今回の一面は、やはり村内館野の人で大谷一之進が明治二十八年に奉納したもので、
算額としては非常に新しいものである。すでに明治初年から洋式数学が行われるようになり、
昔からの和算は次第に廃される時期だったから、恐らく境町の和算家として一之進が最後の人だったかも知れない。 大谷一之進方明、元祖関流十八代相伝と称したが、この算額は一之進の七十七歳の時、子の槌昌芳と孫の鏡司によって掲げられた。すなわち一之進の喜寿の祝としたものであろう。
額面の大きさは横1、7メートル、縦1、5メートルもある立派なもので、客席、後見人、門弟などが二百二十一人の名前が連なっている。
やはり二つの問題と答があげられているが、問題の第一は、「大円六個と小円三個が互に外接している、大円の直径が一寸のとき小円の直径は何寸か」という問題で、問題の図表が掲げて有り、その答と解き方が示される。
これは文化八年大原利明の著わした「算法真竄(サン、かくれる)指南」の中から取り出した問題である。 問題の第二はいわゆる虫喰算と称するもので、大切な証文の紙が虫に喰われて所々に文字が、
解らないので、そのところを補えというもので、「金一両について銀六十匁に両替する、米の相場は金一両で一石三斗買える、この時金百何両かと、銀十三匁八分で
米を□百□十三石七斗□升□合買った、□の所を補え」というものである。
この問題は額面に「精要算法」から取ったと示してある。精要算法は天明元年に関流の藤田真資が著わした算額書で、この中に一之進の算額にあげた虫喰算がある。
いずれも簡単な問題ばかりであるが、現代の人には残念ながらその文字自体を読み下す事が出来ないのが現実ある。
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