ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『しのび泣き』を観て

2017年09月14日 | 戦後40年代映画(外国)
前回の『悲恋』の監督、ジャン・ドラノワの作品を観た。
題は『しのび泣き』(1945年)。

時は1920年。
楽壇を引退し、パリから離れた田舎の豪邸で静かな余生を送っている、バイオリンの巨匠ジェローム・ノブレ。
彼の弟子になりたい若者たちが面会に訪れるが、ジェロームは会わない。
村のはずれに投宿している弟子志願の者たちと、同宿の青年ミシェル・クレメル。

ジェロームの娘アニエスが馬車を駆っていると、ミシェルが道端でバイオリンを弾いている。
ミシェルに好意を抱いたアニエスは、父に引き合わせる手筈を取る。

ミシェルは、自ら作曲したバイオリン曲を弾き、それを聞いたジェロームは言う。
「君は天才だ。だが大いなる才能には、多大な代償がつきものだ。私はアニエスが大事だ。消えてほしい」・・・

ここから、ミシェルとアニエスの悲劇が始まっていく。

ジェローム・ノブレに見放されたミシェルは、作曲した楽譜を燃やして音楽界に見切りをつけ、宿のお手伝いイレーヌと一緒になる決心をする。
それを目撃するアニエス。傷心するアニエス。

1928年。
パリで楽譜出版業を営むアンスロの妻になっているアニエスは、ある雨の夜、裏街の映画館の楽士となっているミシェルと再会する。
偶然の成り行きの二人の再会。

アニエスの力添えで、ミシェル独奏による協奏曲の演奏会が開かれる。
しかし酔って、土壇場で現れるミシェル。
失敗したコンサートの後で、ミシェルはアニエスに言う「野心はとっくに捨てた。不運を嘆くのも楽しい」と。
アニエスは言う。
「結婚していようとも、あの時からひと筋。無名のままのあなたでもいいの。恋人がいようが私の気持ちは変わらない」

そして、思い募った二人の、外国への逃避行の望み。
それにしても悲しいことに、二人にはまたしても不幸が襲い掛かり、その望みは成就されない。
そこが無茶苦茶いい。
その良さは何も筋立てばかりでなく、画面から漂う雰囲気そのものが何とも言えず、それに酔いっぱなしになる。

この物語は、数年後へとまだまだ続いていく。
大人である二人は当然、分別もありそれこそ世間の道にそれていない。
でも、内にある凝縮された愛の想いを見ていると、胸に突き刺さって感動以外の言葉が見当たらない。

十代の始めに夢中になってテレビで観た映画、その一群のイメージが濃厚に漂っていて、私にはとっても愛着を感じる作品だった。
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