和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

花とみずからを。

2021-05-09 | 詩歌
伊東静雄の詩『そんなに凝視(みつ)めるな』。
この詩を、引用してみたくなりました。

その前に、二人の詩人の詩を引用しながら、
その後に、伊東静雄の詩を引用してみます。

まずは、こんな詩から
田村隆一に「命令形」という詩があります。
はじまりは

  ゆき 
  ゆき 
  もつと ふりなさい

  狐のような女の詩人が歌いながら
  ぼくの夜の森から出て行つたが
  この歌の命令形が好きだ

  ・・・・・
  ・・・・・

  人は人に命令できない
  命令形が生きるのは
  雪
  そして詩の構造の光りと闇の
  谷間にひびく
  人間の言葉


はい。『命令形』の途中をはぶいて、最初と最後を引用しました。
この詩には注がついていて、『ゆきゆきもつとふりなさい』は
その注によると、岸田衿子の童謡からとあります。

わたしに思い浮かぶ、岸田衿子の詩はというと、

   眠り姫よ 起きなさい
   長ぐつはいた猫よ
   長ぐつをぬぎなさい
   青ひげよ 青ひげを剃って下さい

なんてのがありました。
うん。これから引用しようとする伊東静雄の詩の前に、
先導する人のように、もうちょっと、岸田衿子を引用。

  雪の林の奥では
  立ちどまってはいけません
  歩いていないと
  木に吸いこまれてしまうから
  

また、こんな短い詩もあります。
 
  風をみた人はいなかった
  風のとおったあとばかり見えた
  風のやさしさも 怒りも
  砂だけが教えてくれた

  
はい。では、伊東静雄の詩を引用することに。

   そんなに凝視めるな

 そんなに凝視(みつ)めるな わかい友
 自然が與へる暗示は
 いかにそれが光耀にみちてゐようとも
 凝視めるふかい瞳にはつひに悲しみだ

 鳥の飛翔の跡を天空(そら)にさがすな
 夕陽と朝陽のなかに立ちどまるな

 手にふるる野花はそれを摘み
 花とみづからをささへつつ歩みを運べ

 問ひはそのままに答へであり
 堪へる痛みもすでにひとつの睡眠(ねむり)だ

 風がつたへる白い稜石(かどいし)の反射を わかい友
 そんなに永く凝視めるな

 われ等は自然の多様と変化のうちにこそ育ち
 ああ 歓びと意志も亦そこにあると知れ


(注: 文字がぐっと詰まった詩なのですが、ついつい、息苦しさを感じ、
    ところどころに一行余白を、かってに挿入させていただきました。)


最初の詩は、田村隆一詩集「誤解」(集英社・1978年)から
つぎの詩は、岸田衿子「あかるい日の歌」(青土社・1978年)から
最後の詩は、杉本秀太郎著「文学の紋帖」(構想社・1977年)の
p128をひらいたら、そこに『そんなに凝視するな』がありました。



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