和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

抽象思考の自由度。

2008-11-08 | Weblog
益川敏英氏のノーベル賞会見で、印象深かった箇所に、
受賞スピーチは英語でしますか?という問で
「どうして英語でやらんといかんの?
 僕は英語はしゃべりません。英語でしゃべるなら遠慮します(笑)」
というのがありました。
養老孟司氏は、中公文庫「あなたの脳にはクセがある」の中で、
「英語と日本語とでは、モノを見る目自体が、具体的に違ってしまう。
英語ばやりの世の中で、それに気づく人がどれだけいるか、私は知らない。」
「言葉による抽象思考とは、いわばその自由度を最大限に利用することである。
その意味では、日本語は抽象思考に意外と向いており、英語は向かない。
英米系の哲学が、経験主義に傾いたり、プラグマティズムに傾いたりするのは、
英語という言葉の癖にようるのではないかと、私は疑っている。」
益川氏と同時受賞の小林誠氏は
『原理的なもの、シンプルで一番基本的なことをやってみたい』とあります。



ここで、内藤湖南の講演「大阪の町人学者富永仲基」にある言葉が思い浮かんだのでした。
そのなかで湖南は、富永の仏教研究書『出定後語』を取り上げておりました。
そこにこうあります。
「それから、富永は、学問というのに国民性があるということを考えたのであります。
その当時に印度と支那と日本との国民性についてこう考えたのである。
インド人の国民性を一言でして『幻』と批評し、
支那人の国民性を『文』、
日本人の国民性は『質』あるいは『紋』と、
紋というのは正直過ぎて狭苦しいのでありますが、
兎も角一字で批評をしたのであります。」
とりあえず、インドと支那とはとばして、次を引用します。
「日本人は至って簡単な正直な考えで、いろいろ幻みたような文みたような、目まぐるしい回りくどい奴にぶつかると、日本人の頭では分からなくなって、何か見当がつかないから、日本人は正直な真っ直ぐな、手短かに言った方が一番分りがよいので、それで日本人は質とか絞とかいうことになる。こういう風に三通りの国民性があって、おのおの国民性によってその国々の宗教を組立てるのであるから、外の国の宗教を自分の国に移すときには、自分の国に合うように之を変形しないとうまく合わない。インドの幻術的な宗教、何とかいうと十万億土などという取留めもない目まぐるしいことは、日本に応用することは出来ない。日本に応用するときには、もっと手短かな、手っ取り早くしなければ日本人には入らない。支那の文でも、非常な細かい、文飾が煩わしくては日本には行われない。日本人にはそれをもっと簡単に手っ取り早くしなければならぬ、とこういふことを言っております。これは尤も富永自身の発明ではないと言っております。支那の隋に文中子という人がありまして、仏教は西方の聖人の教えである、之を支那に行わんとすると泥む、そこに拘泥することになって来る、支那にはそのまま行われにくいと文中子が言っております。それを富永が引いております。・・・」


ところで、最近読んだ新書に
養老孟司・竹村公太郎著「本質を見抜く力」(PHP新書)があります。
内容といえば、まるで線香花火のように、中央に赤い球体があって、そこからパチパチと火花が開くような、刺激的な対談になっております(しかも途中では鼎談に)。その新書の最後で養老さんが言っております。

「僕は西洋人は日本人より頭が固いと思ってきました。違いは何なのだろうと考えたけれど、ヨーロッパの自然は単調なのです。それに比べて、アジア全体がそうですが、日本の自然ははるかに猥雑です。しかし、いまの若い人を見ると、西洋人のような気がする。頭が固いわけです。要するに抽象的で現実を単調に見ているだけ。概念で世界を作り上げるのは楽なんですよ。博物学のように五感を働かせるやり方は、時間もかかるし手間もかかる。でもそうすると、今まで見えてこなかったこと、あるいは見なかったことが見えてくるようになります。そのような博物学的な感覚と、それから、第一章で述べたモノから考える考え方、この二つを組み合わせて物事を捉えることが、今後の日本、あるいは世界の行方を決めてゆく上で必要なことだと思いますね。」



まとまりはしませんが、これ面白いテーマだと思います。
これも、はじまりは、益川氏の
「英語でしゃべるなら遠慮します(笑)」からの刺激でした。
それでは、あらためて、日本語にロマンを。
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