だいぶ前の記事ですが、再編集して掲載してみます。
厚生労働省が表彰を行う「現代の名工」の本年度の表彰者に、新幹線先頭車両の外板パネル成形板金に長年取り組んで来られた職人である國村次郎氏が選定されたそうです(2008年も話・下記リンク参照)新幹線は初代の0系の鋼板製ボデーから、300系遺構では、アルミ製ボデーになっていますから、鋼板とアルミ板のどちらにも対応して来られたのだと想像されます。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/52/d2/f7b8bdf79e4017c2cbcbf0808a48249f_s.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/08/6e/285b6e7e7f8acf9dcda8eed471b1e773_s.jpg)
・2008年度「現代の名工」受賞者[國村次郎氏(63歳)]
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/11/h1110-1b.html
しかし、こんな名工の活躍の場も、現在ではアルミブロックを適宜積層した粗型を、マシニングセンターで切削する工法が採用されていると聞きますから、名工も不要の時代になってしまったのでしょう。
ところで、鋼とアルミでは、相当に金属特性が異なりますので、それぞれの特性を把握した上での技術が要求されるはずです。昔のイタリア・カロッツェリア(製作工房)で作成された少量生産車は、アルミ製が多く存在します。この理由は、手作りの打ち出成形板金において、その労力(つまり生産性)がアルミ製の方が優れているということに真の理由があると想像しています。アルミ化による軽量化という問題もあるのでしょうが、それは副次的な理由ではないかと私は思っているのです。ちなみに、初代フェラーリ・ディーノですが、少量先行生産の206はアルミ製ですが、その後に排気量アップして登場した246は鋼板製ボデーとなっています。
さて、本論として事故復元車両に関わる板金修正に思うことを、独断と偏見で記してみます。鈑金屋さんから見ると、きっと怒られてしまいそうな内容をも多分に含みますが、戯れ言として何卒ご容赦下さい。
現在の車両外板パネルに使用される鋼板は、高張力鋼板(と云っても340MPa程度の低レベルのもの)が採用されるのが当たり前になって来ています。それに伴い、パネル板厚も10%程度薄板化されていますから、板金修正への困難さのレベルは上がって来ているのだと思います。しかし、このことを前提としても、町の鈑金屋さんにおける板金技能の平均レベルは低下しつつある様に感じられます。まあ、端的に云えば腕がない鈑金屋さんが多いと感じるのが、誠に失礼ながら私の私見なのです。
今の鈑金修正と云うのは、パネル自体の復元はそこそこに、後はパテ成型の善し悪しに掛かっていると云っても良いと思います。つまり作業時間の殆どはパテを研削している時間だと云っても言い過ぎにならないとも感じているのです。このパテ成型についても、いずれ別項目として記してみたいとは思っていますが、盛っては研削するを何度も何度も繰り返し過ぎている場合が多々あると思えます。酷い場合は同一箇所を10回以上もパテを盛り直しては研削するを繰り返し、仕上がった等と云う場合もあることを垣間見ることもあるのです。
ところで、私は過去に何故か、自研センターという組織に2年間在籍し、何人かの板金技能者と触れ合った経験があります。この板金技能者の技術レベルは、高低それぞれだったのですが、トップレベルの技能者の方(以下仮称S氏と記します)のことを記してみましょう。
鈑金修正の行程を(あくまで自研センターでは)粗修正作業、中仕上作業、最終仕上げ作業の3段階で区分しています。まず、粗修正作業ですが、パネルの変形を大まかに修正する作業であり、ドア等の凹損であれば、パネル裏側から木片を当てがって打ち出したり、ドリーもしくはハンマーで打ち出したりという方法が一般的なものです。この作業自体はS氏もその他の作業者でも大差はありません。
次の中仕上作業ですが、ここからがS氏と他の若手技術者との差が出てくる部分でした。粗修正作業後も未だ目立つ凹凸に対し、ハンマーとドリーで当初はオフドリー(ドリーの位置とハンマーで叩く位置をずらす打撃法)で均していきます。そして、凹凸が殆ど目立たなくなるとオンドリー(ハンマーとドリーに位置を一致させる打撃法)で行うのですが、S氏は如何にパネルを伸ばさない様に注力しているのが判ります。つまり、極めて優しくパネルを叩いて均して行くのです。オフドリーのボコボコという低音から、オンドリーではチンチンという高音になりますが、この音が、極めて小さいのです。均し作業が進みパネルが平滑に近づいて行くに従い、本当に、微かな優しい小さなチンチン音が続くのでした。
こんな板金の中仕上げ行程ですが、どうしてもパネルは伸びを生じますから、パネルの張り具合を指で押して点検しながら絞り作業(灸すえ)を行いつつ進めるのですが、S氏の場合は他の若手技術者より絞り作業の回数自体が少ないのです。なお、均し板金の最終段階では、触診や目視で凹凸が判りませんから、適宜ボデーヤスリでパネルを擦り、パネルの高い位置を沈めて行きます。
板金行程の最後となる最終仕上げ行程ですが、板金パテによる盛り付け成型作業となるのですが、S氏の場合はやる気になれば、ポリパテ1回付けでOKのレベルで、次のプラサフ行程に移れるまで均し板金を持って行くことも可能だったと思います。
ところで、S氏に見せてもらったことがある「炙り出し」(あぶりだし)という技法がのことを記してみましょう。パネル表面に生じた直径数センチで深さ数ミリ程度の円形の凹損を、アセチレンバーナーの火炎過熱だけで直す技法です。その方法は、まず円形凹損の外周の若干外側をグルグルとゆっくり円を描いて軽く炙って行きます。そして、頃合いを見て、一方向からバーナーの火炎を凹損中央部に向けてゆっくりと押し出す様に移動させるのです。このバーナーの動きと同期し、凹損が復元してしまいます。つまり、灸すえもそうですが、加熱によるパネルの伸張力により、パネルを押し出してしまうという技法なのです。
余話
このS氏ですがパネルの均し板金は「誉めずにいられない」のですが、フレーム修正をやっている姿、つまりフレーム修正機のテクニックは失礼ながら「とても誉めるに値しない」と云う思いを持ったものでした。パネル板金とフレーム修正とでは、それぞれ別のセンスがあると思っています。
厚生労働省が表彰を行う「現代の名工」の本年度の表彰者に、新幹線先頭車両の外板パネル成形板金に長年取り組んで来られた職人である國村次郎氏が選定されたそうです(2008年も話・下記リンク参照)新幹線は初代の0系の鋼板製ボデーから、300系遺構では、アルミ製ボデーになっていますから、鋼板とアルミ板のどちらにも対応して来られたのだと想像されます。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/52/d2/f7b8bdf79e4017c2cbcbf0808a48249f_s.jpg)
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・2008年度「現代の名工」受賞者[國村次郎氏(63歳)]
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/11/h1110-1b.html
しかし、こんな名工の活躍の場も、現在ではアルミブロックを適宜積層した粗型を、マシニングセンターで切削する工法が採用されていると聞きますから、名工も不要の時代になってしまったのでしょう。
ところで、鋼とアルミでは、相当に金属特性が異なりますので、それぞれの特性を把握した上での技術が要求されるはずです。昔のイタリア・カロッツェリア(製作工房)で作成された少量生産車は、アルミ製が多く存在します。この理由は、手作りの打ち出成形板金において、その労力(つまり生産性)がアルミ製の方が優れているということに真の理由があると想像しています。アルミ化による軽量化という問題もあるのでしょうが、それは副次的な理由ではないかと私は思っているのです。ちなみに、初代フェラーリ・ディーノですが、少量先行生産の206はアルミ製ですが、その後に排気量アップして登場した246は鋼板製ボデーとなっています。
さて、本論として事故復元車両に関わる板金修正に思うことを、独断と偏見で記してみます。鈑金屋さんから見ると、きっと怒られてしまいそうな内容をも多分に含みますが、戯れ言として何卒ご容赦下さい。
現在の車両外板パネルに使用される鋼板は、高張力鋼板(と云っても340MPa程度の低レベルのもの)が採用されるのが当たり前になって来ています。それに伴い、パネル板厚も10%程度薄板化されていますから、板金修正への困難さのレベルは上がって来ているのだと思います。しかし、このことを前提としても、町の鈑金屋さんにおける板金技能の平均レベルは低下しつつある様に感じられます。まあ、端的に云えば腕がない鈑金屋さんが多いと感じるのが、誠に失礼ながら私の私見なのです。
今の鈑金修正と云うのは、パネル自体の復元はそこそこに、後はパテ成型の善し悪しに掛かっていると云っても良いと思います。つまり作業時間の殆どはパテを研削している時間だと云っても言い過ぎにならないとも感じているのです。このパテ成型についても、いずれ別項目として記してみたいとは思っていますが、盛っては研削するを何度も何度も繰り返し過ぎている場合が多々あると思えます。酷い場合は同一箇所を10回以上もパテを盛り直しては研削するを繰り返し、仕上がった等と云う場合もあることを垣間見ることもあるのです。
ところで、私は過去に何故か、自研センターという組織に2年間在籍し、何人かの板金技能者と触れ合った経験があります。この板金技能者の技術レベルは、高低それぞれだったのですが、トップレベルの技能者の方(以下仮称S氏と記します)のことを記してみましょう。
鈑金修正の行程を(あくまで自研センターでは)粗修正作業、中仕上作業、最終仕上げ作業の3段階で区分しています。まず、粗修正作業ですが、パネルの変形を大まかに修正する作業であり、ドア等の凹損であれば、パネル裏側から木片を当てがって打ち出したり、ドリーもしくはハンマーで打ち出したりという方法が一般的なものです。この作業自体はS氏もその他の作業者でも大差はありません。
次の中仕上作業ですが、ここからがS氏と他の若手技術者との差が出てくる部分でした。粗修正作業後も未だ目立つ凹凸に対し、ハンマーとドリーで当初はオフドリー(ドリーの位置とハンマーで叩く位置をずらす打撃法)で均していきます。そして、凹凸が殆ど目立たなくなるとオンドリー(ハンマーとドリーに位置を一致させる打撃法)で行うのですが、S氏は如何にパネルを伸ばさない様に注力しているのが判ります。つまり、極めて優しくパネルを叩いて均して行くのです。オフドリーのボコボコという低音から、オンドリーではチンチンという高音になりますが、この音が、極めて小さいのです。均し作業が進みパネルが平滑に近づいて行くに従い、本当に、微かな優しい小さなチンチン音が続くのでした。
こんな板金の中仕上げ行程ですが、どうしてもパネルは伸びを生じますから、パネルの張り具合を指で押して点検しながら絞り作業(灸すえ)を行いつつ進めるのですが、S氏の場合は他の若手技術者より絞り作業の回数自体が少ないのです。なお、均し板金の最終段階では、触診や目視で凹凸が判りませんから、適宜ボデーヤスリでパネルを擦り、パネルの高い位置を沈めて行きます。
板金行程の最後となる最終仕上げ行程ですが、板金パテによる盛り付け成型作業となるのですが、S氏の場合はやる気になれば、ポリパテ1回付けでOKのレベルで、次のプラサフ行程に移れるまで均し板金を持って行くことも可能だったと思います。
ところで、S氏に見せてもらったことがある「炙り出し」(あぶりだし)という技法がのことを記してみましょう。パネル表面に生じた直径数センチで深さ数ミリ程度の円形の凹損を、アセチレンバーナーの火炎過熱だけで直す技法です。その方法は、まず円形凹損の外周の若干外側をグルグルとゆっくり円を描いて軽く炙って行きます。そして、頃合いを見て、一方向からバーナーの火炎を凹損中央部に向けてゆっくりと押し出す様に移動させるのです。このバーナーの動きと同期し、凹損が復元してしまいます。つまり、灸すえもそうですが、加熱によるパネルの伸張力により、パネルを押し出してしまうという技法なのです。
余話
このS氏ですがパネルの均し板金は「誉めずにいられない」のですが、フレーム修正をやっている姿、つまりフレーム修正機のテクニックは失礼ながら「とても誉めるに値しない」と云う思いを持ったものでした。パネル板金とフレーム修正とでは、それぞれ別のセンスがあると思っています。