ちょっと、『能』についての古本が目につくと
その都度買っております。
「黒川能の世界」(平凡社・1985年)も、そんな一冊。
写真入りの本です。はじまりに『春告げ笛の頃』という文が
ありますので、紹介がてら引用。
「・・庄内平野・・日本海から吹きつける吹雪が、
横なぐりにこの平野を吹き抜け、月山にぶつかって吹き溜る。
その麓に位置するのが黒川である。鶴岡から南へ8キロほど
入った東田川郡櫛引町の村落である。・・」
はい。この本の最後には、黒川能役者名鑑として、
学校のアルバムのように、一人一人が免許書の写真サイズに
紹介されています(白黒写真)。
黒川能をささえる役者衆152名の氏名・生年月日・役どころ
が写真下に紹介されておりました。
最初の文にもどります。そのおわりの方にこうあります。
「毎年4月のはじめ・・・黒川の門笛は獅子を連れて
一軒一軒ていねいに村を巡ってゆく。
村境にいたるとその土地への挨拶の一曲、
・・墓原の縁に佇んで一曲。・・
路傍の祠の前、村の字々の小社の前、
千年の松といわれている巨木の前、
馬頭観音の前でまた一曲。
それに合せて獅子頭もぱくぱくと風を噛む。
« 流し »と呼ばれるその曲は、りょうりょうとして若やかで
・・・・
この笛が通っていったあとには、まるで農事をうながすように、
やさしく田打風も吹きはじめる・・・
笛は塗りの美しい黒漆の竜笛であった。・・
家々では門笛がやって来ると、盆にいっぱいの米を用意し、
連れている獅子に頼んでいろいろと邪気払いに噛んでもらう。
目を閉じて坐るお年寄り、逃げ腰の幼子まで、
病気をせぬよう、幸せが来るようひとしく祈るのである。」
(p25~27)
はい。この本が1985年に出版ですから、
今の黒川能はどのようになっているのでしょう。
役者名鑑の人たちは、どうしているのでしょう。
この本は、どうも紹介本のようで、ほかに、
重要な黒川能へと導きの本があるようです。
この本の表紙には
馬場あき子・増田正造・大谷准
と3名の名前がありました。
目次の署名をみると
「黒川の祭りと四季」は
馬場あき子・梅津英世・春山進と
連名です。
つぎの「黒川の能と狂言」が増田正造。
あとの「黒川の人びと」が大谷准。
となっておりました。最初の章は、
馬場あき子さんが、いろいろと
聞き書きしたものを文章にまとめた
というような感じなのでしょうか?