原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

極上にうまい、そば寿司。

2009年08月07日 10時02分38秒 | 地域/北海道
釧路市の春採湖(はるとり湖と読む)近くに竹老園という老舗の蕎麦屋がある。緑色のそばが特徴の藪そばの流れをくみ、全道各地にのれん分けの店を持つ東家の総本店である。昭和天皇を感服させた「蘭切りそば」は、特にそば通には見逃せない一品。この店の代表商品である。だが、ここで紹介したいのは、その本道の蕎麦ではなく、独自の工夫で生まれたそば寿司。私見ではあるが、日本で一番うまい「そば寿司」と断言したい。

このそば寿司は竹老園の三代目が昭和25年(1954年)に2年の歳月をかけて誕生させた商品である(竹老園の資料から抜粋)。竹老園の創業は明治7年、小樽が出発であった。釧路に店を開業したのは明治45年(1912年)。港の開発工事で急激な賑わいを見せ始めた釧路に進出。以来、現在にいたっている。そば寿司は知る人ぞ知る、釧路の名物となった。

そば寿司を最初に見た時、実にシンプルに思えた。東京などで知るそば寿司は、シイタケや卵を含めた太巻きのパターン。ところが、かっぱ巻きを思わせるシンプルな外観で、そば以外何もない。しかしながら、その味わいは格別であった。甘酢で調理された蕎麦と海苔と生姜の風味が実に見事に調和している。さらに付け汁が独特で、そば寿司を一段と引き立てる。この味は、経験したものでなければ理解できない、まさに極上の味である。

(竹老園の入り口。座敷を使用の場合、この横から入ると正式の玄関がある。明治の建築を思わせる古い建物で、その前には見事な庭園もある)

東家は全道に八十軒、釧路だけでも三十軒ある。だが、このそば寿司は総本店の竹老園でしか食することができない。本店だけの限定商品なのである。三代目が工夫に工夫を重ねて完成したものだけに、これだけは本店だけが守る味となったらしい。

竹老園を有名にしたのは実はそば寿司ではない。昭和天皇である。昭和29年8月16日、来釧していた天皇陛下が竹老園で蕎麦を食べることとなった。三代目は感激と興奮の中で蘭切りそばを呈した。蘭切りそばとは、やはり竹老園が工夫したそばで、卵をつなぎに使っている。そのため藪そばの特徴である緑色の蕎麦ではなく、黄色の蕎麦となっている。この蕎麦に天皇陛下は大変満足。珍しくお代りを所望した。それを聞いた三代目は感激の涙が止まらなかったと、資料に記されている。同時に、竹老園が老舗蕎麦屋としての地位を確定した瞬間でもあった。

当時、天皇陛下は日本各地を巡っている。戦争で荒廃した日本が復興への道を懸命に駆け上っていた時代であった。天皇陛下が巡る地方は、道路が整備され、官庁などの建物が新築されている。国の予算が地方にばら蒔かれたのである。各地方はこぞって天皇陛下の御巡幸を願った時代であった。天皇陛下にとっても国民が元気に復興している姿を目の当たりにできる絶好の機会となった。
余談となるが、当時まだ小学生であった私であるが、その頃の大騒ぎを記憶している。昭和29年は父が亡くなった年である。その8月に天皇陛下が道東を巡っていた。この時、阿寒の近くの小学校を訪れている(子供なので学校名は記憶していない)。そして授業を参観している。この時、授業を担当した女先生が、父の姪であった。北海道新聞に写真入りで報道されていた。何かしら、縁を感じる昭和29年なのである。

(左にあるのがスープのぬけ。携帯の写真なので、あまりおいしそうに写っていないのが残念!)

そば寿司に加えて、お勧めなのが「かしわぬき」。かしわそばからそばを抜いた、かしわスープのこと。これがそば寿司のつまみに見事に調和する。これを教えてくれたのは、友人(同級生)であった。現在、彼は八王子在住なので自由にそば寿司が味わえない。でも、釧路を訪れると、どこにも寄らず、まっすぐ竹老園にかけ込む。

「八王子のシゲルさん、時折ですが、そば寿司を堪能しています。こちらだけで楽しんですみません。お許しください」

竹老園東家総本店
釧路市柏木3-19 電話0154-41-6291
11:00~18:00(火曜日定休)

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
今度行ってみよう! (numapy)
2009-08-07 13:31:25
故郷が信州です。蕎麦には、ちとウルサイ!と言いたいところですが、実は大してうるさくない。
それでも秋蕎麦などは、十割そばで食べることができました。
卵でつなぐそば、チョッと興味ありますねぇ。
今度行ってみよう。
「かしわぬき」のネーミングにも興味あります。

まだ未体験でしたか。 (原野人)
2009-08-07 21:45:41
分かりにくい場所ですが、ちょっと聞けばすぐわかると思います。
蕎麦の老舗は江戸の藪そば、大阪の砂場、信州の人が江戸に開いた更科の三系統に分かれるそうですね。竹老園は藪そばの流れです。いずれも18世紀の江戸時代に形作られたようです。信州の更科とぜひ食べ比べてください。
一つアドバイスですが、そば寿司はビールにも大変よく合います。車の運転をおさえて一度試して下さい。

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