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和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

語られ方。

2008-12-14 | Weblog
外山滋比古著「日本語の作法」(日経BP)からの引用。

ちょうど、岩村暢子著「普通の家族がいちばん怖い 徹底調査!破滅する日本の食卓」(新潮社)を読んでいたからかもしれません。外山氏の本のなかに、気になる2つのエッセイがありました。

ひとつは、「わかっていないこと」(p142~146)
あとのは、「遠慮会釈のあることば」(p78~79)
この二つのエッセイを紹介。
最初の「わかっていないこと」は、こう終ります。
「わからないことがわからない、というのは、日本人の知性の泣きどころであるらしい。」
これだけじゃ分かりませんよね(笑)。
では、出だしをすこし引用しておきます。

「新聞くらい読めなくてどうすると思っている大学生たちに、どれくらい読めているかの調査をした教師がいる。新聞の社会面のさほど長くない記事のコピーを配布。ゆっくり読ませてから引きあげ、別の用紙を配って、さきの記事のあらましを書かせた。概略を正しくつかんでいたのは例外的で、だいたいがあいまいなことしか書けない。ことに記事の冒頭、固有名詞の並んでいるところがもっとも混乱していた。おもしろいのは、あとで、よくわかったかという問いに、ほとんど全員が、よくわかった、と答えたというのである。頭に入らないことを読んでも、わからないという自覚がない。・・・」


こういう自覚を覚醒させてくれる人って、いったいどなたなのか?
ということで、次に「遠慮会釈のあることば」を引用してみます。

こちらは、はじめと終りとを少し引用すればよいでしょう。

「ある企業での話――。重要案件について担当の課長が役員に説明をすることになった。部長も同席する。熱弁をふるった課長がしてやったりとばかり、いい気になっていると、部長がこんな注意をした。」
以下注意事項を箇条書き風に

弁舌さわやかなのはいいが、もっと相手を考えないといけない。
せっかくの能弁がアダになる。キミはネを繰り返していたが・・・
絶対ということばも何度かあったが、これも強すぎて感心しない。
熱心なことはよくわかるのだが、なれなれしいものの言い方のためによい印象を与えず、だいぶ損をしている。


だいぶ端折りましたが。以上のような指摘をしたあとに最後にこうありました。

「ことばのセンスのすぐれたこの部長の注意は貴重である。いまどきこういうことの言える親切な上司、先輩はめったにあるものではない。この課長のようにめぐまれたら、ありがたいと思わないといけないのである。」


ところで、岩村暢子著「普通の家族がいちばん怖い」(新潮社)を読んで、ありがたいと思った私は、さっそく岩村暢子氏の他の著作、「変わる家族 変わる食卓」(勁草書房)を注文。もう一冊の「現代家族の誕生 幻想系家族論の死」(勁草書房)は古本屋へと注文。

ちょっと、話題をかえます。
板坂元著「考える技術・書く技術」(講談社現代新書)に「料理のコツ」というのが出てきます。

「料理のコツというものは、けっきょくは、包丁さばきとか味つけではなく、よい材料を使うということになる。おそらく、料理のよしあしの八十パーセントは材料によって決まる、といってさしつかえはあるまい。ものを考えたり書いたりする頭の活動も、料理とおなじように、材料のよしあしが半分以上は決定的な力をもっている。どんな分野でも、できるだけ立派な資料を、できるだけ豊富に仕入れることが成功の秘訣である。」

という箇所がありました。
料理ということで連想したのかもしれませんが、
岩村暢子著「普通の家族がいちばん怖い」の「あとがき」に
板坂元氏の「よい材料」というのが登場するのでした。

以下それを引用。

「私は『次の中から当てはまるものに○をつけてください』式のアンケート調査がどうも苦手である。回答者に呈示される選択肢が、宿命的に調査官の経験に基づく想定(それを『仮説』という人もいる)を超え得ないからだ。」
「私たちの調査では、対象者が『行った』と言うことについては、必ず『写真』記録を求めることにしている。無論、本調査でもそうだった。特に多くの人がまだはっきりとは捉えていない新しい変化を調べるとき『写真』は欠かせない。自覚せずに行い始めている人たちにいくら言葉で『行っていること』を尋ねても、出てくるはずがないからだ。」

「では、語られた『言葉』は軽く扱うのかと言えば、それも軽視はしない。実はインタビューはすべてテープに録り、いつも『一言一句漏らさず、すべてベタで起こして下さい』とテープリライターに頼むことにしている。しどろもどろで堂々巡りの発言も、神社の『境内』を『場内』と言い誤ったのも、ひとこと言いかけてやめた沈黙も、自分にいちいち合槌を打ちながら話す人の癖も、すべてだ。・・・一般のグループインタビュー調査の発言記録のように、もし語られた内容を要約筆記したなら、分析上もっとも重要なヒントとなるはずだった所が跡形も無く失われてしまうことを知っているからである。生のインタビューで聞き取りたいのは、言っている論旨ではなく、その語られ方、そしてそう語っている気持ちの方だからだ。」

まるで、料理長が生き生きとした素材を捜し求める。そんな姿みたいです。
これを読むと、この頃やけに多くなったと感じる内閣支持率だとかいう新聞のアンケート調査の無責任さに思い至りるのは、はたして私一人だけなのでしょうか。
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養老三冊。

2008-12-14 | Weblog
今日の毎日新聞(12月14日)。
その読書欄は特集「2008年『この3冊』」。
各執筆メンバーが3冊を選び、お薦めのコメントを添えております。
う~ん。何か食堂のメニューを眺めながら、どれにしようかなあ。
と迷うような気分。目移りするのですが、豪華なご馳走はお腹にもたれるし、ここはひとつ、サラサラと読める新書がいいなあ。
などと食堂メニューからさがしたりするのでした。
そういえば、産経歌壇(11月30日)の小島ゆかり選に
こんなのがありました。

 秋風にぶるとわが身震はすとき深大寺脇の蕎麦が食ひたし
            横浜市 大建雄志郎

食堂のメニューに迷った時は、深大寺ならぬ養老孟司氏の「この3冊」。
ということで、養老さんの選んだ本とコメントを引用。

 気骨の判決  清永聡著(新潮新書)
 奇跡のリンゴ 石川拓治著(幻冬社)
 自然な建築  隈研吾著(岩波新書)

さて、コメントも全文引用。

「いつも重厚な本になってしまうので、新書を選んでみた。
『気骨の判決』は、学校で現代史を習わず、戦前の記憶がない若い世代にぜひ読んで欲しい本の一つである。裁判員制度も動き出すことだし。今年は森に関する本が多く出たし、来年も出ると思う。70年代の拡大造林の結果が出てくる時期になり、石油問題もあって、これからは林業の時代になる。『奇跡のリンゴ』は農業だが、木の話だから、似たようなことであろう。面白いから読んでみたらいかが。森の話は木をどう利用するかという、川下の話と切り離せない。建築家の隈研吾の考え方に注目する。」

さてっと。
食堂の定食メニューを見て、結局食べずに帰るという手もあります。
私などは、家に帰って備蓄してある食べ物を食べてから(笑)。
まずは、その保存食をたいらげてからにしたいのですが(笑)。
ですが、滋養と強壮によさそうな「養老三冊」でありますなあ。
今回は、がまん。
ここに、こうしてメモして、いつか古本で会いましょう。


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