いーちんたん

北京ときどき歴史随筆

雑談・アニメ界の『紅楼夢』?

2014年02月12日 19時16分13秒 | 北京雑感
ところでそんなこれでもか、という政府の手厚いアニメ産業支援制作から生まれた『喜羊2と灰太郎』だが最近、放映が禁止になったという。
そのニュースを聞いて、実は私は「ああ。やっぱりね」と納得したものである。
政府の援助を大量にもらっておきながら、こんな作品、ええんやろか、と思っていたところだったので。


というのは、この作品、けっこう笑えないくらいシュールな大人のメッセージがあちこちに秘められていて、
私はひそかに「アニメ界の『紅楼夢』」と呼んでいる(笑)。


『紅楼夢』といえば、美女たちと貴公子の戯れというハーレムのようなチャラいテーマですよ、と見せかけつつ、実はその中に刃物のように鋭い
あまたの体制批判を盛り込んだ、言論とうせいに徹底的に対抗するがための「隠れ蓑」作品である。
当時の文人は「モンゴル高原にホーミーという歌い方があり、歌い手が同時に二つの旋律を奏でるらしいが、『紅楼夢』がまさにそれである」という風に評している。


このアニメ作品、基本ストーリーは、狼が羊を食べたいと狙い、羊たちが仲間と団結していつもその魔の手から逃れる、という
『トムのジェリー』のようなドタバタ漫画である。


ところで私情で恐縮だが、2年ほど前から私は、姪たちを夏休みに中国に呼び寄せ、中国に親しんでもらおうという試みを始めており、
アニメで中国語の勉強になるかしら、ということで、この作品を見せていた。

大人である私も傍らで鑑賞することになり、横目で見ているうちに「むむむ、この作品、シュールすぎて笑えない」と、次第に「宝さがし」にはまるようになっていった。
子供向けのドタバタ喜劇ですよ、と見せかけつつ、制作者の「遊び」がふんだんに盛り込まれている。


たとえば、劇場版作品のテーマは、「取り壊し」。
狼の灰太郎がおくさんと子供と寝ていたら、いきなり屋根がクレーンで釣り上げられてなくなり、ブルドーザーで周りがさら地にされてしまった、というシーンから始まる。
トラのやくざな集団の「地上げ屋」に理不尽に出ていけ、といわれ、普段は敵対している羊の喜洋洋らもこの時ばかりは協力して、ともにやくざな「地上げ屋」という悪と戦い、勝利する、というストーリー。

最後には、トラの「地上げ屋」の手下のトラたちに水を浴びせたら、ペンキが剥げ落ちてネコに戻ってしまい、
えらそうに凄んで見せていたのは、ただのネコという「張子の虎」でした、という強烈な皮肉つきである。


ニュースではほとんど報道されないが、今全土では立ち退き問題のために、各地で壮絶な摩擦が火花を散らしている。
日本の地上げ問題とちがい、こちらは「お上」が率先してこれにかかわっているから、「民間の一部の悪徳商人のやること」と片づけられる問題ではないのだ。
こちらの高等教育を受けた若者らにとって、日ごろの酒の肴はそういったたいせいの横暴への愚痴であり、
子供向けの娯楽作品の中にその世界観が、ふんだんに盛り込まれている。

子供たちは「わああい、わああい、トラがネコになったああああ」と倒された地上げ屋を見て、無邪気に手をたたくのだから、これはまずいでしょうーーー。


せいふのお金をさんざんつぎ込んでようやく育てた鳴り物入りの国産アニメで、お上のお金をさんざん食って、こんなもの作ったら、まずいっしょー。
当局としては、まさに「飼い犬に手をかまれた」状態になり、「おめええ、ふざけるな」だろう。

名目上の理由は、「狼が羊を食べるというテーマ自体が、子供には残酷でふさわしくない」といった、今更なにをいう、という取ってつけたような口上だが。。。

おそらくは、子供向けの作品だということで、これまで検閲漏れしていたのではないだろうか。
そういう目でチェックしないから、けっこう長い間野放しにされ、制作者側はけっこう長い間、遊んで楽しんでいた。。。。。
しかしようやく「やばいでしょ」という評判がたつようになり、検閲の目にもひっかかった。。。ということではないだろうか。

さんざんテコ入れしてきた作品なので、今さら放り出すにはあまりにも惜しい。
禁止される前は、テレビをつければほぼどこかしらの局で放映されており、
「いつでもどこでも」見られるくらい、洪水シャワーのようにさんさんさんさん、せっせせっせと中国の子供たちに降り注ぎ続けていたのだ。
今後も放映は再開されるかもしれないが、内容は、おとなしい無難なものに変わるのだろう。

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