農作物などの被害深刻…被害対策のカギは「緩衝地帯」
野生動物との共存を目指す〈宮城・気仙沼市〉
2020年9月4日(金) 仙台放送
住宅街に現われるクマや畑を荒らすイノシシなど、野生動物による問題を解決するために、宮城県内である実験が進められています。
人と動物がすみ分けるため、注目したのは緩衝地帯という考え方です。
https://news.yahoo.co.jp/articles/7addbcdeb116550c63ceabae09af1120988fd178
気仙沼市八瀬地区にある集会所です。
サスティナビリティセンター 相澤あゆみ 専門員 「クマやイノシシの被害を避けるなら、ゴミは回収日の朝に出す方がいいですね」
農家の人たちに野生動物の被害対策を教えているのは、相澤あゆみさん。
クマやシカ、イノシシなどの生態を専門的に調べている女性研究者です。
この地区ではここ数年、シカやイノシシによる農業被害が急増していました。
住民 「シカの被害が圧倒的に多くなったね。30年40年前とは全く違いますね」 「野菜とかいろいろ作っても収穫間近になると、全部食べられてしまえば、やる気なくします」
シカやイノシシは人の気配が減った場所で田畑を荒らすため、過疎化や高齢化が進む地区では、被害が特に深刻になっています。 野生動物による被害を防ぐためには、どうすればよいのか? 相澤さんが今、探っているのは、人間と動物をうまくすみ分けさせる方法です。
その方法を実験している場所がこちら。画面右側の柵がある場所が農地、画面左側が山林です。
その間に車1台が通れるほどの空き地があります。
人が使う農地と動物が住む場所の間に緩衝地帯を設けたのです。
サスティナビリティセンター 相澤あゆみ 専門員 「ここに柵があると、隠れ家からすぐにドンと、ぶつかっちゃうじゃないですか。なので柵が壊されやすくなるんですけど、ここ(緩衝地帯)があることによって、あれ?ここ来ても大丈夫かなって動物が思ってくれるので、柵も壊されにくくなるし出にくくなる」
人が住むエリアと動物が住むエリアを、緩衝地帯を作ることではっきり区別すれば、被害を減らせるかもしれない。
この仮説を確かめるために、県は気仙沼市の八瀬地区をモデルケースに指定。
相澤さんの指導のもと、緩衝地帯を作った上で、動物が触れると電気が流れる電気柵を張り、人と動物のすみ分けに地区全体で取り組んでいます。
サスティナビリティセンター 相澤あゆみ 専門員 「最初は昼も夜も電気を流した方が良いです。1カ月ぐらいは」
去年10月から始まったこの取り組み、徐々に成果が出始めているといいます。
県気仙沼地方振興事務所 我妻謙介さん 「これまでニホンジカなどの被害が多かったが、電気柵を去年の研修を踏まえて設置してからは、今年は鳥獣被害が少なくなったという話は聞いています」
相澤さんが生み出す被害対策の根本にあるのは、野生動物の「駆除」ではなく「保護」の考え方。
人と動物の共存を目指しています。
サスティナビリティセンター 相澤あゆみ 専門員 「動物がいたり、自然があったりする生態系サービスによって、私たちは恩恵を受けている。空気だったり、水だったり。その恩恵を受けるためには生態系を守っていかなければいけない。私たち(人間だけの)目線で、私たちに良いようにしていてもダメだし、エゴですけど、動物はどうしたいのか、そういうことを考えながら、一番ちょうどいい、頃合いを見つける仕事がしたい」
相澤さんが考える緩衝地帯は、人と野生動物がともに暮らしていくための、いうなれば折り合いをつけるエリア。
自然保護と人間の生活の両立を目指す、相澤さんの願いが込められた場所です。