ドラクエ9☆天使ツアーズ

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ケジメ10

2024年07月03日 | 天使ツアーズの章(家族事情)
姉妹で夕食の後片付けを分担していたところへ、母と双子が戻ってきた。
「ええ?シオ姉ってば、戻ってたの?」
「なんで家で食事しちゃってんの?!」
炊事場でミオの洗った食器を拭いて仕舞っているシオの姿に双子の声が重なる。
そう言いながらシオの返事は待たずに、ミオへ向き直る。
「あんたさあ、シオ姉が帰ってきたら連れてくるでしょ普通!酒場に!」
「なんのためにあんたを残してったのよ、気が利かないわあ本当に」
「えっ、えっ、えっ」
「あーあ鈍臭さあ!ここまで鈍臭いとは思わなかった」
「あたしたち今まで酒場でシオ姉待ってたんだけど」
二人に詰め寄られて、ようやく自分の役目を理解したらしいミオがごめんなさいを連呼するのは昔から見慣れた光景で。そんな姉妹の様子には無関心らしく、さっさとダイニングの方へ足を向けてソファーに腰を下ろす母もまあ、普段通り。
気が利かない、というより、経験が足りてないんだわ。とシオは思う。なるほど、父とばかり過ごしていたミオには、三人は酒場に行った、と伝えることはできても、そこにシオを連れて合流しようとは思い至らないだろう。
でも。
「良いのよ、あたしが酒場に行く気分じゃなかった、ってだけ」
とのシオの言葉に、双子が面白くなさそうにブスくれながらダイニングのテーブルにつく。
「はーいはい、そうやってシオ姉が庇ってばっかで、どんくさがちっとも治らないじゃないのー」
「庇ってるんじゃないわ。行きたきゃ勝手に行くわよ、ミオを放ってでも」
「シオ姉の気分はどうでも良いのよ、今はミオが鈍臭いことに重きを置くべきよ」
「どうでも良く無いでしょうが。私が行きたくないものをミオがどうしようってのよ」
「そこだよ、シオ姉の甘いところ!これがあたしだったら、そんなに連れて行きたかったらぶん殴ってでも連れていくがいいわ、とか言う癖に!」
「そしてマジでぶん殴ってくるくせに!」
「それはあんたらのわがままがしつこいからでしょうよ!」
他愛無い言い合い、口喧嘩とも言えないただの文句の応酬が始まる。昔からのありきたりな光景。ミオといえば身を縮こまらせて物陰に隠れるか、父がいれば父の背中にひっついているかしているのが当たり前になっていた日常だったけれど。
「皆様!お疲れ様です!!お茶を淹れました!お茶で穏やかに!和みましょう!」
と、ミオがトレイにティーポットと人数分のカップを用意して入り込んできたのには、誰もが我を忘れ、奇妙な静寂がその場を支配した。
それも一瞬。
「なあぁにが、和みましょう、だ!?今あんたの文句を言ってんだわ、こっちは!」
「あんたへの文句のせいで和めて無いんだわ!判れ!」
「は、はいぃっ、すみませんすみません!」
あら意外と。と、シオは妹たちを見る。打たれ強くなっているようなミオも意外だが、それに対する双子もなんだか昔とは違うような。
そこに母の声。
「おや、良い香りだ」
ソファに身を預けて、こちらの騒ぎはどこ吹く風、を決め込んでいた母が少し身を起こしたのをきっかけに、ミオがお茶を注いで回る。
「お、お茶です」
と、真っ先に淹れたハーブティを母の元に届けるだけで、緊張している末の妹。
「見りゃわかる」
とそっけなくあしらわれて、「は、はい」と、すごすご引き下がっている様子には助け舟を出すつもりもない。
皆んなが戻った時に、一息つけるように、と準備をしていたのはミオの気遣いだ。
後片付けをこなしながら、酒の余韻を邪魔しないような茶葉を選んで湯を沸かして蒸して、帰りを待つことができる。決して気が利かないのではない。
「あ、ほんと、これ良い匂い。あんたが買ってきたの?どこの?」
「えと、砂漠の、ご城下の月初の市で、行商に来られてる方が、東から来たって」
「あー、まどろっこしい!砂漠ね、砂漠」
気が合わないんだわ、単純に。
「あ、砂漠、じゃなくて」
「良い、良い。またなんかあったらあんたに買ってきてもらうから」
「あ、はい!喜んで!」
使いっ走りをやらされて喜ぶな。
対等に、とはまだまだいかないのだろうけれど。
昔のような、あからさまな弱者と強者という割合でもなく。
(可笑しい)
と少し笑う。双子は、いつもミオは庇われているというのが不満のようだけれど。もうその不満は形だけのものになっているのかもしれない。
「シオ姉は呑気に笑ってる場合じゃないのよ」
「そうよ、今日だって酒場でシオ姉の結婚相手は誰かって盛り上がってたのに」
「なっ!!?」
盛り上がってた、じゃない。盛り上げた、だ。絶対。その話を持ち込んで酒のアテにされているくらい、わかりきっている。
今までもそう、母が戻っている今なら特に母の取り巻きや、同士が村に集まっている。母世代の女性たちにはシオもよく面倒を見てもらっていただけに頭が上がらなかったりするのだ。
「絶対、行かないわ!」
「でも大体見当はついてる、って言ってたわよ」
「はあ?誰がよ!?」
「ジャヘイラ」
ジャヘイラーーーー!!!
母より3つ上の女性、村の中心部で長老会の筆頭だ。もちろん、シオも幼い頃から可愛がられ、独立するまでは彼女の右腕として信頼もされていたほどの仲では、結婚にもあれこれ口やかましかったのだが。最近ではすっかり興味を失われたものだと思っていたのに。
「牧場屋の倅だってね」
という声に、その場の全員が母を見た。
母はしれっとお茶を啜ってみせる。シオの返答次第では、よからぬ何かが勃発する。そんな空気、母と娘だけが感じる緊張がそこにあって、シオは腹を括った。
「そうですけど?」
それが何かあなたに関係ありますか?という虚勢は、母にはまるで関係がなかった。
あったのは双子の方だ。
「はああ?!牧場、牧、……ユール?!あの?!」
「行商の?うどの大木のユール?!」
ああ、もううるさい。双子のこの反応は大体予想がついていた。姉には、一国の皇女さえもが羨ましがって一月かけて村まで見にくるほどの男(誰だそれは)が婿入りするはずだ、そうでなければ認めん、などと常日頃ほざいているくらいだから。
「うるさい。黙れ。母さんのそれはどこ情報なのよ」
やはりジャヘイラ、その取り巻き当たり、と年配の女性らの抜かりのなさを失念していた自分に苦いものを感じていれば。
「あの人だけど?」
とこともなげに言われて、ぐうの音も出ない。
(父さんんんん…!!)
当然か。
父がそれを秘匿する理由はない。
シオの意思を伝えたことはなかったが父には全てお見通しだというだけ。
「えええー、まじなの。まじで、あれなの。あの、なんの取り柄もない行商しか能のないぬぼーっとした、あいつなの」
「もはや言い表す言葉が、男というだけしかないような、あんな普通な男のどこが良いのよ」
うなだれテーブルに突っ伏している姉にかける言葉がそれか、とシオは双子に向き直る。
「普通のところよ」
どこにでもいるような、ありふれていて、当たり前のもの。そこにあるのが当然の、なんの疑問もない、そんな人が自分を選んでくれるという、それこそがシオにとって何にも変え難い、「特別」。特別の中の、一等級の普通。
「普通なのが良いのよ」
という地を這う声音での答えに、双子はそれでも不服そうで。
仕方ない、シオだって、ついさっきそこに辿り着いたわけで。
「ええー、理解できなーい。誰でも良いんじゃーん、それ」
「ホントだよ、最終的に選んだのがそれって、逃げ打ったのかって言われんじゃん」
わかってもらえるとは思っていないが。
「うるさいな!あんたらのために結婚するんじゃないんだわ!!」
「ううわー、結婚する気だ」
「マジでする気だ、あれと」
する、っつってんだろうが!とシオはキレた。
「言っておきますけど!確かに私は、ミオが一人前になるまでは結婚しないって言ったわよ!けど結婚するからには、私が選んだ世界中でただ一人の男とするわよ!私の意志で!宣誓とか、ケジメとか関係ない、私の!意志で!」
熱が入るあまり、立ち上がって、倒れた椅子の音も聞こえなかった。
部屋にしばしの静寂。
なんだこれ。ああ、なんだか最近よくこんな雰囲気になるな、この家。うん、まああれだけど、原因はミオだったけど。え?いや、あれ、これ、私ミオみたいじゃない??
キレ散らかして我にかえる。末の妹を見るなり。
ミオは、口を半開きに目を潤ませている。何やら感極まって、また何かやらかしそうだ、とこっちが冷静になったのも束の間。
「うん、まあそれが聞けたから、良いわ」
「そうね、シオ姉が自分でそういうの、待ってたんだわ」
と双子に言われて、そっちを振り向く。
「はあ?!」
そこに母の声。
「まったく、世話の焼ける長女だね」
それに追従する双子。なんだか理解が追いついてなくて首振り人形のように全員の顔を見回している末の妹。
「な、んだ、って?」
「シオ姉が腹括ってくれるの待ってたら、老婆になっちまうよ、ってジャヘイラが言うもんでさあ」
「どうすれば腹括ってくれるだろうねえ、って話してたんだけど」
「もう全員で言いくるめるしかないから連れてこいって話になって」
「いやあ、ユールだとは思わなかったからびっくりしたわ」
「びっくりしたけどなんかうまくいったわ」
嵌められた。
酒場での酒のつまみは、シオの意中の相手探しではなく。
結婚宣言への布石だったわけか。
「ジャヘイラたちがそれ一番聞きたかったと思うよ?」
「ホントよ、いっつも村にいない母さんがちゃっかり良いとこどりしてるわ」
まあジャヘイラは母親ヅラしてたから悔しがるだろうよ、と母は鼻で笑う。
「できる女、ってのはこういうことよ」
なんて言う得意満面に鉄球をぶちかましてやりたい。
「母さんをできる女だと思ったことなんかないわ!母さんのは、狡い女っていうのよ!」
「ああ、はいはい。負け犬の吠え面かいてないで、とっとと式の日取りを決めてくれないかね。こっちにも、色々と準備、ってもんがあるんだよ」
憎ったらしいたらありはしない。母には勝てない。喧嘩のやり方、なんてミオにしたり顔で言っておいて、それを一番わかっているのは自分だ。
「だ、誰が式をあげるって言っ」
「うわ、恥知らずにも式を上げないつもりかい?!それがどういう親不孝か、わからない阿呆な娘だとは思わなかったわ」
「お、親不孝って」
「花嫁の父になる名誉も与えられないとか、村中でうしろゆび刺される父親にするつもりなの、あんた」
あんなに育ててもらっといて、というのには、さすがに反論できない。
「父さん、には、ものすごく育ててもらった恩があるわよ、そりゃ」
でもそうなったのはそもそも母さんが。母さん、が、準備?準備って?
「準備って、何よ?」
「はあ?あんた村の結婚式、なんだと思ってんの。その家の権力をこれでもかと村中に知らしめる一大行事だよ。下はもとより上は長老会までももれなく全員一人残らず、平伏させてやるわ!」
「カー!!かっこいい!それでこそ母さん!!全面協力を惜しまないわ!」
「良いねえ!痺れる!!私もなんでもやるわ!母さんについてく!!たのしみぃ!!」
ちょっとやめてよ!!と必死なシオの講義も虚しく、母と双子はそれぞれが考え得る最高権力を見せびらかす算段で盛り上がる。
これが。これが、結婚を延ばしに延ばしたシオへの当てつけだけで行われるというのだから、恐ろしい。
暖かく祝福してくれ、とは言わない。そんな柄じゃない。だが何かが違う。と、震えるシオに、末の妹が近づく。
「お、お姉さん」
そうだ、味方がいた。唯一の味方、といえば頼りないが、シオの考えられる範囲内での常識人が、ここに。
「ミオ、あのねえ」
「私っ、お姉さんの花嫁衣装を作るお手伝いがしたいです!!あっ、多分、お父さんがドレスを作りたい、っていうと思うんですけど!ブーケ、ブーケなら良いですか!?それとも、ベールを作らせてもらっても?!」
だめだ!こいつも味方にならない!!
「お!なかなか根性あンじゃん、見直したよミオ!村の伝説になるくらいの、なっっっっがーいやつ作ってしこたまビビらせてやろうぜ!」
「はいっ頑張ります!」
頑張るな!!
グラグラする頭を抱える。こうなったらもう、おそらく、父も味方にはならないだろう。権力を誇示する結婚式へと、家族総出でまっしぐら、だ。
逃げちゃおうかしら。
それ以前に、結婚相手が逃げちゃわないかしら。と、シオの結婚相手、ユールの顔を思い浮かべる。
いやあの人は、逃げない。それどころか、生真面目に、自分はどの部分を手伝うべきだろうか、と伺いにくるだろう。
ああ。わかっている。腹を括った以上、もうどの方向にも引くことはできないことくらい、わかっていたのだ。
今のシオにはただ、こんな大事になるなんて!!という虚無を抱くのみ。
それを横目に、母が鼻で笑う。
「何しけた面してんだい。最高の親孝行をさせてやろう、ってんだから、もう少し気楽にできないもんかねえ」
勝手を言ってくれる。
そうだ、ここで引いてはならない。母への闘争心だけでシオはここまでやってきたのだ。死ぬまで、母と娘を繋ぐのは闘争心であるのみ!!
「そうね、ありがたいと思うことにするわ。いつ帰るか知れなかったことを思うとね、親孝行させてくれる、っていうんなら、老後の看取りまでしっかり介護させてもらうわ」
娘として精一杯の虚勢。母に弱みは見せない。という一心で口から出た自分の言葉に、シオは胸を突かれる。
そうだ。母も、娘に弱みを見せはしないだろう。老いていく己を、かつて競い合った相手である娘の手に委ねることは屈辱ではないのか。それを良しとせず、村の女は老いてなお戦いの場へ死地を求める。祖母がそうだったように。村の外へ出て。
また父を一人にしてしまう。
そんなシオの胸の内を読んだように、じっと視線を合わせてきた母に言葉を失う。妹たちも、その空気に押し黙った。何度目かの静寂。
それを温度というなら、冷えたそれが嘘のように、ぬくもりに変わる。
母が、見せた微笑は、おそらく母性。
「そうだね、最期の最期まであんたに面倒かけてやるとするかね」
シオだけに感じ取れた母性。永遠のような、一瞬。
「それ、どういう」
どういうつもりで言っているのかわかっているのか、との問いに、いつもの皮肉な笑みが戻ってきていた。
「どうもこうも?言葉通り。あんたの厄介になるってんだわ。もう村で一生を過ごす、って言ってんのに、いつまでも信じない子だね、あんたは」
「だって、母さんなら」
「それがあの人との約束だからさ」
父さん?と、娘たちは、母を見る。
一人、村で妻を待ち、娘を待つ父。家族の、帰る場所を守る唯一の存在。
「好きに生きればいい、だけど死ぬ時は必ずここに帰ってくることが条件だ、ってね」
親の役目も妻の務めも放り出して好き勝手生きることは許しても、一人死にゆくことは許さないというのが父の、ただ一つの願いだったのか。
祖母の最期を看取れなかったことが父を悲しませていたのか。
「村の女は老いを理由に己が弱ることを許せない。母もそうだっただけよ」
「そんなのは、あんまりですよ」
祖母の墓参りで涙を見せた父の背中を覚えている。あれが堪えたのか。娘たちに同じ思いを味わせまいと思ったか。
そこには、娘だからと言っても踏み込めない心情がある。
なぜなら。
「それが、あたしのケジメだね」
だから最期はここで。
最期まで、ここで。
「わかったわ」
その覚悟を受け止める。
「母さんが厄介なのは、もうそれはそれは十分にわかってるのよ。老いては子に従えってね、ケジメだって言うなら、この先存分に思い知ってもらうわ」
「はっ。結婚式ごときでうだうだ逃げ回るようなケツの青い小娘にしちゃ大口叩いたわね。後悔するんじゃないよ」
「こっちのセリフよ」
父に感謝する。
母を繋ぎ止めていてくれたのは、父のそのたった一つの約束。
どうしようもない母親だけど、母親としてはとんでもない生き様だけど、シオにとってはそれで十分。
遠い星のような輝きで魅了しては、流れ星のように消え去ってしまうのでなくて良かった。
文句を言い合える余地を残していてくれて。
「ありがとう」
今、正面きって言える。
母と、妹たちに向き合って。
「最高の結婚式にしてくれる、ってんならせいぜい楽しみにしてるわ。私と私の夫の名を汚したら、赦しはしないわよ」
それに応えるのは、双子の歓声と、末妹の嗚咽。
母の皮肉な笑み。
それらを守ってくれた、父の存在。
丸っと全部、これが私。私を持って、あの人と結婚する。










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