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のり巻き のりのり

飾り巻き寿司や料理、己書、読書など日々のあれこれを書いています



文机

2016年11月05日 | ファミリーヒストリー
実家終いをしてからすでに3年。空き家になったままの家はさびしい。
とりあえず引き取ってきたものの中に、いまだに捨てられないものがある。

57年前、私の小学校入学祝いにもらった机である。



母の実家は木工所だった。祖父と叔父3人でやっている小さな町工場である。
おがくずが舞っているちょっとほこりっぽいところを抜けると、木っ端やかんなくずが入った大きな袋がたくさん並んでいる。

ウイーンと耳をつんざくような音がする機械の横を、私は両手で耳をふさいで駆け抜ける。
作業場を一気に通り抜け、居間にたどり着くと祖母が笑顔で迎えてくれる。お茶とお菓子も待っていた。

工場はもちろん、居間にも木の香りが漂っていた。
うちとは匂いが違う、いつもそう感じていた。

祖父母は初孫だった私を格別にかわいがったくれた。
小学校に上がるとき、祖父は私のために机を作ってくれたのだ。それがこの机である。

仕事の合間をぬって作ったそうで、叔父たちも手伝ってくれたらしいと、母から聞いた。
小学生の時は、ずっとこの机を使っていた。傍らにはいつも母がいた。

クレヨンのあとがある。もちろん墨や鉛筆のあとも。傷だらけである。
中学生になると、デコラ張りの新しい机を買ってもらったのでこの机は役目を終えた。

いやその後は、母の鏡台や化粧箱が置かれたり、アイロン台になったり、テレビ置き場になったりもした。
母が亡くなり、父の部屋にそのままあった机はほこりにまみれ寂しげに見えた。



引き出しを開けると、父の使っていた便せんやペンケースが入っていた。
筆まめだった父はこの机の上でも書き物をしていたのだろう。
几帳面な性格そのままを表す、かっちりとした美しい字面が浮かんでくる。

祖父と叔父たちが作り、私と母が使い、父も使ったであろう小さな文机に秋の日が差している。


手紙を書くことが少なくなった。
ツワブキの香りに包まれて、懐かしい人の顔を思いながら手紙を書いてみようか。