ドラクエ9☆天使ツアーズ

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ケジメ6

2022年10月01日 | 天使ツアーズの章(家族事情)
夫婦に。
唐突なその一言には、一瞬理解が追いつかなかった。
異国の言葉か。フーフとかいう珍味だか地方だかの話でもしだしたのかと思ったくらいだ。それにしたって唐突だが。
「はっ?!」
驚いてその場で固まっているシオの反応を見て、いやあの、と口の中でモゴモゴと言葉を濁して、手にしていた皿とフォークを木箱に乗せる。そして、きちんと座り直してもう一度。
「夫婦になろう」
「誰が」
「誰が、って。俺と、シオが」
「俺とシオがなんですって?!」
「だから、夫婦に」
「どうしてそれをあなたが言うのよ!」
「えっ、いけなかったか」
「私が言うはずだったのよ、それを!」
「えっ、なら別にどっちが言っても良」
「良くないわよ!この村では力が証なの!ドラゴンを倒してその牙を根本からぶっこ抜いて生涯の伴侶となる者に受け取らせて婚姻の証とするの!」
「なん、だ、それ」
「童話よ!!!!」
気が動転するあまり子供じみた言いがかりをつけている自覚はある。初めてでもあるまいし、結婚の申し込み如きでこんな醜態を晒すなんて、という屈辱もあったが、それよりも当たり散らされて困惑しているユーズに対しての申し訳なさからの自己嫌悪。それがあっての村に古くからある童話を持ち出しての軌道修正はあまりにも稚拙だ。外れていく話の筋をここから戻すには、と動転に動転を重ねてその場で回転するしかないシオの内心には気づくはずもなく。
大真面目にユーズは言った。
「俺はドラゴンを倒す前に死んでしまう」
だからそれだと夫婦になれない。と言う彼の主張に、今一度キレる。
「ドラゴンを倒すのは私よ!あなたは受け取る方!」
この村では女が主体なのだ、との激昂だったが「なんだそうか」となぜか安心してしまうユーズ。そしてトドメには。
「そのドラゴンの牙は、ミルク缶幾つ分だろうか」
という一撃を繰り出して完全にシオの空回りを止めた。
「知らないわよ!!ミルク缶がどれほどの重さかなんて!」
いや3つ分くらいまでなら持てると思う。掲げろ、と言われればちょっときついかもしれない、などとのたまうのには、開いた口が塞がらない。怒りを通り越して呆れるしかない言動も、彼にとっては大真面目なのだとわかった。
どういうことなの。今あなたは私に理不尽に当たり散らされてるのよ。それに対して思うところがそれなの。少しは気分を害しなさいよ、そっちが怒ってくれないと謝れないじゃないの。
という現実的な思考と。
絵本のようにドラゴンを倒し牙を抜いたとして安全な場所からノコノコ出てきた彼が血みどろの牙を掲げて婚姻を承諾する場面を重ね合わせて。
ミルク缶3つの方が重い。これは大した牙じゃないな。なんて言われた日には。
「あははは!」
思わず笑ってしまうかもしれないな、と考えたと同時に笑い声を上げていた。
なんなの!この男と添い遂げるの?相手はドラゴンの牙がどんなものかも知らない。私はミルク缶を運んだこともない。こんなにも生きてきた道は違うっていうのに?
突然笑い出したシオに、今度はユールの方が呆気に取られる番だった。
ああそうか。生きてきた道が違っても、これから生きていく道が同じになるのか、と思った。自分は、生きていく道を選ぶのではなく、生きていく人を選ぶのだ。

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