Natural Mystic ~ナチュラルミスティック~

There's a natural mystic blowing through the air

有線放送

2005-10-07 23:42:13 | Weblog
同僚が広報の仕事で安価なメディアを探していたところ、『有線放送』というのを見つけた。信じられないほど安価だというため資料を見せて貰った。思った通りサービス圏が全て各地の郡部の町や村であった。

私の育ったのは南東北の田舎、人口6,000程度の過疎の町である。小学校は1学年が1クラスで私の学年は全部で24人。中学は4つの小学校の統合で3クラス100人程度だった。何よりも信じられないのは今現在においても学校給食が無いことである。私は幼稚園から高校まで一貫して弁当持参で通学したのである。

幼い頃、そんな田舎には普通の電話(電電公社・現NTT)とは別に町内(地域)だけの通信手段として有線放送と呼ばれるものがあった。機械的には昔の黒電話のダイヤル部分にスピーカーが埋め込まれたもので受話器とその本体であるスピーカー以外にはない単純なものである。

【有線放送の電話機・中央の白い部分がスピーカー】

運営は町が行い役場の一室に交換所があり、そこで交換手と呼ばれる町の職員が交換業務をしていた。通話出来る時間帯はこの職員がいる朝の6時から夜の8時までという時間でそれ以外のときは行政上の特殊理由(選挙の開票等)が無い限り使えなかった。加入している世帯は隣組制度の名残か主に農家や商店であったため残念ながら私の実家には無かった。

有線放送の受信設備を設置した人には番号が振り当てられる。これがまた単純な物で、たとえばAさん宅が1番。Bさん宅が2番。Cさん宅が3番というふうにである。ちなみに3桁の番号は私は聞いたことがなかった。

使い方であるが、例えばAさんが有線をかける場合まず受話器を取る。この作業だけで交換所と繋がるのである。ここでBさん宅をお願いすると交換はBさんの番号を呼び出すのである。これがある意味便利なものでBさん宅だけでなく、加入者宅の受話器が一斉に
「2番・2番・2番」
という具合にけたたましい音量で呼び出されるわけである。
そのため、Bさんが家を空けて近所のCさんの家に行っていてもCさん宅の受話器から「2番・2番・2番」と声が聞こえ、Cさん宅で電話に出られるのである。

普通の電話(電電公社・現NTT)とこの有線放送の両方を備えた家も多々あった。地域外から普通の電話で自宅へ電話しても通じない場合、交換所の普通の電話に連絡し有線で叫んで貰って出先で気付けばつないで貰うことも可能だった。

また、この有無を言わさないけたたましい音量で加入全世帯に呼びかけられる特質を利用して、火事がおきたとか、子供が行方不明になったとか、選挙日が近づくと投票を促したりといった風に様々な情報伝達手段として活躍していた。

職場の同僚は有線放送の事をケーブルテレビと思っていたらしいが私が説明をしてもそのようなシステムが過去に存在したことすら知らなかった。また私より上の世代でも知らない人々が圧倒的に多かった。ある意味これが現在のケーブル放送の走りかもしれない。

これだけ大活躍したこのシステムもプライバシー等の問題や利用範囲・時間が限られているというマイナス面もからんで私の田舎でも80年代台半ばには廃止となった。しかし、このシステムが広報媒体としても今の時代にも残っている地域があると知り何とも懐かしい気持ちになった。

どうでもいい話だがこの有線放送が廃止になったとき、おびただしい量の有線の電柱が一本500円で販売された。家のオヤジは買っておこうと言っていたが使い途が無いため結局買わずじまいで終わった記憶がある。