Natural Mystic ~ナチュラルミスティック~

There's a natural mystic blowing through the air

水平歩道

2005-10-24 20:18:39 | 登山・アウトドア
15日 暗がりの中意識が戻る。周りを歩く人の気配と廊下の騒々しさが感じ取れるが果たして自分が熟睡できたのかどうかがよく分からなかった。時計は4:30、7時間半は寝たことになる。意を決して布団から出る。気付けばこの時間まで寝ていたのは部屋では私だけだった。仲間は向かいの荷物部屋でパッキングをしていた。布団をたたみ、昨夜のうちに作っておいたドライフーズのパックを開け朝食を済ます。小屋の外はまだ暗く小雨が降っていた。

自分の装備は寝る前に用意しておいたので食堂でウサミさんと今日の計画を相談する。やはり事故は避けたいため10:22のトロッコ電車はやめてバラバラになっても観光便で下りることにする。
5:22 まだ暗かったためヘッドランプを点し、合羽を着込んで出発。30分ほど汗だくになりながら胸突き八丁の急坂を登る。登り切ると今度は下る。半ば嫌気がさしたがこの下りは5分程だった。ここから先はいよいよ水平歩道の本番の始まりである。夜も完全に明けたのでヘッドランプを消す。

昨日に負けず劣らずの絶壁が続いた。谷底を流れる黒部本流との高低差は200mとのこと。対面の山肌の急な斜面にかかる霧が濃く、まるで水墨画の世界を歩いている気分である。確かに危険なルートではあるが、昨日の下ノ廊下行で完全に慣れきっていた。また、昨日とは違い道幅が70cm程度で何処までも安定して水平だったためかなり歩きやすい。いつの間にか前方の谷が大きく左へ入っているのがわかる箇所に出る。7:00今日の行程の2/5地点の折尾谷の滝を通過。


【折尾谷手前から望む南越峠・五竜・鹿島槍への黒部側からのルートである】


【雨中行軍となった折尾谷】

雨が非常にうざったい。それもあってか仲間内の会話が途絶え気味になる。計画では10:22の専用電車は見送ってはいても、仲間の意識にはやはりその時間が気になっていたと思う。広い場所もないという理由もあり、ろくに休憩を取らずにそこも通過した。この谷を越えしばらく進み山腹を大きく廻りこむと水平歩道の最大の難所『大太鼓』と呼ばれるところである。水平歩道は切り立った岩盤のところは人が通れるほどの幅でくりぬいてある。ところがこの大太鼓と呼ばれる辺りは岩盤が固いためか垂直な岩肌に大きなボルトを打ち込み、そこに丸太を這わせてある最も危険な場所である。河床まで300mは有にある。
雨降りのときの丸太はよく滑る。針金でバランスを取りながら慎重に渡る。

ここを過ぎると遙か前方谷底に人工的な建物が見えた。時折「プルルルル・・・」という電子音と共にハッキリとは聞き取れないが放送のようなものも聞こえる。ノサカさんが地図を整置してゴールとなる欅平ということが分かった。直線ではあっという間だが道のりは遙かに長い。皆が口々にこの歯痒さを嘆いた(笑)

程なく3/5地点志合谷にさしかかる。しかし谷は土砂で崩壊し道が無くなっていた。一瞬唖然としたが谷の向こう側を5名程のパーティーが下山している。不審に思いながらもぎりぎりまで進むと道に対して直角にトンネルが現れた。ワの字になった素掘りのトンネルで土砂崩れの裏側を通っていた。中は真っ暗で水浸しで気温も低くランプなしではとても歩けなかった。前を歩くサカモトさんは2度程天井に頭をぶつけ苦しがっていた。トンネルを抜けた後、狭かったが休憩を申し出た。私は舎利バテで力が入らなくて苦しかった。食いかけのドライフーズとソーセージを囓る。皆、荷物は下ろすが合羽が汚れると撥水能力が落ちるため座ろうとはしなかった。これも雨の弊害である。

その後またひたすら歩く。エネルギーを補給したため舎利バテはあっという間に解決であった。9:40水平歩道が終わり一気に下りになった。いよいよ最後のがんばりどころ『シジミ坂』である。滑りやすい急な下りを慎重に歩く。遙か下には欅平の駅が見えてきた。10:10無事下山。

笑ってしまうことに下山に伴い、雨が弱まり光が差してきた。約5時間に及ぶ雨中行軍。ろくに休憩を入れなかったこともあるが、やはり雨は精神的疲労が大きい。とにかく無事下山できたことが嬉しかった。仲間はそれぞれにホッとしたのか22分の乗車をあきらめ周辺に散った。