動物たちにぬくもりを!

動物愛護活動の活動経過や日々の出来事、世の中の動き等幅広く紹介します。

映画『ストレイ 犬が見た世界』

2022-04-05 05:58:30 | ドラマ・映画

10万匹以上の野良犬がいて、
捕獲と殺処分が違法である国の映画『ストレイ 犬が見た世界』とは?

2022年3月29日(火) 石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師

映画『ストレイ 犬が見た世界』(3月18日から公開、地域によって違います)は、トルコの都市・イスタンブールでの野良犬の日常を半年間にわたり追ったドキュメンタリーです。
この映画は、北米を代表するドキュメンタリー映画祭のひとつ、Hot Docsカナダ国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀国際ドキュメンタリー賞を受賞。
「犬の目線」である低いアングルから撮影されています。
トルコは、野良犬の捕獲と殺処分が違法である珍しい国です。
10万匹以上の野良犬がトルコでは暮らしています。
日本では、野良犬の殺処分が行われています。
トルコと日本の動物愛護の違いを見ていきましょう。


『ストレイ 犬が見た世界』のパンフレットを筆者が撮影

◆なぜ、イスタンブールは野良犬が大切にされているのか?
この映画は、イスタンブールのストリートで暮らしているゼイティンという名の推定年齢2歳(当時)の雌の大型犬の目線で作られています。
ゼイティンは、交通量が多い道も車の流れをよく見て渡ります。
車も野良犬に配慮しているようで、野良犬をうまく回避して運転しています。
そして、野良犬たちは、シリア難民の少年たちと寝起きをともにしたりもしています。
ゼイティン以外の野良犬たちもイスタンブールの街を縦横無尽に歩き回っています。
野良犬を街であまり見ることがない日本人から見ると、こんなに野良犬と仲良くできるのだと全編を通して感動します。


『ストレイ 犬が見た世界』の予告より

◆トルコの野良犬の保護の歴史
トルコは、ずっと野良犬に優しい国だったわけではありません。
歴史を見ていきましょう。
1909年の頃は、イスタンブールにいた野良犬を捕獲して、マルマラ海にある孤島に約8万匹の野良犬を置き去りにしました。
その野良犬のほとんどは飢え死にして、泳いで逃げようとした野良犬もいたそうです。
その3年後の1912年にマルマラ海沿いで大きな地震があり、トルコの人たちは、犬の祟りではないかとささやいていたそうです。
ところが、2004年にトルコで「動物保護法」が施行されたことより、ストリートで暮らす野良犬や野良猫の保護を自治体ですることになったのです。
具体的には、税金で必要な治療や不妊去勢手術や狂犬病ワクチン接種などをしています。
映画を見ていると、耳にタグが付けられた野良犬がいますが、その子たちはワクチン接種が終わっているのです。
2021年に「動物の権利法」が施行され、野良犬や野良猫たちは、モノではなく命あるもので、生きている権利があると扱われています。
野良犬や野良猫への虐待は罪になります。
そんなトルコですが、2021年のトルコのある街でペットブルが人間を襲う事件がありました。
それを受けてクリスマスにエルドアン大統領が「飼い主のいない動物たちの住みかは道路ではない。シェルターだ」と発言して、トルコ国内で物議をかもしているそうです。
このエルドアン大統領の発言を聞いたこの映画のロー監督はロサンゼルスに住んでいるのですが、主役の野良犬のゼイティンの身を案じてトルコへ飛び、捜し回りました。
すぐには見つからなかったけれど、数日後に以前と変わりなくカフェで寝ているゼイティンと再会できたといいます。
それで、ゼイティンの身を案じて面倒を見てくれる人を見つけました。
ゼイティンは、いまは保護犬としてイスタンブール郊外で暮らしているとのことです。

◆日本には、狂犬病予防法がある
日本では、犬に狂犬病予防法がありそこには「予防員は、第四条に規定する登録を受けず、若しくは鑑札を着けず、又は第五条に規定する予防注射を受けず、若しくは注射済票を着けていない犬があると認めたときは、これを抑留しなければならない」と定められています。
この法律によって日本では、野良犬と呼ばれる飼い主のいない犬たちは捕獲されるのです。
簡単にいうと、野良犬は狂犬病ワクチンを打っていないので捕獲する国なので、街で野良犬を見ることは、ほとんどないのです。
いまのトルコは(未来は変わるかもしれませんが)、野良犬にも狂犬病ワクチンを打って、街で暮らす動物とみなされています。
この辺りが、日本と大きく違います。

◆動物愛護とは?

『ストレイ 犬が見た世界』のパンフレットを筆者が撮影

この映画を見ると、国によって野良犬に対しての考え方が違うことがわかります。
トルコと日本では野良犬に対してかなり差があります。
日本は、狂犬病予防法の国なので、いまのように捕獲は仕方がないかもしれません。
しかし、みんなの考え方が変化して、トルコのように野良犬は街で暮らす動物と考えるようになり、税金で不妊去勢手術やワクチン接種をしてもいいとなると、動物愛護が変わっていくのでしょう。
映画を見ていると、ゼイティンは大型犬ですが、凶暴なこともなく、ある一定な距離をおいて人間と共存していました。
他の野良犬も映画で見る限り、群れでも人間を襲うことはなかったので、トルコ人に優しくされているのでしょう。
トルコは野良犬に対して、愛情深く接している国があることがわかります(野良犬を叩いたり、いじめたりしていると凶暴になります)。
この映画を見ると、日本の動物愛護の考え方が成熟して、野良犬にもってと優しくしてもいいのでは、と思ってくるのです。
野良犬は、人が生み出したもので、野良犬にはなんの罪もないです。
なかなか難しいことだとは、わかりますが、野良犬が地域社会と共存できるといいですね。
映画に映し出されるその街では、たくさんの野良犬が人間と絶妙な距離感を保ちながら、自分たちのペースで生きています。
映画のなかで、イスタンブールのモスクから流れるアザーン(礼拝を知らせる詠唱)に耳を傾けて、遠吠えするゼイティンは神々しかったです。
日本は、決して動物愛護先進国になっていないことを教えてくれる映画でした。
野良犬や野良猫の保護活動に関心のある人は、映画館に足を運んでみるのはいかがですか。

『ストレイ 犬が見た世界』は以下のサイトにあり、各地域の映画館も紹介されています。
https://transformer.co.jp/m/stray/

石井万寿美
まねき猫ホスピタル院長 獣医師
大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は栄養療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医師さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らす。

 

犬猫の殺処分ゼロの国がある
 イスタンブールの路上で生きる野良犬が見た世界
 話題の映画に見る“共存”

2022年3月29日(火)  

世界には犬猫殺処分ゼロの国が存在します。
その国のひとつ、トルコでは2021年に動物権利法案が議会に提出され、野良動物も「商品」から「生き物」として定義されることで、彼らを傷付けた者には懲役刑が課せられるとのこと。
まさに路上で暮らす動物たちとの共存を目指す国、トルコなのです。
そんなトルコ最大の都市イスタンブールで暮らす野良犬たちの目線で撮影されたドキュメンタリー映画『ストレイ 犬が見た世界』が3月18日から日本で公開されています。


「ストレイ 犬が見た世界」のワンシーン=(C)2020 THIS WAS ARGOS, LLC

カメラに映し出されるのは、多くの人が行き交うイスタンブールの路上。
そこで人間たちをじっと見つめる大型犬のゼイティンと名付けられた犬は、人間を怖がる気配もなく、見知らぬ人たちに頭を撫でられても平然としています。
近くにも似たような野良犬たちの姿があり、どの犬も人間を恐れることなく路上を堂々と歩いているのです。
映画は犬の目線に合わせてローアングルで撮影され、廃墟を寝床にする移民の子供たちが犬たちと毛布にくるまる姿や、カップルが口論をする光景や女性たちがデモ行進をする姿まで映し出されます。
まさに人間たちのいざこざを客観的に捉えた世界。
これを映画として完成させた愛犬家のエリザベス・ロー監督が撮影した犬たちは穏やかで自然体なのですが、実際にイスタンブールの犬たちは皆、社交的で撮影に協力的だったようです。
ちなみに日本の都心部では野良犬を見かけることは滅多にありません。
それは自治体の保健所や動物愛護センターが狂犬病予防法に基づき保護収容をしているからなのですが、その点についてトルコの野良犬たちはどのように管理されているのでしょうか?
実はトルコでは野良犬に関しても積極的に狂犬病ワクチンを接種する対策を行なっているそうで、接種が済んだ犬たちの耳にはタグが付けられます。
とはいえ、完全に狂犬病を撲滅することは不可能でしょうし、繁殖を止めることも容易いことではありません。
それでもトルコの人々は動物たちとの共存を願い、国を挙げて工夫して生きているのです。
何より不思議なのは、私たちが時折見かける野良犬、野良猫特有の厳しい表情とは違い、イスタンブールの野良犬たちは人間に対して敵意を持つことなく安心し切った表情を見せていたことでした。
それこそ、人間を安全な生き物として認識している証であり、危害を与えられていないからなのではないでしょうか。
動物はもちろん、生き物が安心して暮らせる世界に「暴力」は必要ない、映画はそう語っているようでした。
 (映画コメンテイター・伊藤さとり

犬目線のドキュメンタリー映画『ストレイ 犬が見た世界』予告編 - YouTube
ほぼ全編が犬目線で撮影された 驚きの ドキュメンタリー 『ストレイ 犬が見た世界』本編冒頭映像【2022年3月18日公開】 - YouTube

上記記事の中で、石井万寿美まねき猫ホスピタル院長さんが述べられている「野良犬は、人が生み出したもので、野良犬にはなんの罪もないです。」、「日本は、決して動物愛護先進国になっていないことを教えてくれる映画でした。」、この言葉が特に印象に残っています。
日本は、「殺処分ゼロ」の目標を掲げ、日本中の動物愛護行政機関に促しているが、表面的な内容にすぎないと思います。
それどころか、「殺処分ゼロ」ということから動物愛護行政機関では無差別に引取り拒否を行うような極端な行動が見受けられることがあり、依頼者からの不信感が高まり問題になっているのが現状です。
また、弊会のこれまでの経験から、関わった方々に対して環境省の資料を基に「犬猫の殺処分・・・」の説明をすると、「殺処分が減っているのは良いこと」という発言が多々あり、これには動物愛護に関する感覚に大きな差異を感じることがしばしばあります。
殺処分が減っていることは事実ですが、動物愛護行政機関は最後の砦に過ぎない、そこに至るまでに数えきれない多くの犬猫が命を落としていることを認識すべきです。
悪徳ペット販売業者は売れ残ったペットをあの手この手で対処、「引取り屋」という闇の商売業者が増加し、暗黒の社会の中で処理処分するという問題が浮き彫りになっています。
野良犬も野良猫も利己的な人間の行動によって生み出したもの、日本はまだまだ動物愛護先進国には程遠い国、国民みんなが問題意識を持たないと向上しないのです。
(byぬくもり)


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