その噂の前年の夏1996年7月、私は道東スーパー林道を攻めた。曇りがちのその日、十勝・浦幌町の秘湯留真(るしん)温泉側から、林道のゲート横をすり抜けて進入した。時刻は14時をまわった頃だった。ゲートの横には数多くのバイクの轍があり、また林道を進むと反対側から1台バイクが来た。情報を求めると出口となる白糠側からゲート横を抜けて入ってきたとのこと。安心して80kmの林道を攻めることにした。
しかし、この林道、長いばかりで景色の眺望もなく、たまにエゾシカ・テン・キタキツネに出会うぐらいで面白いことはあまりない。しかし、数ある分岐にはしっかり『←道東スーパー林道→』の立て札が出ており、迷う心配もなかった。
【道東スーパー林道入り口付近にて・林道のあちこちでこのようなエゾシカやキタキツネ等の動物に出会った】
1時間ほど走ったときのこと、橋を渡り坂を登る途中で十字路に差し掛かった。交差点の土手の上部に道標が立っていて右側を指していた。当然のように土手の上部に直進する。そのまま15分ほど進むとまたもや橋を渡って坂になった。しかもその途中には十字路があり道標も先ほどと同じ位置にあり右側を指していた。深い山の中、見通しも利かず私はてっきり、堂々巡りで先ほどの場所へ戻ってきたと思いこみ、今度は土手の下部に進んだ。しばらく進むと右手に川が現れ、その先でラワン蕗の収穫をしてトラックに積み込んでいる高齢の夫婦の出会った。かなり山深い場所での人との遭遇という安心感、また道に対する不安もあったため声をかける。
「この先、国道に出れますか?」
私のこの問いに男性は言った。
「ちょっと進めばゲートがあるけど出れはずだよ。」
この言葉に安心してしばらく進むと教えられたようにゲートが見えてきた。この長かった林道もこれで終わりであると安堵感を味わいつつも近づいて一瞬我が目を疑った。ゲートはチェーンを巻かれていて南京錠でしっかり止めてあった。いろいろ調べたがどうやっても開かなかった。ゲートの両側はあろう事か深い側溝のためバイクでも抜け出るのは不可能だった。
やむなく来た道を引き返す。先ほどラワン蕗の収穫をしていた夫婦は既にいなかった。かなり焦る。間違えたと思われる分岐まで引き返す。そのまま正しいと思われるルート進もうかと思ったが堂々巡りだとやっかいと思い直し、コンパスを取り出し方角をチェックした。その後、一番最初の坂の途中の十字路まで戻った。
確かに景色はそっくりだったがコンパスの度数が違っていた。安心して再び進み始めたが、今度は焦りに襲われ始めた。夕暮れには2時間以上もあるはずなのにかなり時間をロスしたような感覚に襲われる。一体自分は62kmの林道のどの辺りを走っているのか皆目見当が付かなくなっていた。そんな状況に追い打ちをかけるように薄い霧が漂い始めた。不安も絶頂に達したときである。カーブを曲がると突然物凄い衝撃に襲われ転倒した。気づくと目の前に鹿が倒れていた。一瞬の後、その鹿は突然立ち上がり左の林の奥へ消えていった。
しかし、この林道、長いばかりで景色の眺望もなく、たまにエゾシカ・テン・キタキツネに出会うぐらいで面白いことはあまりない。しかし、数ある分岐にはしっかり『←道東スーパー林道→』の立て札が出ており、迷う心配もなかった。
【道東スーパー林道入り口付近にて・林道のあちこちでこのようなエゾシカやキタキツネ等の動物に出会った】
1時間ほど走ったときのこと、橋を渡り坂を登る途中で十字路に差し掛かった。交差点の土手の上部に道標が立っていて右側を指していた。当然のように土手の上部に直進する。そのまま15分ほど進むとまたもや橋を渡って坂になった。しかもその途中には十字路があり道標も先ほどと同じ位置にあり右側を指していた。深い山の中、見通しも利かず私はてっきり、堂々巡りで先ほどの場所へ戻ってきたと思いこみ、今度は土手の下部に進んだ。しばらく進むと右手に川が現れ、その先でラワン蕗の収穫をしてトラックに積み込んでいる高齢の夫婦の出会った。かなり山深い場所での人との遭遇という安心感、また道に対する不安もあったため声をかける。
「この先、国道に出れますか?」
私のこの問いに男性は言った。
「ちょっと進めばゲートがあるけど出れはずだよ。」
この言葉に安心してしばらく進むと教えられたようにゲートが見えてきた。この長かった林道もこれで終わりであると安堵感を味わいつつも近づいて一瞬我が目を疑った。ゲートはチェーンを巻かれていて南京錠でしっかり止めてあった。いろいろ調べたがどうやっても開かなかった。ゲートの両側はあろう事か深い側溝のためバイクでも抜け出るのは不可能だった。
やむなく来た道を引き返す。先ほどラワン蕗の収穫をしていた夫婦は既にいなかった。かなり焦る。間違えたと思われる分岐まで引き返す。そのまま正しいと思われるルート進もうかと思ったが堂々巡りだとやっかいと思い直し、コンパスを取り出し方角をチェックした。その後、一番最初の坂の途中の十字路まで戻った。
確かに景色はそっくりだったがコンパスの度数が違っていた。安心して再び進み始めたが、今度は焦りに襲われ始めた。夕暮れには2時間以上もあるはずなのにかなり時間をロスしたような感覚に襲われる。一体自分は62kmの林道のどの辺りを走っているのか皆目見当が付かなくなっていた。そんな状況に追い打ちをかけるように薄い霧が漂い始めた。不安も絶頂に達したときである。カーブを曲がると突然物凄い衝撃に襲われ転倒した。気づくと目の前に鹿が倒れていた。一瞬の後、その鹿は突然立ち上がり左の林の奥へ消えていった。