私の思いと技術的覚え書き

歴史小説、映画、乗り物系全般、事故の分析好きのエンジニアの放言ブログです。

車体の剛性のこと

2007-10-26 | 車両修理関連

 近年、車両のモデルチェンジの度にボデー剛性の向上がアピールされて来ています。曰く曲げ剛性を○○%アップしたや、ねじり剛性を○○%アップした等です。車体(ボデー)の剛性とは、クルマの走行中のボデーの変形のし難さを表したもといえます。これによりタイヤ及びサスペンションを介しての入力をガッシリと受け止め、タイヤやサスペンションの能力を十分に引き出したり、異音や振動を少なくして静粛性を高めたりという官能評価の向上がなされている訳です。
 しかし、私達がクルマを走行中に感じるボデーの剛性感とは、非常にあやふやなものでもあります。例えば同じクルマに冬用スタッドレスタイヤを装着した場合のことですが、端的に剛性感の低下を感じますが、この場合ボデー剛性が変化している訳ではありません。また、段差を跨いでゆっくりと左折する様な場面で、室内後方等で異音を感じる場合があります。ボデーがねじれて、室内のトリミング材との間の位相が生じ異音を発した訳ですが、この様な際にボデー剛性感の低さを感じたりします。
 また、過去のクルマの例ですが、センターピラーの上下を接続していない、いわゆるピラーレスハードトップという様なクルマがありました。この様なクルマでは、例えば後輪の片側だけをジャッキアップすると、ドアが開かなくなってしまったり、開いても閉まらなくなってしまったクルマが結構多くありました。これらは、ボデー剛性の低さを表す例と思います。

 ところで、このボデー剛性に関連して、近年大幅に採用されている高張力鋼板の採用は、実はボデー剛性にはあまり関わりがないということを記します。当然、衝突の際における潰れ剛性には関係して来る訳ですが、通常のボデー剛性とは走行中のものを指し、ボデーの永久変形として残らないものを前提とします。つまり、サスペンションからの外力によりボデーが変形を生じても、その外力がなくなるとボデーは元に戻ります。金属の性質として弾性と云うものがあります。応力を受けると金属は変形しますが、一定の範囲(弾性限度内)までは応力と変形(歪)は、比例関係となります。(バネの性質:フックの法則と同じ)このことを表す数値としてヤング率があります。鉄鋼のヤング率は約210GPa(ギガパスカル)、アルミでは約70GPa等となっています。このヤング率ですが、普通鋼と高張力鋼では、ほとんど差が生じないようです。従って、ボデー剛性を向上させるためには、素材自体の板厚を上げる(複数枚を重ねることも含む)か、断面構造を向上させる(簡単に云えばボックス断面の面積を広げる)ことや、部材間の結合剛性を向上させること(スポット点数の割増やシーム溶接への変更、接着剤の併用、各種ガセットやパッチ当て等)が、ボデー剛性向上の基本となる訳です。
 なお、高張力綱板では、980MPa等と表示されていますが、これは材料の引張強さを表す数値であり、この状態では既に金属の塑性変形範囲に入っており、生じた変形は元には戻らない訳です。従って高張力鋼で表示される980MPa等は、いわゆる破壊強度を表しているといっていいと思います。

追記
 近年のクルマは正直云って重くなり過ぎて来たと感じます。エアコン、高級オーディオ機器、ナビゲーションシステム、各種パワー機器(ウインドウ、シート等々)、エアバッグ類等々、贅沢三昧という感があります。しかも、衝突安全への対策要求やボデー剛性向上による官能評価向上への要求から、益々重くならざるを得ないのだと思います。20年位前の小型車では1トン以下のクルマが結構ありましたが、今やほとんどありません。同じく20年前なら、ちょっとした高級車で1.5トンを超えていると、えらい重いクルマだなぁと感じましたが、これら車種は今や2トンを超え始めています。それでいて、動力性能や燃費性能等はエンジンやトランスミッション等の改良により、昔より向上がなされて来ています。技術の進歩は素晴らしいとは思うものの、そろそろクルマの重量増は限界に近づきつつあるとも感じます。


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