赤い椅子

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突然、芥川龍之介

2006-07-13 21:59:52 | ノンジャンル
今年も芥川賞、直木賞の受賞者が決まったというニュースを見た。

今、久世光彦の『蕭蕭館日録』を読んでいる。
芥川龍之介、菊池寛、小島政二郎など「大正」という時代に青春をともにした作家たちが「蕭蕭館」という小島の家で夜毎繰り広げられる高等遊民たちの益体もないが楽しい話がいっぱいの本だ。
小島の娘、麗子像に似た5歳の麗子が亡くなる少し前の芥川(蕭蕭館日録では九鬼さん)を見る目が、面白い。
5歳の女の子が芥川(九鬼)にむずむずとした色気を感じるのだから…。

関東大震災のとき、芥川(九鬼)の奥さんが2階に生まれて間もない子どもが寝ているのでみしみしなる階段を上り、乳飲み子を抱いて浮き上がったり沈んだりする階段を下りてようやく庭に出た。
そこに芥川(九鬼)は真っ青な顔で立っていたという。
さすがの奥さんも「妻や子をほっておいて…」と泣いて怒ったという。
すると弱弱しく笑って「人間なんてこんなとき、自分のことしか考えないものです」と芥川(九鬼)は言ったそうだ。

世の妻や女は庇護される立場にあるが、芥川(九鬼)の数え切れないほどの女たちは彼に庇護を求めるのはないものねだりだという。
お門違いだという麗子論だ…。
地震さえなかったらむしろ奥さんが彼を庇護し、彼は心ならずも奥さんに甘えてきた。それは2人の間に黙って交わされた約束、つまり<愛>だったのだ。
大震災は道路や壁にも亀裂を作ったけれど、芥川(九鬼)夫婦の間にもいままで2人とも見ない振りをしてきた深い溝を真昼の明るさにさらしてしまった。

だが5歳の麗子嬢がいう女の幸福は、震える大地に立ち竦む、幼子みたいな芥川(九鬼)の姿を目の中に見ることだという。
芥川(九鬼)は女にとって「眼中の人」だというのだ。
コメント (3)
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