乱鳥の書きなぐり

遅寝短眠、起床遊喰、趣味没頭、興味津々、一進二退、千鳥前進、見聞散歩、読書妄想、美術芝居、満員御礼、感謝合掌、誤字御免、

あしたは ひな祭【母、そして 京都のばら寿司とちらし寿司の違いを思う】

2010-03-02 | 民俗考・伝承・講演


        ばら寿司



 わたしが幼かった頃、ひな祭の日には毎年ばら寿司を作ってくれた。

 干し椎茸を戻して甘く煮る。

 にんじんや高野豆腐も同様。

 かまぼこや薄焼きたまごや上の材料を細く薄く或は細かく刻む。

 ちりめんじゃこも用意。



 適当に味見しながら甘めの寿司飯を作り、干し椎茸やにんじんや高野豆腐の刻んだものを混ぜ合わす。

 甘い酢の香りは幸せのにおい。


 
 ばら寿司用につくったすし飯の上にたっぷりの薄焼き卵をのせる。

 ふかふかの干し草の上に寝転んでいるようで、母の愛を感じる。

 黄色に敷詰められた錦糸卵の上には、甘い椎茸。

 かまぼこや紅生姜をのせる。

 ここで、黄、黒、赤。

 最後に母はとっておきの緑を出してくる。

 最近はあまり見かけない瓶詰めのグリンピース。

 ひと粒ひと粒を大切そうに箸でつまむ母。

 色合いを考え、構図を整え、まるで絵を描いているように彼女は緑の粒をおいていた。

 案外母の幸せはこんなところにあったのかもしれない。




 不思議なことに母はちらし(寿司)と呼び、根っからの京都人の父は ばら寿司と呼んでいた。

 わたしは母のつくった寿司をばら寿司と呼び、仕出し屋他でいただくものはちらし(寿司)と読んでいた。




 ところで京都ではちらし寿司のことをばら寿司と呼ぶ。

 また、ばら寿司のことをちらし(寿司)ともいう。


 

 家庭でつくるばら寿司或はちらし寿司は上に書いたようようにすし飯に具を混ぜ込む。

 上にのせるのは錦糸卵や野菜、かまぼこなど。

 一般的には海鮮類をのせることは無い。

 市場や大衆食堂で頼むとやはり家庭でつくるようなばら寿司が出る。




 ところが仕出し屋さんでちらし寿司を頼むと、海鮮類がのっているのが普通。

 いわゆる東京風ちらし寿司という。

 東山などの古い寿司屋へいくとこの混乱を避けるために 京都風ちらし寿司と東京風ちらし寿司といった表示がされている場合もある。

 京都の人ならば、ばら寿司とちらし寿司という表示だけで、京都風ちらし寿司と東京風ちらし寿司の違いだとピンとくる。

 うどん屋におかれた小皿のばら寿司はばら寿司と表示された店とちらしと表示された店がある。

 今まで気にもとめなかったことだが、他府県に住み ふとこんなことを思い出した。

 あしたは ひな祭。





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『雛』  三月、京都桂の茶屋 中村軒の雛、麦代餅を思う

2010-03-02 | お出かけ



          雛



 ほんの一時期、京都の桂に住んだことがある。

 桂川沿いには昔から続く茶屋があった。

 名は、 中村軒という。

 わたしはサイクリングがてら、子を連れて度々この店を訪れた。



 この店のお菓子では『麦代餅』が有名で、時にはこれを買うために列ができることもあった。

 麦代餅はつきたての餅の中に程よい甘さの柔らかめの粒あんが挟まっている。

 かたちは大きめのどら焼きの片方だけをおったような感じ。

 どことなく正月に食べる『花びら餅』を思わせる。

 店頭の棚に並べる直前にきな粉をふるいながら餅にかける。

 きな粉の香りがどことなく懐かしく感じる瞬間であった。



 それにしても『麦代餅』とは不思議な名だ。

 餅でつくったこの歌詞を麦の代わりの餅とは、餅が貴重なのか麦が貴重なのかと戸惑ってしまう。



 そもそもこの餅は百姓は野良の合間に腹の足しにと食べたという。

 片手で食べることのできる麦代餅は農繁期にはさぞ重宝されたことであろう。

 それを考えると、もとは麦でつくられたおにぎりのような形状であってもおかしくはない。


 
 勝手な想像をしたあとに 中村軒のホームページをみてみると、次のように説明されていた。




麦代餅は昔から、麦刈りや田植えどきの間食として供せられ、また、多忙な農家などでは日頃もこれが重宝がられました。

かつては、この一回分の間食が麦代餅二個でしたが、これを農作業の各田畑まで直接お届けし、農繁期も終わった半夏生の頃、その代金としてあらためて麦を頂戴しにあがったのです。(麦代餅二個につき約五合の割)いわゆる物々交換の名残でございます。

このように、麦と交換いたしましたので、「麦代餅」の名が生まれました。当店は昔も今も最高の原料を使用し、同じ製法を守り、販売いたしております。 どうぞご賞味下さい。




 わたしの予想は明らかに外れていたことになる。

 麦代餅二個につき約五合の割で物々交換したというこのお菓子を思うと愛おしい。

 本来の京菓子に比べて麦代餅の餡の甘さがかなり控えめでしっとりしている理由もわかり気がする。



 中村軒には麦代餅の他にもいろいろな種類のお菓子があった。

 不思議なお菓子のひとつとして、『紫蘇の葉を撒いたおまんじゅう』というのがあった。

 名前は思い出せない。

 このお菓子の塩加減のインパクトは強く、農家と密着した茶屋のお菓子だと感じたことを覚えている。



 中村軒には麦代餅と肩を並べてうまいのは『ぜんざい』。

 焼きたての餅の香りがよく、ぜんざいをいただきながらこの店が昔茶屋であったことを想像し、満喫していた。



 ぜんざいをいただくために少々暗い目の店を入る。

 間口の決して広いとはいえない店を入ると、光の差し込まない何とも情緒豊かな素敵な部屋。

 底にはところ狭しとおかれた古い威厳のある雛人形の数々。

 雛は一月から四月頃に限らず、この店では一年中おかれていた。

 古めかしい時代を思わせる雛はこの店の守り神のように感じたものである。



 三月。

 ひな祭を思い浮かべ、ふとそんなことを思い出した。



 

 
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