私の思いと技術的覚え書き

歴史小説、映画、乗り物系全般、事故の分析好きのエンジニアの放言ブログです。

交渉事例 その10・車両火災求償の棄却

2021-11-13 | 賠償交渉事例の記録
交渉事例 その10・車両火災求償の棄却
初稿:H15年5月20日
 今回は、ある意味で保険会社同士の戦いともなる案件として紹介してみたい。

 事案は、ある整備工場で車検整備が行われ、整備完了し納車後、約2ヶ月間で納車時点から累計走行30キロしか経てないクルマでエンジンルーム内から出火し全損となり、某損害保険会社で車両火災保険が支払われたことによる。当該損害保険会社において車両火災の支払いが行われますと、この際に第三者に原因が帰する場合は、当該保険会社はその第三者に請求する権利を持ちます。

 このことは保険約款でも記されていますが、そもそも論としては商法に定義されている、これを代位請求権と云う。今回は、この代位請求として、車検整備を実施した整備工場に請求の意志が示されるに至った訳なのだ。

 以前にも記したことがあるが、顧客のクルマを受託する整備・鈑金工場というのは、結構高価なクルマを預かる場合も多く、その点ではリスキーな部分がある。例えば、受託中にぶつけて損壊してしまったり、リフトから落としてしまう様なケースなど、過去何事例も見てきた。また、今回の様に、整備の瑕疵が疑われる様なケースの中には、ブレーキが効かなくなり事故を生じるという場合も実際に生じる事例も見てきた。

 この様な、整備・鈑金等のモータービジネス業のリスクをカバーするため、保険会社では自動車管理者賠償責任保険(自管賠)や生産物賠償責任保険というのが用意されている。今回の事案では、該当整備工場からこの生産物賠償責任保険の案件として、相談を受けることとなった訳なのだ。

 この様な他損保からの挑戦というのはある意味で「燃える」ものでもある。まあ、「小癪な、そんなものは撃墜してやろうじゃないか!」なんていう思いも生じるのだが、相手損保の主張に道理があればそのための保険ですから支払うのは当となる。以上の思いは冗談も含むが、代位請求する相手損害保険会社からは、「意見書」なる車両火災の原因を記した書面が該当整備工場に提示されたので、早速読み込んで、妥当性の確認を行った次第なのだ。

 相手損害保険会社の意見書の要旨としては、車検整備後2ヶ月でその間の走行距離30キロであり、該当車はほとんど車庫に保管されていたものであり、エンジンルーム内の焼損状態から、燃料ホースからの燃料漏れの恐れが強いとしたもので、整備の不良もしくは見落としがあったのだと結論付けているものであった。

 該当車両は英国ダイムラー(ジャガーの双子車)のダブルシックス(V12エンジン)なのだが、私の頭の中には、あのダブルシックスのエンジンルーム内のギッシリ詰まった様子が直ちにイメージされた。多分、この年式では、燃料系はLジェトロニックという燃料噴射機構が使用されているが、日本車でもそうであったが、当初のものは、各インジェクターとデリバリーパイプ間に短いラバーホースが多用されており、燃料漏れを生じ易い傾向があることを認識していた。これは日本車でかなり過去になるが、該当部位の燃料漏れからリコールがなされていることも記憶にあったので当然なのだ。

 なお、現在のクルマでは、Oリングや金属パイプを使用し、ラバーホースの使用を最小限にしており、そんなことはまずないのですが、フォードに吸収される前のジャガーは、旧態依然とした構造で作り続けて来た傾向があったのだろう。

 私の意見としては「車検整備と火災事故の因果関係について」(別添)を参照してもらいたいが、要旨としては「因果関係の照明は困難である」とするものだ。つまり、車検整備の際に触れてもいない部分や、目視点検できる範囲にも限度があり責任はないであろうとする内容を記したのだ。

 この私の意見書を逆提示してから、相手保険会社からはの代位請求が継続なされることはなくなった。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。