貴社がどのような資料(証拠)を有しているかにもよりますが,労働者の請求通り支払わなければならない可能性があります。
多くの裁判例は,タイムカード等の客観的な記録に基づいて時間管理がされている場合には,特段の事情のない限り,その打刻時間等をもって実労働時間と事実上推定しています。
そのため,使用者としては,タイムカード通りには仕事をしていないという特段の事情を立証できるかがポイントになります。
① 始業時刻前の出社(早出出勤)について
実労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,その判断は客観的に定まります。
この点については,義務づけ(強制)の程度,業務性の有無,時間的場所的拘束性の有無などを考慮して検討することになります。
例えば,業務命令として始業時刻前に朝礼や交代引継をしていたのであれば労働時間と認定されることとなります。これに対して,電車の遅延等で遅刻しないために毎朝余裕をもって出社していたにすぎないような場合には,使用者の指揮命令下に置かれているとはいえないので,労働時間と認定されないこととなるでしょう。
以上より,検討の際には,なぜ当該労働者が始業時刻前に出社していたのかを見極める必要があります。
② 残業の命令をしていない(勝手に残業していた)との主張について
単に,残業を命じていなかっただけでは,黙示の残業命令があったと認定されてしまう可能性が高いです。
裁判所は,黙示の残業命令の有無について,所定労働時間内に終了できる業務量だったか,残業が恒常的なものとなっていたか,使用者が残業の中止を命じていたかなどの要素から判断しています。
このことからすると,もし形式上は残業を禁止していたとしても,実情として残業が恒常的であり,上司がこれを認識ながら黙認していた場合には,労働時間として認められる可能性が高いと言えるでしょう。
③ 遊んでいたとの主張について
単に,遊んでいたはずだと抽象的に主張するだけでは裁判所がこの主張を採用する可能性は低く,個別具体的に特定した主張をする必要があります。
裁判所がこのような傾向をとるのは,使用者には労働時間管理義務があること,タイムカードの打刻時間の範囲内は仕事をしていたものと事実上推定されることにあるためのようです。
したがって,仮に遊んでいたのであれば,毎日の残業状況をチェックし,記録化等をし,個別具体的な主張ができるようにしておく必要があります(もっとも,このような状況を見つけた場合には,まずは注意等し,改善するよう促すことが筋だとは思います。)。
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