こころの声に耳をすませて

あの結婚生活は何だったのだろう?不可解な夫の言動はモラル・ハラスメントだった…と知ったウメの回想エッセー。

私の怒りマグマ

2005-12-22 23:19:12 | モラ脱出への道
 思えば私は随分辛抱強い性分だったと思う。長い間夫からのモラハラ攻撃にも耐え続けてきたというか、感じないようにしてきたのだ。しかし結婚7年目になり、私の中では我慢を通り越し、無気力になり、投げやりになり、そして沸々と怒りが湧き出てきた。
 夫と一言も会話を交わさない日々、夫の冷徹な表情、虫けらでも扱うような態度。こんな夫にどう思われようと、もうどうでもよくなってきたのだ。ここまで無視され、夫から嫌われているのに、どうして私がいつもご機嫌伺いしなければいけないのだ!

 既に以前からしていることだが、私も必要最低限のことしか言わなくなった。無理に話すのはもうやめた。そして自分の部屋で1人で寝た。
 夫から「おまえは本当に最低だな」と言われれば、「そう、私サイテーの人間だから」と答え、「おまえはバカか」と言われれば、「そう、バカだからわからないの」と答えた。つまり、夫の言うことに反応するより、オウム返しで同調することにした。すると夫は「自分で言うな」とあきれて、ますます何も言わなくなり、私はその分楽になった。
 例えば夫が連絡なく帰りが遅くなり、私が作った夕飯を「いらない」と言う。以前の私だったらがっかりした顔をして、もったいないから夫のおかずはラップをして冷蔵庫にしまっていた。しかし、その時の私は夫の目の前で、そのおかずをバサーッとゴミ箱に捨てた(もったいなくて心が痛むのでありますが…)。つまり私も夫に「NO」という何らかの意思表示を表そうとしたのだ。

 私が何かを夫に問いかけても、返事もなく出かけていった朝、私は怒りがこみ上げ、洗ったばかりの夫のワイシャツを出し、足で何度もぐりぐりと踏みにじり床に叩きつけた。ひとしきり足蹴にした後、ワイシャツにアイロンをかけた。冷えた心でアイロンをじっくりとあてた。ある時は、夫がいなくなってから、夫のカバンや雑誌を蹴りまくり、踏みつけた。物にでも当たらないと、私の怒りは収まらなくなっていた。

 夫と会話のない毎日、そしてまたつまらないことで夫が恐ろしい形相をして私に文句を言った。私は一応夫の気が済めばと思い謝ったが、今度は私の気が済まなくなっていた。目のくらむような怒りとひりひりする後頭部。しかし夫に怒鳴りつけるような勇気はない。私は夕食の片づけの後、台所の包丁をひとそろい出した。そして水道の水をタラタラと垂らしながら砥石を置き、ゆっくりと包丁を研いだ。シャーッ、シャーッと包丁を研ぐ。切れ味を指先で確かめながら、一本、そして一本と研いでいった。その時の私は静かな怒りに燃えていた。とても冷ややかな顔をしていただろう。私は包丁を研ぎながら思う。これで夫を刺したらどうなるんだろう。でも、と私は思う。私の人生が終わりになるだけだ。私の名前が新聞に載る。そして親や友人は驚き悲しむだろう…そう、こんな奴のために私も、そして他の人も不幸にしてはいけない…。そんなことを考える。そのとき、夫はさすがに静かだった。私を横目で見て、そそくさと自分の部屋に引っ込んでいた。夫が私の異様な雰囲気を感じてくれたら、私はそれで満足だった。

 このように、私は怒りが溜まると物に当たるようになった。といっても、やはり夫が恐かったので、夫がいないとき、夫の物を蹴りまくっていた。そして夫がいるときには話さない、オウム返し、そしてたまに包丁研ぎを行った。こんなことする自分も、自分で恐いなあ、と思ったが怒りがなかなか収まらなかった。

 また、夫が突然事故にでも遭って重傷で入院してくれないかなあ。あるいは昇天してくれてもいいのに、と物騒なこともよく思った。とにかく夫から逃れたかった。しかし私が逃げるというより、夫を何とかしたかったのだ。「そこまで思ってしまう私自身は何なんだ、そう思うくらいだったら離れた方がよっぽど建設的なのに…」と自分自身に苦笑したりもした。同時に家庭内での殺人事件を思った。こうやって逃れることもできないと追いつめられ、視野狭窄に陥り、犯行に及ぶのだろう。私も我を忘れてしまったらどうなるかわからないな…。自分の狂気を見せられたときでもあった。

 しかし私は夫に怒りを感じつつ、夫に怯えていた。そしてそんな自分も腹立たしかった。私は少し夫との事情を知る友人に、夫への怒りが止まらないことを話した。「このままじゃあ、私が夫を殺すか、夫が私を殺すかまでになるかもしれない」と。友人は静かに言った。「そこまでして一緒に暮らす意味あるの?ないんじゃないの?」と。

 そうだ。私は怒りながら夫に執着していたのかもしれない。私のささやかな反抗で夫が変わるとでも思っていたのだろうか。いや、変わらない。変わりっこないことは、何度も何度も嫌というほど思い知らされたではないか。

 私はこのまま怒りを抱えて、どうなるのだろう…。やはり夫と離れた方がいいのか…。そんな思いがぐるぐると巡っていた。