山形県立米沢養護学校(山形県米沢市太田町4-1-102)編「平成23年度 研究紀要第35集~研究概要編~」、「平成23年度 研究紀要第35集~授業実践編~」(平成24年3月31日刊)2分冊の冊子が届いた。
表紙は、米沢養護学校の生徒たちが、すのこづくり、焼き物成形、石けんづくり、物品販売に取り組んでいる4枚の写真で飾ってある。
それぞれ仕事に熱心な取組をしているベストショットである。
研究主題「自立を支援する学校生活の創造」
副題は、「豊かな学校生活を実現する、『できる状況づくり』の追求」
ページを1枚ずつめくっていくと、単なる授業づくりと言うより、一人ひとりに対する学校生活全体を充実したものにしようとする熱い姿勢が伝わってくる。
その理論的な支えになっている講師(名古屋恒彦=岩手大学教授)のことばが印象的だ。次に引用する。
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【引用始め】
講師 名古屋 恒彦氏(岩手大学教授) 山形県立米沢養護学校編「研究紀要第35集~授業実践編~」p.93より
自立とは学校教育法第72条にある特別支援学校の規定において「自立を図るために」と明文化されている。一般的に自立とは「他の助けなしに一人で生きていける」という意味で用いられる。しかし、我々はこの辞書的な自立が正しくないことを知っている。もし、この辞書的な意味での自立を受け入れるのならば、寝たきりの児童生徒には自立は不可能である。かつて自立の意味は辞書的な自立の意味であったから就学猶予・免除があったのだ。
ところが現在は学校教育法第72条に自立が書かれている。それは特別支援学校ではどの子も自立することができるという確信があるからである。当然、そこには寝たきりの方も含まれている。自立観が変わってきているということを法令からも理解できる。
つまり人の支えがあってこそ人は自立した存在になれるということである。個人の能力だけではない。誰かに支えられている中でその人らしく生きる。課題を発見して指導するのではなく、米沢養護学校ではどう支援したらより良い姿になるだろうかということを目指した授業スタイルが確立されてきている。これは米沢養護学校の財産である。
今日の自立は適切な支援条件下で自分の力や個性を最大限に発揮してなされる取り組みと言い換えることができる。支援は適切であることが大事で行き届きすぎると力や個性は発揮されない。また、支援はなるべくない方がいいとも言われるがこれは間違いである。支えがあるからさまざまな課題がクリアできる。もし課題をもっている子どもがいるとしたら、それは我々の支えが行き届いていないからである。行き届いた支えは間違いなく子どもを豊かに育てていく。
作業学習をしていてつくづく思うのは、2種類の支えがあるということである。一つはいつまでもあっていい支え。それはユニバーサルデザインのように誰が使っても便利なものである。もう一つはその支えを使ったことによって良い姿になり、使っている本人にも必要なくなっていく支えである。こういう支えは外していく。つまり、支えというのはなくなった方がいいのではなくて、適切な支えが必要ということである。周囲の条件さえ整えば子どもたちは成長していく。その根幹には支えがあってこその自立であるという考えがある。
自立は今を豊かにすることである。そのためには自分から自分でする楽しさがなくてはならない。受け身的な楽しさはあってもいいが、少なくとも日中活動と言うのは「する楽しさ」でなければならない。楽しければいいという考えは将来を奪うことになる。
【引用終わり】
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「平成23年度 研究紀要第35集・授業実践編」(p.20~p.26)には、中学部の「クリスマスパーティーをしよう」という授業づくりの詳細が掲載されている。
クリスマスツリー用の飾りづくりをするために、飾りにする紙づくりをメインとする作業中心の学習が展開されている。
今までのうちわづくりなどで紙すきを経験してきた。その紙すきによる紙づくりから始めてクリスマスツリーを完成させようというのだ。
生徒一人一人が「自分から」「自分で」活動する姿を追求する教師の意気込みが見える。
実際の授業では、「1時間半休憩なしで活動に取り組む姿が見られ、驚いた」(授業実践編p.88)といった生徒もいた。
中には、「床に寝そべっている生徒へ声がけを行っていなかったようだが、どのくらい待ったらよいのか」(授業実践編p.88)という疑問を呈する授業参観者もいて、どう対応すべきかに苦慮している様子もうかがえる。
10人程度の小集団で実施された授業である。
以上の記述から見て、生徒全員を授業時間中紙すき作業に巻きこむことができなかったが、生徒一人一人にきめ細かな配慮をしている。
ただ、ある生徒にとってはその配慮が不十分で、教師もどう対応すべきか検討しているはずだ。
また、授業を参観した助言者による「今回の授業は、あくまでも装飾物制作であり、パーティー当日にどのようなことに取り組むのかについて見えづらい」(授業実践編p.88)というコメントは、今後授業構成する際の重要な視点である。
山形県立米沢養護学校は毎年公開研究会を開催し、参観者を広く呼びかけている。
機会があったらぜひ参観してみてください。
特別支援学校ってこんなにがんばっているんだということがわかります。
表紙は、米沢養護学校の生徒たちが、すのこづくり、焼き物成形、石けんづくり、物品販売に取り組んでいる4枚の写真で飾ってある。
それぞれ仕事に熱心な取組をしているベストショットである。
研究主題「自立を支援する学校生活の創造」
副題は、「豊かな学校生活を実現する、『できる状況づくり』の追求」
ページを1枚ずつめくっていくと、単なる授業づくりと言うより、一人ひとりに対する学校生活全体を充実したものにしようとする熱い姿勢が伝わってくる。
その理論的な支えになっている講師(名古屋恒彦=岩手大学教授)のことばが印象的だ。次に引用する。
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【引用始め】
講師 名古屋 恒彦氏(岩手大学教授) 山形県立米沢養護学校編「研究紀要第35集~授業実践編~」p.93より
自立とは学校教育法第72条にある特別支援学校の規定において「自立を図るために」と明文化されている。一般的に自立とは「他の助けなしに一人で生きていける」という意味で用いられる。しかし、我々はこの辞書的な自立が正しくないことを知っている。もし、この辞書的な意味での自立を受け入れるのならば、寝たきりの児童生徒には自立は不可能である。かつて自立の意味は辞書的な自立の意味であったから就学猶予・免除があったのだ。
ところが現在は学校教育法第72条に自立が書かれている。それは特別支援学校ではどの子も自立することができるという確信があるからである。当然、そこには寝たきりの方も含まれている。自立観が変わってきているということを法令からも理解できる。
つまり人の支えがあってこそ人は自立した存在になれるということである。個人の能力だけではない。誰かに支えられている中でその人らしく生きる。課題を発見して指導するのではなく、米沢養護学校ではどう支援したらより良い姿になるだろうかということを目指した授業スタイルが確立されてきている。これは米沢養護学校の財産である。
今日の自立は適切な支援条件下で自分の力や個性を最大限に発揮してなされる取り組みと言い換えることができる。支援は適切であることが大事で行き届きすぎると力や個性は発揮されない。また、支援はなるべくない方がいいとも言われるがこれは間違いである。支えがあるからさまざまな課題がクリアできる。もし課題をもっている子どもがいるとしたら、それは我々の支えが行き届いていないからである。行き届いた支えは間違いなく子どもを豊かに育てていく。
作業学習をしていてつくづく思うのは、2種類の支えがあるということである。一つはいつまでもあっていい支え。それはユニバーサルデザインのように誰が使っても便利なものである。もう一つはその支えを使ったことによって良い姿になり、使っている本人にも必要なくなっていく支えである。こういう支えは外していく。つまり、支えというのはなくなった方がいいのではなくて、適切な支えが必要ということである。周囲の条件さえ整えば子どもたちは成長していく。その根幹には支えがあってこその自立であるという考えがある。
自立は今を豊かにすることである。そのためには自分から自分でする楽しさがなくてはならない。受け身的な楽しさはあってもいいが、少なくとも日中活動と言うのは「する楽しさ」でなければならない。楽しければいいという考えは将来を奪うことになる。
【引用終わり】
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「平成23年度 研究紀要第35集・授業実践編」(p.20~p.26)には、中学部の「クリスマスパーティーをしよう」という授業づくりの詳細が掲載されている。
クリスマスツリー用の飾りづくりをするために、飾りにする紙づくりをメインとする作業中心の学習が展開されている。
今までのうちわづくりなどで紙すきを経験してきた。その紙すきによる紙づくりから始めてクリスマスツリーを完成させようというのだ。
生徒一人一人が「自分から」「自分で」活動する姿を追求する教師の意気込みが見える。
実際の授業では、「1時間半休憩なしで活動に取り組む姿が見られ、驚いた」(授業実践編p.88)といった生徒もいた。
中には、「床に寝そべっている生徒へ声がけを行っていなかったようだが、どのくらい待ったらよいのか」(授業実践編p.88)という疑問を呈する授業参観者もいて、どう対応すべきかに苦慮している様子もうかがえる。
10人程度の小集団で実施された授業である。
以上の記述から見て、生徒全員を授業時間中紙すき作業に巻きこむことができなかったが、生徒一人一人にきめ細かな配慮をしている。
ただ、ある生徒にとってはその配慮が不十分で、教師もどう対応すべきか検討しているはずだ。
また、授業を参観した助言者による「今回の授業は、あくまでも装飾物制作であり、パーティー当日にどのようなことに取り組むのかについて見えづらい」(授業実践編p.88)というコメントは、今後授業構成する際の重要な視点である。
山形県立米沢養護学校は毎年公開研究会を開催し、参観者を広く呼びかけている。
機会があったらぜひ参観してみてください。
特別支援学校ってこんなにがんばっているんだということがわかります。