-02-09 | 日記

労働者が「時間外労働」や「深夜労働」に対する割増賃金を請求してきました。しかし,その労働者は当社における「課長」職についています。そのため,管理監督者に該当するため,残業代などを支払う必要はないですよね?


 管理監督者に該当しない可能性があり,その場合には,残業代 等を支払わなければならなくなります。

 なお,前提として仮に管理監督者に該当したとしても,「深夜労働」に対する割増賃金の支払義務は免除されず,支払義務があるので注意してください。

 この点,管理監督者に対する支払い義務が免除されるのは,「時間外労働」,「休日労働」に対する割増賃金です。

 まず,注意すべき点は,いわゆる「管理職 」が当然には管理監督者には当たらないということです。

 管理監督者の趣旨は,「職制上の役付者のうち,労働時間,休憩,休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない,重要な職務と責任を有し,現実の勤務態様も,労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って管理監督者として法41条による運用の除外が認められる」(昭22.9.13基発17号)とされています。

 では,どのような者が管理監督者といえるかについてですが,行政通達によると,労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者を言い,名称にとらわれず,実態に即して判断すべきとされています。

 裁判所では,管理監督者該当性について比較的厳格にとらえているようですが,具体的には以下の基準をもって判断しています。

① 職務内容,権限および責任の重要性

② 勤務態様(労働時間(出退勤)について自由裁量があるか)

③ 賃金等の待遇

 以上を踏まえて,貴社の「課長」職が管理監督者に該当するかを検討することになるのですが,その際には,この3つの基準について,以下の資料(証拠)等に基づいて検討していくことが有益です。

①に関して

 雇用契約書,企業全体および勤務部門の組織表,職務の範囲権限を定めた文書

②に関して

 雇用契約書,就業規則,タイムカード,出勤簿,シフト表

③に関して

 雇用契約書,賃金規程,賃金台帳

 ですので,労働相談の際には,以上の関連資料をお持ち頂くとスムーズに検討することができます。


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基本給の中に割増賃金を組み込んで定額残業代を支払う場合の注意点

2016-02-09 | 日記

当社は,基本給の中に割増賃金を組み込んで定額残業代を支払っています。労働者から残業代請求がされた場合,残業代を支払わなければならないのでしょうか?


 支払わなければならない可能性があります。

 定額残業代 には,手当型(割増賃金の支払に代えて一定額の手当を支給)と組込型(基本給の中に割増賃金を組み込んで支給)があります。

 組込型の場合には,一見すると賃金額が高くみえるため,労働者を募集しやすくなる反面,トラブルになるケースが増えていると言われています(基本給部分を低く抑えようとするあまり,これが最低賃金を下回らないように注意)。

 定額残業代として有効かどうかは,一般的には,割増賃金を基本給に組み込んで支払う場合は,割増賃金部分が他の部分と明確に区分されているかどうか(明確区分性)及び手当型の場合にはその手当が実質的に時間外手当に当たるといえるかにあると言われています。

 明確区分性の有無は,就業規則(給与規定),雇用契約書,賃金台帳,給与明細,実際の運用などから総合的に判断されます。

 例えば「基本給30万円(残業代込み)」という記載だけでは不十分であり,これでは定額残業代としては認められません。

 そこで,事前の対策としては,支払われる給与のうち,割増賃金部分に相当する手当ないし部分を明確にし,それが何時間分の割増賃金に当たるのかを就業規則(給与規定),雇用契約書等に明示し(当然のことではあるが,定額残業代でカバーされている時間外労働等を超える労働があった場合には,その分の割増賃金は別途支払われる旨も明示しておくとベター),賃金台帳に定額残業代として計算された金額を明確に記載しておくこと等が考えられます。

 まとめると,以下のようになります。

① 定額残業代と認められた場合

(1) 割増賃金の基礎賃金

 算入されない

(2) 残業代について

 (一部又は全部)弁済済み

② 定額残業代と認められない場合

(1) 割増賃金の基礎賃金

 算入される

(2) 残業代について

 弁済済みとならない


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月給と歩合給を組み合わせる方法で給料を支払う場合の残業代の計算方法

2016-02-09 | 日記

当社は月給と歩合給を組み合わせる方法で給料を支払っています。割増賃金計算の基礎となる賃金および残業代はどのように算出されるのですか?


 割増賃金計算の基礎となる賃金の算出方法(時間賃金もしくは時間単価)は,労働基準法施行規則19条に定めがあります。

 月給と歩合給を組み合わせて支給している場合(貴社の場合)だと,各計算方法で算出した金額の合計が割増賃金計算の基礎となる賃金になります。

 各計算方法は,

(1) 月給の場合は,1か月の所定労働時間(不定の場合は1年での1か月平均)で割った金額

(2) 出来高払の場合は,賃金算定期間の賃金総額をその間の総労働時間で割った金額

となります。

 そして,残業代 =①割増賃金計算の基礎となる賃金×②残業時間数×③割増率という計算式で算出されます。

 そこで,次の例で具体的な算出方法をみてみます。

・月給20万円,歩合給5万円

・月平均所定労働時間数170時間

・当該月の総労働時間数200時間

・当該月の時間外労働時間数30時間

 なお,実労働時間数について争いのないことを前提にしています。

        ↓

・月給部分 (①20万円÷170時間)×②30時間×③1.25=4万4100円

・歩合給部分 (①5万円÷200時間)×②30時間×③0.25=1875円

 したがって,4万4100円+1875円=4万5975円が残業代になります。


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私傷病休職の休職事由が消滅しているため復職の要件を満たすと評価することができるというためには

2016-02-09 | 日記

私傷病休職の休職事由が消滅しているため復職の要件を満たすと評価することができるというためには,具体的にどのような場合であることが必要ですか。


 私傷病休職制度は一般に解雇を猶予する制度ですから,休職事由の消滅は,どのような場合であれば普通解雇することができるかを念頭に置いて考える必要があり,私傷病休職の休職事由が消滅しているため復職の要件を満たすと評価することができるというためには,労働契約における債務の本旨に従った履行の提供がある場合(労働契約で予定された労務の提供がある場合)であることが必要です。

 具体的に,どのような場合に労働契約における債務の本旨に従った履行の提供があると評価できるかについては,日本電気事件東京地裁平成27年7月29日判決(労経速2259号3頁)が以下のようにの判示しているのが参考になると思います。
 「就業規則において復職の要件とされている『休職の事由が消滅』とは,原告と被告の労働契約における債務の本旨に従った履行の提供がある場合をいい,原則として,従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合,又は当該軽易業務に就かせればほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合をいうと解される。」
 「また,労働者が職種が業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては,現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても,当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ,かつ,その提供を申し出ているならば,なお債務の本旨に従った労務の提供があると解するのが相当である(片山組事件最高裁判決参照)。」
 「本件では,原告と被告の労働契約は,職種は総合職で,給与は月給23万6600円で,本件休職命令時の職位はA職群3級(総合職の最下位)であったから,『休職の事由が消滅』といえるには,被告の総合職の3級として債務の本旨に従った労務の提供といえることが必要であり,従前の職務である予算管理業務が通常の程度に行える健康状態となっていること,又は当初軽易作業に就かせればほどなく上記業務を通常の程度に行える健康状態になっていること,これが十全にできないというときには,被告においてA職群(総合職)3級の者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ,かつ,原告がその提供を申し出ていることが必要である。」


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割増賃金計算の基礎となる賃金を教えてください。

2016-02-09 | 日記

割増賃金計算の基礎となる賃金を教えてください。


 割増賃金計算の基礎となる賃金とは,以下の除外賃金を除いた賃金のことを言います。除外賃金は,限定列挙であり,これらにあたらない限りは,全て割増賃金の基礎となる賃金に算入する必要があります。

・家族手当

・通勤手当

・別居手当

・子女教育手当

・住宅手当

・臨時に支払われた賃金

・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

 しかし,注意が必要なのは,上記の名目でありさえすれば除外賃金に該当し基礎となる賃金に含めなくて良いというわけではなく,割増賃金計算の基礎とすべき賃金に含まれるかどうかは,当該手当の実質に着目して判断されるということです。言い換えると,これは,仮に手当にこれらの名称が付されていなくても,除外賃金と実質的に同様の内容であるのであれば,除外賃金として取り扱うことが可能な場合もあることを意味します。

 例えば,住宅手当という名目であっても,住宅に関する費用に関わらず一律に定額で支給されるものは,除外賃金とはいえず,割増賃金計算の基礎となる賃金に含まれます。他方で,生活手当のような名称であったとしても,実質は扶養家族の有無・数によって算定される手当であれば,除外賃金としての家族手当に該当します。


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1年単位の変形労働時間制を採用するための要件

2016-02-09 | 日記

当社は1年単位の変形労働時間制を導入していますが,導入の際,過半数労働組合がなく,過半数代表者を選出する手続きを踏んでいませんが,労働基準監督署長に届出をし,就業規則に定めがあります。問題はありますか?


 貴社の場合,当該変形労働時間制が無効となる問題があります。

 以下,順を追って説明します。

 まず,1年単位の変形労働時間制を採用するためには,以下の要件を満たす必要があります。

① 労使協定で次の各事項を定めること

(1) 対象労働者の範囲

(2) 対象期間および起算日

(3) 特定期間

(4) 労働日および労働日ごとの労働時間

(5) 法定労働時間の総枠内であること

(6) 有効期間

② 労使協定を労働基準監督署長に届け出ること

③ 就業規則に1年単位の変形労働時間制の定めをおくこと

 次に,労使協定を定める際には,

 事業場の労働者の過半数の組織がある場合にはその労働組合,それがない場合には,

 労働者の過半数を代表する者との書面によることが必要です。

 そして,の場合には,手続の民主性を保障するため,以下の要件を満たさない場合には,その労使協定は無効となります。

1 過半数代表者は管理監督者ではあってはならないこと

2 過半数代表者が投票,挙手などの方法によって選出されていること

 以上の説明を前提とすると,貴社は,②と③の要件は満たしているものの,①の労使協定の締結について,の場合に該当するにもかかわらず,2 過半数代表者が投票,挙手などの方法によって選出はされていないとのことですので,ご質問の回答は当該労使協定が無効となる問題があるということになります。

 したがって,仮に労働者から割増賃金の支払いを請求された場合には,変形労働時間制を前提に賃金を算定することはできなくなります。つまり,労基法の原則どおり,1日8時間の法定労働時間,1週間40時間の法定労働時間を超えていた場合には,その分の残業代 を支払う必要があります。


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