l'esquisse

アート鑑賞の感想を中心に、日々思ったことをつらつらと。

六本木アートナイト

2009-04-11 | アート鑑賞


六本木 2009年3月28日-29日

春というにはまだまだ冷たい風の吹く3月最後の土曜の夕方、冬のコートを着ていそいそと六本木に向かった。目指すイベントは、この日の夕方から夜通し翌日の夕方まで六本木界隈で開催される「六本木アート・ナイト」。大まかにサイトをチェックし、「アーティスト・ファイル2009」「ジャイアント・トらやんの大冒険」、野外の展示作品をザッと観られればいいや、というノリで出かけた。

最初に向かったのは、国立新美術館にてこの日だけ無料で夜10時まで開放されていた「アーティスト・ファイル2009」(5月6日まで開催)。ちなみに六本木エリアで開催されていたその他の展覧会、「ルーヴル美術館展 美の宮殿の子どもたち」(国立新-6月1日まで開催)と、「U-Tsu-Wa うつわ」展(21_21 DESIGN SIGHT-5月 10日まで開催)も22:00まで、「一瞬のきらめき まぼろしの薩摩切子展」(サントリー美術館-5月17日まで開催)は23:00までと、この日はみな普段より遅くまで開館。

降り立った乃木坂の駅が余りに閑散としていたのでやや心配になったが、国立新美術館に足を踏み入れるとバンドの演奏で盛り上がっているところで、「アーティスト・ファイル2009」の展示室の中も若い人たちを中心に賑わいをみせていた。この晩20時からのギャラリー・トークにいらしていた村井進吾氏のお話のさわり部分だけ拝聴。重量感のある黒御影石の作品のイメージに合わせたがごとく上下黒で決めた村井氏は、長身でがっちりした体躯の作家さんであった。単純に切り出されているように見える作品も、よく観るといりこに細かくカットされているとのこと。ふむ。

この展覧会については別途書くとして、ちょうど一通り観終わった頃に赤坂からタクシーを飛ばしてやってきた友人が合流、六本木ヒルズへ。取り急ぎジャイアント・トらやんの元へ向かおうとエスカレーターを降りていると、後ろに立つ友人が私の腕を引っ張る。なにごとかと思ったら、下からカルロス・ゴーン氏が上がってくるところだった。すれ違うときに友人が「ハロー」と手を振ると、氏もラブリーな笑顔で手を振り返してくれた。昨今の経済危機で、経営者としてとても大変な日々を送られていることと思うが、普段はこのようににこやかな笑顔を返してくれる余裕に氏の高感度アップ。

そうこうしているうちに、眼下にジャイアント・トらやんの後姿が。私にとって初めて観る立ち姿だ。が、ウキウキしたのも束の間、スタッフに尋ねると火を噴くのは夜中の12時半とのこと。こりゃだめだ、と肩を落としていたところ、突然トらやんが火を噴いた。火炎の威力はそれほどではなかったが、何発か小出しに噴射してくれた。22時にヤノベケンジ氏のトークがあるというので、とりあえずそれまで野外展示の作品を観ようか、と端っこで友人とパンフレットに見入っていると、なにやら背後で関西弁で指示を出しながら動き回っている人が。振り向くとヤノベ氏だった。ああ、お元気そうで何より。

ということで、まずはちょうど横にある毛利庭園へ。入ってすぐ、右手の小高くなった芝の上に鎮座するのは、森万里子による内照式ガラスの大型彫刻作品『プラントオパール』。長円形の大きな物体が横たわり、オパールのように幻想的に色を変えながら怪しくも美しい光を放っている。帰りに観ると、2歳児くらいの男の子が芝地の中に入って、作品の手前で這い這いを途中で止めたような格好で作品にじっと観入っていた。発光体とそれを動かずじっと見詰める幼児の姿は、それ自体SFチックなインスタレーション作品のようであった。

その斜め左では、これまた怪しげな白い煙がモワーっと立ちのぼっている。霧の彫刻と紹介されている、中谷芙二子による霧とライトのインスタレーション『霧の庭 #47662』。薄暗くてよく見えないが、結構な大きさの池全体から霧がもうもうと立ち込めているように見える。池沿いに少し奥へ進んでみると、池の端からパイプが数本出ていて、そこからシューシューと人口の霧が盛大に噴き出ていた。そばにあった桜はかろうじて数本花をつけていたが、満開でライトアップされていたら「黄泉の国」のような雰囲気が出たかもしれない。

建物の方へ戻ると、大屋根プラザにドゥ・ジェンジュンによるインタラクティブアート『私はあなたの跡を消す』。裸の人々が四つん這いになって、両手に持った雑巾か何かでごしごし拭く姿を上から映した映像が床に映し出される仕掛けになっている。自分がその床に足を踏み入れると、その拭き拭き集団の人がさっと自分の足元に現れ、そこに立つ自分の存在、痕跡を拭き取ってしまう、というインスタレーションらしい。一応端から端まで歩いて、一歩ごとに自分の足元に現れてごしごしやる人の裸の背中を見て楽しんだ。

ウェスト・ウォークでは、藤原隆洋による回転式巨大バルーン『into the blue』と、丸山純子による花と泡のインスタレーション『泡花壇』。前者は、ソフトクリームのように段々になった青色の三角錐のバルーンが天井から吊るされ、くるくる回っていた。最大直系8.5mの大きな作品で、中は空洞。真下に立って見上げていたら、何だかどんどん上の方へ吸い込まれていくような感覚に襲われた。西洋の教会建築の、天上へといざなうクーポラを見上げたときとちょっぴり似たような効果を感じたのは私だけだろうか?後者は、プラスティック製の白い花々と、その中ところどころに小ぶりな白いポリ容器が配置された花壇。まばらに照明が当てられ、ポリ容器からは泡がブクブク溢れている。不思議な雰囲気を醸し出す花壇だった。

    左が『into the blue』、右が『泡花壇』

そろそろ時刻は22:00。ヤノベ氏の登場に合わせて絶対火炎放射があるはずだと思い、再びトらやんの元へ。既に大勢集まっており、正面は諦めて向かって左手にスタンバイ。司会者の前フリが終わり、いよいよヤノベ氏が登場、というときだった。それまで正面を向いていたトらやんが、急に私のいる方向にドンピシャの角度で顔の向きを変え、ゴーッと何度か火を噴いた。炎の熱波を頬に感じながら、これは私への挨拶に違いない、と一人浮き立つ私はアホである。

少し氏の話を聞いていたが、連れが風邪をひいていてちょっと辛そうだったので、ここは先ほどのトらやんの挨拶でよしとし、その場を後にした。ヒルズの周りに点在する2m四方のコンテナ、アート・キューブの中でくるくる回転するおもしろい作品群を覗き込みながら、再びミッドタウンの方へ。入り口でもコンテナを一つ観たが、ミッドタウンの方は屋内の展覧会やイベント以外はちょっと寂しかったかもしれない。ちなみにこのアート・キューブは、六本木界隈に全部で20個ほど展示されていたそうだ。

余り深く考えないで行ったイベントだったが、寒かったわりには集客率も悪くなく、面白い試みであったと思う。願わくば、第二弾、第三弾、と続けて欲しい。

と、話をまとめたようで実はここで終わらない。

翌29日。18:00にジャイアント・トらやんの最後の火炎放射があるというので、新宿で別の展覧会を観たあと、それだけを観にまた六本木に行ってしまった。10分前くらいに到着したのだが、今回トらやんはパーカッション・バンドとコラボしており、ちょうどクライマックスに向かって沢山のパーカッションから繰り出される雪崩のようなビートに反応して踊っているところだった。こちらも自然にリズムをとって体が動き出し、独特の高揚感に。もうこれは儀式である。ヤノベ氏の「トらやんは徹夜で頑張ったので、最後に『トらやんありがとう!』と皆で言いましょう」という呼びかけで、会場に集まった皆で何度か練習し、やっと声がまとまってきたところで本番。

トらやん、ありがとう!

そして最後の火炎大噴射。

ヤノベ氏は、「何度も火を噴くから(実際20発目くらいまでは私も数えていた)、シャッター・チャンスは沢山あります」とおっしゃったが、私は写真を撮る気にならず、連射される炎をただひたすら見詰めていた。最後の炎がか細く終息されていくまで。

 二日間のパフォーマンスをすべて無事にこなしたトらやんの後姿。"ヒルズや、兵どもが夢の跡"

尚、トらやんファイヤーの他に、トらやんウォーキングというパフォーマンスもある。私は見逃したが、ありがたいことにテツさんのブログに動画があるので、ご興味のある方はご覧あれ。

のちに同僚が、朝のワイドショーでこのイベント後に解体されて運搬されるトらやんの様子を見たと教えてくれた。「ねぇ、なんであんなロボットがアートなの?」と真顔で尋ねる彼女。"あんなロボット"、他に誰も造れないでしょう?そこがアートなのよ。




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