『人情紙風船』は歌舞伎『髪結新三』(原作 河竹黙阿弥)をもとにつくられた映画だった!!
★★★★★ ★★★★★ + 心ばかり ★★★
1937年 東宝
監督 山中貞雄
キャスト
河原崎長十郎(海野又十郎)
中村翫右衛門(髪結新三)
山岸しづ江(又十郎の女房おたき)
霧立のぼる(白子屋の娘お駒)
助高屋助蔵(家主長兵衛)
市川笑太朗(弥太五郎源七)
市川莚司(猪助)
橘小三郎後の藤川八蔵(毛利三左衛門)
御橋公(白子屋久左衛門)
瀬川菊乃丞(6代目)(忠七)
市川扇升(長松)
本日昼、テレビ放映の映画『人情紙風船』を見た。
何も知らずに題名にひかれて見た『人情紙風船』
芝居調の早口で息つく暇も無いくらいの長い台詞。
人と人の会話は人情味があり,一つ一つ丁寧に聞いていると静かではあるがコミカルで、わたしとしては笑いの渦がこみ上げる。
出だし快調。
若干 黒澤明の『どですかでん』と共通する部分がある。
山中貞雄監督『人情紙風船』 は 1937年
黒沢明監督 『どですかでん』は 1970年
いずれも東宝映画であったことを付け加えておきたい。
新三、新三と呼ばれている。
不思議に思い見続けていると,なんと!!!本当に『髪結新三』だった。
『髪結新三』とは歌舞伎でなじみの『梅雨小袖昔八丈』
大家の小判を数える
「いのこでいこう。ひの、ふの、みの・・・・・・。」
の場面や
「おい!新三!!どうする気なんだよおお!」
なんて台詞も無いし,筋書きもずいぶん歌舞伎とは違う。
映画『人情紙風船』は『人情』を軸に,全ての人間が『信念』を貫く。
『信念』
新三は親分に対し
娘を返せという申し入れを断る
親分は新三に対し
橋での殺害
浪人は毛利三左衛門に対し
白木やの娘を・・・A
白子屋久左衛門年と白木屋お嬢様
駆け落ち
又十郎の女房おたきはAと手紙(毛利とのいきさつ)を知り,(元)武士の妻として心中
全ての人間が『信念』に忠実生きているつもりが、人情にほだされ紙風船のごとくなるが方向に流される。
全ての人物画が『信念』と『人情』に生きたがために招いた不幸。
時として,物事の流れは広野人生を狂わすほどに残酷である。
ここで興味深いのは、親分の娘を返せという申し入れに対し新三が断る場面以外は全て画面上は出てこないと言う点。
素晴らしい。
しっかりと原作をふみ、新三を中心にことを運ぶ。
髪結新三!
いわゆる悪党なのだが,粋できっぷのいい,性格が男前の男。
その昔 悪の美学という美学が流行ったが,まさにそれである。
加えるならば,今様のちょい悪おやじとは少し違った方向性だ。
平たく言うなら歌舞伎『髪結新三』で出てくる初鰹が髪結新三の性格に通じると感じる。
「粋な男になりますよぅ。」
と手早く髪を結い上げながらの歌舞伎上の新三。
親分に切られる身の上を知りながら全ての懐の金銭を仲間にくれてやる。仲間に頼まれた傘を
「この傘を◯◯に必ず返しておくんなせい。」
と相手方子分に託し 負けの果たし合いに挑む映画での新三。
芝居と映画の表現の違いはあるが、わたくしの思い描くカッコイイ新三なのだ。
面白かった。見て良かった。
歌舞伎とは全く違った脚色で感動に値した。
1937年にこのような素晴らしい映画があったのだ。
録画しなかったことが悔やまれてならない。
映画を見てからこれを記録している夜11時に至っても、歌舞伎『髪結新三』を思い浮かべ、映画『人情紙風船』の余韻に浸るわたくし。
わたくしは映画『人情紙風船』が好みの映画であり、映画『人情紙風船』自体 邦画の中でも名作の一つと考えている。
今回もここではあらすじを省かせていただいております。
この記録もわたくし独自の感想ですので、まちがいやお気づきの点がございましたら,お教えいただけましたら嬉しいです。
最後までおつきあい下さいまして,ありがとうございました。