8月1日、王監督が入院している病院へお見舞いに行ってきた。多くの方々がお見舞いに来ているのではないか、ご迷惑になるのではないか、と考えつつ、「手術後の経過も順調で退院も近い」という報道を聞いて、ひょっとしたら面会も可能かもしれないと思いたって出かけた。新宿のデパートで存問品を整えて昼下がりに伺った。
病院の1階フロア-は混雑していた。看護師さんから「守衛さんのいる受付」を聞き、面会手続をすると、守衛さんがすぐに病室へ連絡してくれた。「病室の階のフロア-にソファーがありますので、そこでお待ちください。」守衛さんの親切な応対に心の温まる思いで、突然の(私はスケジュールに余裕がないせいか、この「アポなし」というのが多くて、人にご迷惑をおかけしている……)お見舞いがスムーズに行くといいがと祈りながら、エレベーターに乗った。
エレベーターの扉が開くと、目の前にぴしっとスーツを着用した方が待っていた。「ソフトバンクの中山です」と、名刺を差し出された。名刺には監督付・管理部課長・中山公宏とあった。「どうぞ、こちらです。明日が退院なんですよ」「えー、それは良かった、朗報ですね!」王監督のお嬢さんたちの喜びの顔が一瞬、目に浮かび、選りに選って退院の前日に来るとは、何かの導きかなとも思った。
ナース詰所の前を通り、長い廊下を進んで、病室に入ると、そこはまったく病室らしくない部屋だった。最初にお嬢さんが迎えてくれた。そのとき、私の眼に入ったのは、綺麗な花束の横に掛けてあったバレンタイン監督のユニフォーム(背番号2)で、「我が良きライバルよ、グランド復帰を待ってるぜ」という無言のメッセージがそれに託されているように思えた。
王監督の顔は明るかった。「谷沢君、ありがとう。5kgほど痩せてしまったよ。御蔭様で、明日退院でね。病室内を歩くのも限度があるよ。家に戻れば自由に散歩もできるしね」。
「いくらか食べられるんですか」と私が聞くと、「流動食と豆腐とはんぺん。それをよく噛んで食べろと言うんだ、こんなにまずい食べ方はないね」。
「王さんは、常に検診しているといっていたけれど、胃に徴候があったんですか。」「交流戦が済んでから、胸やけがするんで調べてみたんだ。胃の中に5cmほどの塊があってね。胃癌の進行で言うと、第二ステージに差し掛かろうという状態だったそうだ。いつもの検診では異常がなかったし、安心していたのかな。オレは大食漢だからな」
立ち上がってベルトを緩め、シャツを挙げて、お腹をさすりながら傷口を見せてくれた。お臍の上部、左右に6ヶ所ほどの手術の跡が茶褐色になっていた。「胃を全部とってしまったからな。まず、日常生活ができるように……今すぐに現場に戻ることは考えてないよ」。
これ以上の長居は遠慮しなければと思い、「これから千葉マリーンの西武戦の仕事に行くので、お暇(おいとま)いたします。くれぐれもゆっくりと静養して、お大事になさってください」。退室しようとすると、「ありがとう!」とやや大きく太い声とともに、私の手を強く握り締めてくれた。
中山氏とエレベーターの方に向かうと、病室から顔をだした王さんが私を呼び止めた。「バレンタインによろしくと伝えといてくださいよ」「はい、わかりました」。大手術の後にもかかわらず、最後まで細やかな配慮を忘れない王監督の心豊かさに触れ、病院をあとにした。
その夜、ボビー・バレンタインの千葉ロッテは西武に敗れ、王ソフトバンクとのゲーム差はさらに0.5広がった。ボビーの贈る退院祝いだったのだろうか。
病院の1階フロア-は混雑していた。看護師さんから「守衛さんのいる受付」を聞き、面会手続をすると、守衛さんがすぐに病室へ連絡してくれた。「病室の階のフロア-にソファーがありますので、そこでお待ちください。」守衛さんの親切な応対に心の温まる思いで、突然の(私はスケジュールに余裕がないせいか、この「アポなし」というのが多くて、人にご迷惑をおかけしている……)お見舞いがスムーズに行くといいがと祈りながら、エレベーターに乗った。
エレベーターの扉が開くと、目の前にぴしっとスーツを着用した方が待っていた。「ソフトバンクの中山です」と、名刺を差し出された。名刺には監督付・管理部課長・中山公宏とあった。「どうぞ、こちらです。明日が退院なんですよ」「えー、それは良かった、朗報ですね!」王監督のお嬢さんたちの喜びの顔が一瞬、目に浮かび、選りに選って退院の前日に来るとは、何かの導きかなとも思った。
ナース詰所の前を通り、長い廊下を進んで、病室に入ると、そこはまったく病室らしくない部屋だった。最初にお嬢さんが迎えてくれた。そのとき、私の眼に入ったのは、綺麗な花束の横に掛けてあったバレンタイン監督のユニフォーム(背番号2)で、「我が良きライバルよ、グランド復帰を待ってるぜ」という無言のメッセージがそれに託されているように思えた。
王監督の顔は明るかった。「谷沢君、ありがとう。5kgほど痩せてしまったよ。御蔭様で、明日退院でね。病室内を歩くのも限度があるよ。家に戻れば自由に散歩もできるしね」。
「いくらか食べられるんですか」と私が聞くと、「流動食と豆腐とはんぺん。それをよく噛んで食べろと言うんだ、こんなにまずい食べ方はないね」。
「王さんは、常に検診しているといっていたけれど、胃に徴候があったんですか。」「交流戦が済んでから、胸やけがするんで調べてみたんだ。胃の中に5cmほどの塊があってね。胃癌の進行で言うと、第二ステージに差し掛かろうという状態だったそうだ。いつもの検診では異常がなかったし、安心していたのかな。オレは大食漢だからな」
立ち上がってベルトを緩め、シャツを挙げて、お腹をさすりながら傷口を見せてくれた。お臍の上部、左右に6ヶ所ほどの手術の跡が茶褐色になっていた。「胃を全部とってしまったからな。まず、日常生活ができるように……今すぐに現場に戻ることは考えてないよ」。
これ以上の長居は遠慮しなければと思い、「これから千葉マリーンの西武戦の仕事に行くので、お暇(おいとま)いたします。くれぐれもゆっくりと静養して、お大事になさってください」。退室しようとすると、「ありがとう!」とやや大きく太い声とともに、私の手を強く握り締めてくれた。
中山氏とエレベーターの方に向かうと、病室から顔をだした王さんが私を呼び止めた。「バレンタインによろしくと伝えといてくださいよ」「はい、わかりました」。大手術の後にもかかわらず、最後まで細やかな配慮を忘れない王監督の心豊かさに触れ、病院をあとにした。
その夜、ボビー・バレンタインの千葉ロッテは西武に敗れ、王ソフトバンクとのゲーム差はさらに0.5広がった。ボビーの贈る退院祝いだったのだろうか。