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クリーンディーゼルという欺瞞【何故EV潮流が生まれたのか】

2021-09-02 | 車と乗り物、販売・整備・板金・保険
クリーンディーゼルという欺瞞
 最近はあまり聞かなくなりつつあるが、未だ「クリーンディーゼル」を謳うCMを見ることがある。そもそも、これを言い出したのはドイツを中心とする欧州諸国なのであった。

 ここで、勘違いしないでもらいたいのは、私はディーゼルエンジンを否定するものではない。ある程度の大排気量だとかトラックなどの重量車は、そもそもガソリンエンジンでは原理的に単シリンダー当たりの排気量に、火花点火という一点点火が燃え広がる火炎伝播という物理的制限があるのに制限を受けてしまう。つまり、単シリンダーの排気量が1Lとかそれ以上になると、火炎伝播の問題とか不正燃焼を起こす理由から圧縮比を下げざるをえないから、熱効率が極端に低下してしまうのだ。

 ところが、ディーゼルエンジンンの圧縮着火(拡散燃焼という)は、圧縮熱による同時多発的な燃焼を可能にするため、単シリンダーの排気量に制限はなく、巨大なものでは、船舶用のエンジンなど、単シリンダー排気量が12L(ボア1mxストローク4m程度)であっても、およそ100rpm以下の低速ディーゼルとなるが、熱効率は50%を超える。

 クリーンディーゼルの話しに戻るが、これは主に乗用車にガソリンエンジンの代わりに乗せる高効率エンジンとして、欧州で開発されざるを得なかったものだ。何故開発されざるを得なかったかと云えば、日本ではガソリンエンジンでも、プリウスが先鞭を付けたハイブリッドエンジンにより、極めて高い熱効率(=低CO2排出)として世界をリードしたのだ。しかし、欧州でプリウスに優るHV車の開発はできず、いいところエンジンとモーターもしくは発電機が単純に直列となったマイルドハイブリッドの域を超えることは出来なかったのだ。そこで、HVの開発で日本を越えることは不可能と見た欧州勢は、コモンレールディーゼル(この発明もデンソーが世界初)が登場し、小排気量ディーゼルでも直接噴射式ディーゼルが可能になったことを見据え、ディーゼルエンジンにシフトすることになったのだった。

 ディーゼルエンジンは、先にも述べた様に単シリンダーの排気量に制限はないが、弱点としてはガソリンエンジンより燃焼速度が低いということがあり、高回転化が困難ということがある。そこで、高回転で出力をひねり出すということは不可能だから、馬力はTN(トルクと回転数の積分値)で得られるから、低回転でもトルクを倍増させる手段としてターボチャージャー過給が常套手段となる。

 ただ、排出ガスの浄化という面で考えると、ガソリンエンジンはストイキ(理論空燃比)での燃焼が可能であり、その燃焼状態において、CO、HCとNOXの浄化を同時に行える三元触媒という特効薬が使えるという利点がある。しかし、ディーゼルは吸入給気の量で出力制御するガソリンエンジンと異なり、何時も吸入空気は目一杯の状態で燃料噴射量で出力制御しており、多くの運転状態でストイキより、薄い(リーン空燃比)で運転されているので、三元触媒が使えないという欠点があるのだ。

 そのため、COやHCについては、そもそもディーゼルでは少ないが、多かったとしても酸化触媒で退治できるが、NOXは別途の手段を講じる必用が出てくる。種々の試行錯誤が行われたが、現在主流となっているのは、尿素SCR方式というもので、NOXを還元して除去すると云うものだ。

 それと、ディーゼルエンジンというものは、ガソリンと比べると、圧縮比が高い故に、エンジン本体をガソリンエンジンより強固に作る必用がある。このことは、エンジン重量を増すと共に、コストを押し上げる。また、ディーゼルに必須となる高圧噴射を行う噴射ノズルだとか高圧ポンプの装備やターボチャージャー、尿素SCR装置などもコストを押し上げる要因となる。

 それと、高圧縮が故に、ガソリンエンジンより燃焼音が大きくなり、振動も大きくなり、その対策上もコスト要因として辛い部分もあるが、そこまでしてもガソリンエンジンと比べると、音振面では、ちょっと追い付かないと云う限界がある。

 と云うことで、日本では、こと乗用車に限りディーゼル人気は盛り上がらなかったが、欧州ではディーゼルの比率が極めて高まり、輸入欧州車も各メーカーインポーターの施策もあり、クリーンディーゼルと名打って拡販していたのだった。しかし、この状況を一変させ、欧州メーカーをディーゼルを打ち止めさせる結果となった事件が、VWにおける米国での詐欺事件だったのだ。そもそも、米国での排出ガス規制は、新車時の排ガス規制と共に、およそ10万キロ相当走行後の排出ガス試験も行われるという厳しいものだった。そこで、VWは米国でのディーゼル乗用車拡販の手段として、排ガス試験中なのか違うのかを、ステアリング操舵の有無などで検出し、排ガス試験中のみ、排気ガスを浄化するという暴挙を犯したのであった。この発覚は、ある大学で、VW車の実走行中の排ガスを連続して計測する(計測器は日本の堀場製作所製)という評価を行った結果が、あまりに新車排ガス計測時のデータと異なり、不自然であると追及した結果として判明したのだった。(2015年9月)

 この詐欺とも云える判明は、欧州車全般のディーゼル乗用車メーカーに強い衝撃を与え、欧州車はディーゼル命を捨てざるを得なくさせ、EVへの新たな道を導き、内燃機関の廃止を視野に入れた強烈な政府施策を導き、日本メーカーも対応せざるを得なくなったというのが現状なのだ。


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