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息子が猫アレルギーになり保護猫ボランティアを辞めた母の苦悩

2018-08-19 05:45:15 | 新聞記事・Webニュース・テレビ・書籍・ブログなど

息子が猫アレルギーになり保護猫ボランティアを辞めた母の苦悩

2018年8月17日(金) DIAMOND


猫好きの妻は、子猫のミルクボランティアと預かりボランティアに取り組んでいたが、愛する息子に悲劇が起きる・・・(写真はイメージです) Photo:PIXTA

●子猫を殺処分から救う ミルクボランティア
美枝子さん(仮名・38歳)は動物愛護団体に籍を置き、さまざまな活動をしているほか、数年前まで、「子猫の一時飼育ボランティア(通称ミルクボランティア)」と飼い主が見つかるまでの「預かりボランティア」にも取り組んでいた。
生後間もない新生児期の子猫の世話は本当に大変だ。
24時間、昼夜を問わない献身的なケアを必要とし、ちょっとしたことですぐに死んでしまう。
授乳は2時間おきに1度、1日に7~8度は与える必要がある。
テレビのドラマなどでよく、拾った子猫に牛乳を与えるシーンがあるが、現在ではあまりお勧めできないとされている。
牛乳には猫が消化できない成分が含まれているため、ひどい下痢をして命を危うくする可能性があるからだ。子猫用のミルクを用いるのが常識である。
子猫は排尿・排便も自力ではできない。
母猫は肛門あたりを舐めることで排泄を促すが、人間はそうもいかないので子猫を抱き上げ、柔らかいコットンなどで優しくパッティングしてあげることになる。
野良の子猫の場合、動物病院の受診は必須だ。
命にかかわる感染症にかかっている可能性があるからだ。
近頃は空前の猫ブームと言われ、日本中が猫のかわいらしさにメロメロになっているイメージがあるが、実際には平成28年度に全国各地の動物愛護センターに引き取られた猫の数は7万2624頭、そのうち2万9654頭の子猫を含む4万5574頭が殺処分された。
子猫が殺処分される最大の理由は、世話の半端ではない大変さだ。
動物愛護センターの職員体制では無理なので、ボランティアの出番となる。
まだ目の開いていない子猫を引き取ると、動物愛護センターはボランティア団体に連絡し、新生児期を乗り切るまでの養育を託す。
引き受けてもらえれば子猫は生きながらえ、センターが主催する譲渡会では引く手あまたの人気で新しい飼い主に引き取られていく。
だが、ボランティアがいない場合は悲惨だ。
ケアせずに餓死させるわけにはいかないというわけで、殺処分されてしまう。
「体力的にはきついけど、子猫の最高にかわいい時期を享受できる役得もあるのよね」
美枝子さんは夫の直樹さん(仮名・41歳)にも協力してもらい、楽しく活動にいそしんでいた。
一方、預かりボランティアは、ある程度大きくなった猫を預かる。
愛情を注いで人間への信頼感を醸成し、その子猫の個性を知り、SNSで紹介するなどして興味を持ってくれる人を増やす。
そして、運営組織からの要請に従って飼い主候補とのお見合いをさせ、気に入られたらならし飼育してもらい、(これなら最期まで責任を持って飼育してくれる)と確信できたところで譲渡し、1頭の猫に対する任務完了となる。
あっという間に飼い主が見つかる場合もあるが、中には全然見つからず、最終的に美枝子さんが正規の飼い主になった子猫もいた。
茶トラの人懐っこい甘えん坊のオス猫で、ならし飼育までいったのに「1日中ミーミー鳴き続けてうるさい」と突き返されたのだ。
「うちは多頭飼いで、いつも複数の猫たちがいる環境だったから、いきなり猫が1頭しかない環境に置かれて、寂しくして鳴いたんだと思う。でもそれって普通のことだよね。慣れない環境で、不安になって鳴くのって当たり前でしょ。そんなことも許せないなんて、猫を飼う資格ないと思う」
美枝子さんは、そのオス猫が不憫(ふびん)でたまらなくなり、自分が飼い主になることを決断した。
こういった具合で、正式に「美枝子さんちの猫」になった猫は最終的に3頭。
預かり猫を含め、最多で5頭の猫たちが同居していたこともあった。

●わが子が猫アレルギー発症 アナフィラキシーで死にかけた
そんな、「猫まみれな日々」が暗転したのは、息子が5歳になったある日のことだった。
春先、息子は幼稚園から帰ると、くしゃみが出て、しきりに目をかゆがり、水のような鼻水を垂らすようになった。
(この子、花粉症なのかしら)
そう考えた美枝子さんは家を締め切り、空気清浄器を置き、念入りに掃除機をかけ、布団の外干しはやめて乾燥機を使い、外出時には息子にマスクをかけさせた。
だが、症状はいっこうに改善しないばかりか、むしろ悪化しているように見えた。
ただし幸いなことに、幼稚園では症状が出ないという。
(さすが幼稚園。いろいろな子が通っているから、アレルギー対策も万全なのね)
勝手に思い込んでいた。
(ママ、苦しい・・・)
ある日、幼稚園から帰って猫と遊んでいた息子が、いきなり呼吸困難を訴えた。
見ると、猫を抱いていた腕に蕁麻疹(じんましん)ができている。
その上、目がみるみる腫れあがり、かわいらしい顔が無残に激変していく。
ついには唇が紫色になり、倒れ込んだ。
美枝子さんは慌てて救急車を呼んだ。
「アナフィラキシーショックですね」
救命救急センターの医師から告げられた。
息子は重度の猫アレルギーでショック症状を起こし、死の淵に直面したのだという。
(そんな・・・、じゃあ息子は猫と暮らせないってこと) 

●断腸の思いで猫断ち しかし団体は許してくれない
美枝子さんの息子のように、生まれた時はなんともなくとも、ある日突然、猫アレルギーが発症する例は決して珍しくない。
息子は生まれた時から複数の猫たちと兄弟のように育ち、猫まみれで大きくなった。
人一倍心優しい子に育ったのは、猫たちのお陰だ。
猫にも息子にも罪はない。
しかし結局、美枝子さんは断腸の思いで猫たちを手放すことにした。
ボランティア仲間に協力を頼み、最高に大切にしてくれるもらい手を見つけ、託した。
会おうと思えばいつでも会いに行けるが、それでも別れの日には涙が止まらなかった。
息子も部屋に引きこもり、泣いていた。
美枝子さんの家に、猫のいない日々がやってきた。
それは恐ろしく寂しい毎日だったが、わが子の命には替えられない。
ミルクボランティアも預かりボランティアも断り、アレルゲンを持ち帰られないために、よその家や道端の猫を抱き上げることもやめ、美枝子さんは猫断ちした。
身近な猫好き仲間は、そんな気持ちを理解し、受け入れてくれた。
だが、長年美枝子さんにボランティアを依頼してきた団体の上層部は違った。
たとえ猫アレルギーがあっても、気をつければ飼えないことはないはずと主張し、「早くボランティアに復帰して」と責めたててくる。
「オス猫よりメス猫の方がアレルゲンが少ないんですって、メス猫ちゃんを預かってよ」
「部屋の掃除を小まめにして、衣服に付着した毛に気をつければいいんですって。あなたちゃんと掃除してなかったんじゃないの。息子さんも、猫たちも、あなたのせいでひどい目に遭っているのよ。かわいそうに」
「抱っこさせたり、鼻や口を近づけ過ぎたりしなければ大丈夫。試しに一度だけ、預かってみて。それが責任ってもんじゃないの」
などと言いたい放題。
気をつければなんとかなるような軽度のアレルギーとアナフィラキシーショックでは、危険度のレベルがまるで違うのに、まったく理解してくれない。
実際、動物愛護団体に入っている人の中には、動物が好き過ぎて、人間のことを思いやれない人が時々いる。
美枝子さんも以前、所属する団体が、捨て犬や捨て猫をやめるよう訴える映画の上映会を主催した時、(この人たちはおかしい)と感じたことがあった。
上層部は、その日だけということで応援に来てくれた友人たちを顎で使い、命令し、会場整理やグッズ販売で映画を見る時間がまるでないにもかかわらず映画のチケット代を徴収し、上映会終了後にも「ありがとう」の一言もなかった。
「日頃から活動にかかわっている自分たちの方が、たまに手伝うだけの人たちより偉い」という、信じがたい思い込みをしているようだった。
愛する猫と接することもできず、所属団体からは責められる日々。
美枝子さんは家族を連れて、どこか遠くへ行ってしまいたい気持ちで過ごしている。
最近さらに心配なのは、地震や水害が日本中で頻発し、いつ避難を余儀なくされることになっても不思議はない状況にあることだ。
「猫や犬などのペットは、一緒に避難はしても、避難所では飼い主とは別の場所でケージに入れて置くことになっています。それはペット嫌いの人への配慮ですが、うちの息子のように、アレルギーを持っている者にとっては、命にかかわる配慮です。でも、うちの猫たちで言えば、飼い主のいない見知らぬ場所に、ケージに閉じ込められて放置されたら3日と持たないでしょう。人命は大事。でもペットの命も大事です。両方大事にしたいと思うのは、贅沢なワガママなのでしょうか」
猫かわが子か、二者択一なんて本来はありえない。
両方大切に決まっている。
どうしてこんなことで悩まなければならないのか。
美枝子さんの苦悩は果てしない。
(医療ジャーナリスト 木原洋美)